少女、母星へ降り立つ
作品中に専門用語が出てきますが後々物語に支障がないレベルで説明しようと思っているので、とりあえずはスルーしてください
地球人類の生まれた星である地球にまではあと少しと迫っている。
次に〈跳躍船〉がジャンプゲートを潜ったとき、この船は太陽系に着くことを橙と黄色が入り交じったショートヘアを持つ少女――ハヤテはアナウンスで知っていた。橙と黄色の境目がグラデーションになっているその髪が、跳躍の衝撃によって微かに震えた。
「着いた……のね」
ずらりと並んだ旅席の一角で、彼女は頬杖をつきながら手元にある機器を操作する。彼女の全身像――真新しい白の長シャツ、クリーム色の半袖の上着、短パン、太股まで届くニーソ――が薄らと映っている画面に太陽が映し出された。
目に悪くない程度に調整されながらも、龍のように舞い上がるプロミネンスやちょうど爆発したばかりのフレアまではっきりとリアルタイムで流れている。
自分が見るために映しだしたわけではない。
「ほら、ソラ。きれいだよ」
「――わぁっ!」
ソラ――ハヤテより二歳下の妹――は、興奮した様子で映し出された太陽を覗きこんでいた。体の動きに合わせて栗色の髪がぴょこぴょこと跳ね、ドレスのようにふわふわしたフリルのワンピースも動く。
「すごいきれいなラウスだね! ここでは黄色じゃなくてオレンジ色なんだぁ」
くすりとハヤテは笑った。
「ソラ。ラウスは私たちが住んでた星にしか通じないわよ。ここでは太陽っていうの」
「太陽……いい名前だね!」
太陽に引けを取らない明るさでソラは笑った。
ハヤテは微笑みを浮かべる。
「ソラは……ラウスが見えない場所でも平気?」
「うん! だってお姉ちゃんがいるから!」
ソラの言葉が嬉しくて笑顔をこぼした時だ。
「何とも美しい姉妹愛だね」
ソラの隣にいる銀髪の青年がにっこりと笑いながらそう言ったせいで、ハヤテの顔は仏頂面へと変貌した。
「あんたは何も言わないでよ」
ソラを抱き寄せて、細目で睨む。
青年はやれやれと言った感じで諸手を上げた。スーツは着ているものの、明らかにまだ成人して間もない外見だ。教育重合組織の就活学生と言ったほうが自然である。
「もうちょっと仲良くなれないかな?」
「イヤよ。どうして監視役の人間と仲良くしなくちゃいけないのよ」
「いや……まぁ、そりゃね。でも、僕はまだ何もしてないし……」
「まだ、でしょ。来る時が来たら実力行使に出るくせに」
「まぁ……うん……否定できないかな」
にへらと笑う。
(何笑ってんのよ!)
思わず叫びたい衝動に襲われたが、ハヤテは何とか自制を働かせた。
今叫べば、確実にソラが泣くだろうから……。
「……ふんっ!」
ぷいっと顔を向けて、結局は道中と同じようにいないものとして扱うことにした。
やれやれと青年は苦く笑い、小さな声でソラに話しかける。
「お姉ちゃんどうにかできないかな?」
「うーん、お姉ちゃんは今ふきげんなので、またの機会にちょーせんしてください」
笑顔でバイバイと手を振るソラ。
「そっかー」
「ソラ。何独り言しゃべってるの。ほら、もうそろそろ地球が見えてきたわよ」
「わーい!」
「……こりゃ手厳しいなぁ……」
青年はポツリと呟いたが、ハヤテは聞く耳を持たなかった。
やがて画面いっぱいに青い星が映りだした。ハヤテやソラの種族である地球人類のご先祖様たちが、あの母星を飛び出して二百年。
二人の少女は、初めて発祥の地を視認した。
「きれいだね、お姉ちゃん。」
「そうだね……ほんとに、きれいね……」
ポツリと、付け足した。
「できるなら、こんな形で来たくなかったけどね……」
雲の模様が見え始めてくる頃。〈跳躍船〉は着陸の段階へと移行した。それを告げるアナウンスも船内に響く。
ハヤテは俯瞰カメラを用いて着陸する瞬間をソラに見せてあげることにした。俯瞰カメラは船外のセンサー機器から集めた情報を元に、それを第三者の視点からどう見えるのかシミュレートして映し出せる機能だ。
ちょうどアゲハ蝶のサナギのような船体から、何かが二発、地球へと撃ち込まれた。場所が海中ならば魚雷に見えるであろう。
「お姉ちゃん、あれなにぃ?」
「あれは楔よ。先に打ち込むことで二つの座標点を最短距離で結びつけるの。そういう力を持たせた発力の状態のスリープ粒子を散布するのね。そうすることで、私たちの船は一度量子状態を経ることで、大気圏の摩擦熱に悩まされることなく、地球の懐へと入ることができるわ」
「むずかしい……」
「三行で言うと、小人さんたちを先に派遣して、トンネルを作ってもらい、そこを船がくぐるの」
「そうなんだぁ!」
「かなり端折ったね……」
もちろん青年の言うことは華麗にスルーである。
アナウンスが直に跳躍することを告げた。
気がついたときには、映像に雲の海が広がっていた。
初投稿です。これからよろしくお願いします