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到着

作品中に専門用語が出てきますが後々物語に支障がないレベルで説明しようと思っているので、とりあえずはスルーしてください

 エアボードは島の端にある拓けた場所へと着陸した。


「……人工島って書いてあったんだけどなぁ」


 エアボードから降りて、ハヤテはまず周囲を見渡した。


 まず目に付くのが覆い茂る木々だ。どれも太い幹を持っていて、簡単には切り倒せないような樹木ばかり。それが奥までぎっしりと詰まっている。獣すら通るに苦しむのではないだろうか、とハヤテは思った。遠目から見た限りでは椰子の木のように細い幹かと思っていたが、とんだ見当違いであった。


(どんだけあの大樹がばかでかいかって話ね……それと、どうやら生えている木は一種類だけのようね)


 個体差があるように見える木々だが、葉の形、色合い、根の張り方など、細かいところを見ていけばそれらが同じであることが分かった。そして、どうやら同じ種類の木が奥まで続いているらしい。もしかすると、この島を覆っている木々は、すべて同じ種類なのかもしれない。そうハヤテは思った。


「おねーちゃーん!」


 呼ばれて振り返ると、すでにソラは先へ進んでいた。ハヤテは目を丸くする。その道だけ真っ直ぐに通っていて、まるでそこの空間だけ木々が生やすのを嫌っているかのように見える。


「ちょっと、先に行かないでよ! 危ないでしょ!」


「へーきへーきー!」


 そして、ソラは先へと走っていってしまった。


 ハヤテは焦りを感じた。


「あ、ちょっと――」


「大丈夫だよ。この道は真っ直ぐだから、迷うなんてことはない」


 カイがトランクを一つ降ろしながらそう言った。


「それに、遊び回ることこそがこの学校の真髄だしね」


「それでも怪我するかもしれません!」


「おいおい、少しは自分の妹をしんじ――」


「あの子は私が見守らないと危ないんです!」


 そう叫んで、ハヤテはソラを追っていった。


 残されたカイはため息を吐いて、頭をかく。


「全く……あれが今後の課題だな。心配するのはいいんだけど……」


 頭を振る。


「いや、今はいいか。とりあえず、荷物を運ばないとな。はぁ……重たいなぁ」


 やれやれと不満を漏らしながら、エアボードから残りトランクを降ろそうとした時、


 枝の折れた音が鈍く響いた。


「お?」


 カイの目の前に、一人の少女が勢いよく着地する。その反動で少しばかり土埃が舞った。


「けほっ、けほっ」


「あ、すみません。先生!」


「あぁ、いいよ……むしろ、ちょうどよかった。手伝ってくれないか、タマさん」


「――はい、無論、そのつもりで来ましたわ!」


 にっこりと笑う少女は、青を基調とした色鮮やかな着物を着ていた。黒い長髪は腰にまで届き、穏やかな趣を醸し出す。彼女を一言で表すならば、大和撫子がふさわしいだろう。


「ところで、先ほど大声で誰かの名前を呼びながら走っていた方を“上”から見たのですが……」


「あぁ、その子とその子が呼んでいた子が、新しく入った仲間だよ――いや、ハヤテは違うかな」


「ハヤテさん、というのが走りながら呼んでいた方ですね。とすると、もう片方の子がソラさん……しかし、違うというのは?」


「あぁ、ソラちゃんはここに入ることはもう決まっているんだけど、ハヤテはまだ決まってないんだよね。どこの教育重合組織エデュニティにするか。本人が決めるのが一番なんだけど」


「はぁ……」


 カイは体を伸ばした。


「とりあえず、来てくれて助かったよ。早速だけど、このトランクたちを運んでくれないかな。僕はもう疲れた」


 男として情けない言葉を吐いてカイは諸手をあげた。


「はい、分かりました」


 にっこりと微笑んで、タマと呼ばれた着物の少女は、トランクに歩み寄り――片手で持ち上げた。


 重量が軽く三十キロを越えるトランクをだ。


「あぁ、いつもながら頼りになるよ」


「随分重いトランクですのね……何が入っているんですか?」


「家具とか、ベッドとかその他」


「へ? そういうのは、宿舎にありますよね?」


「そうだね。でも、ソラちゃんは使い慣れたものでしかダメらしいんだ」


「それは、眠れないとかそういう感じですの?」


「いいや。ハヤテちゃん曰く、いつものと違うと、泣いちゃうんだって。そして、泣いちゃうと……大変なことが起こる」


「大変なこと、とは?」


 ズーン……と、鈍い音が辺りに響いた。木々の奥から光が漏れ、遅れて揺れが木々を、地面を揺らす。


「……ちょうど起こったみたいだよ。大変なこと」


 軽い調子でそう言うものの、カイは目を細めていた。


「さてさて、新しく入った問題児をどう対処するかね、っと……」


「ともかく、先生は行かなくてよろしいんですか?」


「そうだな」音がしたほうに体を向けたが「……いや。ソラに限っては、できるだけ放っておくことにしよう」


「まぁ」


 と、タマは目を丸くした。「珍しいですね、先生が放っておくなんて方法を取るなんて」


「怖くないか?」


 カイが顔を向けて問いかけると、彼女は首を振った。


「ぜーんぜん、ですわ」


 穏やかに微笑む。


「先生の言うことなら、私、信じられますもの」


「ははは……随分買いかぶられたものだな」


「買いかぶりなんて、そんな」少しばかり頬を膨らませる。


「そういや、まだヒカリを見てないなぁ」


 周囲をキョロキョロと見渡す。


「いつもなら僕のところに飛び込んでくるんだけど」


 カイがその名を口にした途端、明らかにタマは不機嫌な表情を浮かべた。


「あの子なら、『探検』の最中ですよ。そのうち先生のところに飛び込んでくることでしょう。先生のお望み通りに」


「ん? タマさん怒ってる?」


「別に、何でもありませんわ」


 言った後、タマはそっぽを向いて小さく呟いた。「カイの……バカ」


 しかし、カイはそれに気づかずシミジミとした調子で言う。


「そうだなぁ。あの子たちがここに来て一番の楽しみと言えば、ハヤテとあの子が出会うことかもなぁ……」


 そう言って歩み始めた。


 慌てて、タマは追いかけた。


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