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ソラの病

作品中に専門用語が出てきますが後々物語に支障がないレベルで説明しようと思っているので、とりあえずはスルーしてください

 新たに来たエアボードに乗り込み、三人は引き続きDクレイドルへと向かう。


「……正直驚いたわ」


「さすがの君でも僕の正体には目をまん丸くするようだね」


「うるさいわね。蹴るわよ」


「教師に対する暴力は学級崩壊の源だと思うな!」


「まだ私所属してないし」


「……盲点だ」


「あんたはアホか……」


 こうして見るとハヤテがカイに気を許しているように見えるが、実際はカイの軽いノリに合わせているだけである。目の前の人物が少なくともこれから妹が世話になるところの責任者であるので、最低限の対応すらしなかった結果、ソラが不遇な目に遭う、なんてつまらないことが起きないようにしているに過ぎないのだ。


 まぁ、目の前の人物が実際そんなつまらないことをするかしないか言えば、しないとハヤテは言う。ただ、念には念を、といったところである。


 呆れ顔をカイに向けていると、ハヤテの膝枕で眠っていたソラが身を起こした。


「んん……あぁ、お姉ちゃんおはよう!」


 にぱーと笑うソラ。


「おはようソラ。今回は早いのね」


「今回は、ね」意味を含ませた物言い。「いつもはどれくらいの長さで眠っているんだい?」


「どうしてあんたに――」


「僕がこれからソラちゃんが所属するDクレイドルの教師だからさ。それと、症状は手渡された資料よりも、実際に目の当たりにしている人から訊いた方がいい。これでいいかい?」


「……むぅ」


 確かに、妹の症状を知っていないと色々不便なことになるだろう。抽象的で不明瞭な説明しか書かれていない資料より、実際に身をもって体感している人間から聞くのは至極真っ当なことだ。そればかりは否定することができない。


 ただ……少し気にくわない。


「あはは、お姉ちゃん頬ふくらんでるぅー」


「膨らんでないわよ!」


「いや、若干――」


「あんたは黙れ! 教えるから!」


 全く、と一息いれる。ソラが上機嫌ですりすりと身を寄せるのを受け入れ、ついで頭を撫でつつ、ハヤテは口を開く。


「で、どこまで知ってるのかしら? その、ソラの病気について」


「基本的なところしか。つまり、理性よりまず感情を優先される症状であるということ。常に喜怒哀楽を表していて、仏頂面という言葉と全く縁がない病であるということ」


 ハヤテは「んー」と幸せそうに自分に身を寄せるソラを見る。その表情は暗い。


「ほんとに基本的なところだけなのね。……あなたもとっくに気づいていると思うけど、ソラはまず笑うの。何か言って笑うのではなく、何かがおかしくて笑うわけでもなく、まず笑ってから何かを言うの。……何かを考える前に、まず感情が先に表れてしまう病。それが、ソラが患ってる病――『情動不可抑制症候群コンティニュアルインパルス・シンドローム』。原因は脳にあると言われてるけど、まだ具体的なメカニズムが解明されてない病よ。それが解明されない限り、ソラは自分の感情に支配され続けるの……たとえ、感情を表情に出すのに疲れ果てて、一日に何度も眠ってしまっても、ね……」


 ハヤテはカイに顔を向けた。


(せっかく、目の前には責任者がいるんだ。訊くだけ訊いて、損はないだろう)


「……Dクレイドルってどういうところなの? そこでソラは幸せになれるの?」


 試しに訊いてみただけである。本当は、どっちだってよかった。


 ただ、ソラはすでにDクレイドルに入ってることが確定している。ハヤテにとっては、それだけが受け入れなくてはならない事実だった。


 そうであったはずなのに。


「どういうところかは、百聞は一見にしかずってね。見れば分かるさ。幸せかどうかを感じるのは、本人にしか分からない」


 「ただ」とカイは不敵な笑みで、ハヤテを見据えた。


 ハヤテは自分でも分からないが、身震いを起こした。


「僕はDクレイドルに入った問題児たちを、全員幸せにしようとは思ってるよ。この身を賭けてね」


 その姿勢は自信で漲っていた。この人物は、本当にDクレイドルに来た子どもたちを幸せにするつもりなのだろう。理屈ではなく、感覚でそう思えた。


 依然として不信感が残る。だいたい目の前の人物がDクレイドルの校長兼教師である根拠もない。実際そうであったとしても、ソラが本当に幸せになるのか、まるで論拠がない。


 だが……不思議なことに、こいつがいるDクレイドルは他の奴よりかまだマシかもしれないな、とハヤテは思うのだ。


 だから、ハヤテはクスリと笑った。


「問題児、か……」


 嬉々としてカイは答える。


「そうさ。Dクレイドルに入らせる子は、今の全体奉仕主義的社会――〈知の全体会〉から見れば、問題児に他ならない。あそこにはいろんな問題児がいるよ。そして、問題児であるということは個性的であるということだ。君も会うのを楽しみにしているといいよ。特に、君と同い年の子なんてね」


「そうね、楽しみにしておくわ」これだけ終わらすのは心象が悪くなるだろう。「――変わっているというと、あなたも相当変わってるわね」


「何が?」


「だって、Dクレイドルは『社会に害を与える子どもを監視、更正させるため』の組織でしょ? そこの教育者であり、責任者でもあるあなたが、個性があるから楽しみにしろ、だなんて……なんだかおかしいわ」


「そりゃ、まぁ……面目ない」


「どうして謝るのよ」


 ハヤテはクスクスと笑った。


 自分で笑って、驚いていた。


「お姉ちゃん、楽しいのー?」


「楽しい…………そうね、どちらかと言うと嬉しいかな」


「嬉しいの?」


「えぇ、だって――他のDクレイドルとは、理念が一線画しているところへ向かうんですもの」


 その理念とは何なのか、大方の予想がついた。そして、そこならばソラを預けるにはまだいいかもしれない。ハヤテはそう思った。


 ハッと我に返る。


(――預ける……? 何を言っているの? ソラは私が守るのよ。他人に任せてどうするの。校長兼教師の自信がなんだっていうの? そんなの犬の餌にもなりゃしないじゃない。なんで、そんなことを考えたの? 何を考えているのよ、私は……)


 その時、AIが間もなくDクレイドルニホン校に到着するという旨をアナウンスした。


「窓を見てごらん」


 カイが促し、前方の窓に顔を向けると、ソラは歓声を上げた。


「わぁ! すごい!」


「……へぇ」


 ハヤテは驚きを出さないようにしつつも、内心では目を丸くする思いだった。


 眼前に広がっていたのは大きな島だ。それも、木々が生い茂り、巨大な山が鎮座している。山はモクモクと白い煙を吐き出し、山肌にもびっしりと緑が覆っていた。


 そして一際目をつくのが、一本の大樹。見た限り大きく枝を広げている広葉樹としか分からないが、一体どれぐらいの大きさがあるのであろうか。山の半分の高さがあるように見える。他の木々と比べても、あまりに突出していて、比べものにならない。あの大樹と比べてしまえば、森などまるで草むらのようであった。


 あれは何だろうか?


 そう疑問に思っているうちに、エアボードはぐんぐん島へ近づいていく。


「ようこそ。僕たちのDクレイドルニホン校へ」


 カイは自信に満ちあふれた声で二人にそう言って、迎えたのだった。

 

できるだけ直してますが、展開はそのままであるので性急であるかもしれません。今後書きながら直していこうと思っているので、ご了承ください

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