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ちょっぴりグロ注意。


「おいっ、起きろ!」

「っぐ…!」

 お腹を蹴られ、僕は目覚めた。どうやら少しの間気を失っていたらしい。

 目覚めると、青海くんが泣きながら僕を抱き締めていた。むぅ、また泣かせてしまった。

『綴!』

 その時、お父さんの叫ぶような声が聞こえた。咳き込みながらそっちを見ると、空中に投影されたディスプレイにお父さんが映っていた。隣には天神さんもいる。

「ぉと、さ…」

『綴……ッ!』

「この通り、お前等のガキは生きてるぜ? まだ(・・)、な」

 呼ぶとホッとした表情になったお父さん。だが、覆面男達の言葉に鬼の形相となった。僕に向けられた訳でもないのに、ゾクッとした。隣の天神さんは冷たい無表情で、それも恐ろしい。

 向けられた覆面男達は怯んだようだ。僕が気絶中に連絡して少し話したようだが、要求とかはもう伝えたのかな?

『これ以上二人に手を出したら殺す。いや、簡単には殺さない。生き地獄を味合わせる』

「ッ…! ひっ、人質はこっちにいるんだぜ? そんな事言っていいのか?」

「こここっちは一人ぶっ殺してもいいんだぜ!? 二人いるんだからな!」

 言ってる事は下種いし、声も若干震えどもってる。大丈夫か、コイツ等。確かにお父さん達は怖いが想定内だろうに……何でこんな事してるんだ?

 覆面男達と意外と冷静な自分に呆れながら、画面越しのやり取りを見る。……今なら、誰も此方を見ていない。


「要求を呑むなら、ガキ共は解放してやる」

「呑まないと言うならば、ガキ共はお前等の前で犯して殺すぞ!」

『……下種が』

『子供達に危害を加えて自分達が無事に刑務所に入れると思っているのかい?』

 お父さんの吐き捨てるような低い声と、蔑むような天神さんの冷たい声。震える青海くんに協力して貰い、隣り合って密着して座り、背中側にカードブックを出した。

『で、要求は何だ。言うだけ言ってみろ』

「なっ…! くっ、バカにしやがって…!」

『さっさとしなさい』

 挑発するような言い方だが、それで激昂して僕達に害するタイプではない。いや、するだろうが、それ以上に二人に恐怖を植え付けられているから行動出来ない。

 まあ、この時の僕はその事に気付かず、焦ってしまいもたついていた。

「い……、今幼稚園の前にいるな」

『ああ』

「……お、俺達はお前等に八年前捕まった! 俺達が刑務所で不味い飯を食ってる間、お前等は子供を作っただと!? 何で俺達がこんな目に遭ってお前等が幸せになってるんだ!」

『自業自得だろう、犯罪者』

「違うっ! 俺達はただ金がある場所から貰っただけだ! それの何が悪い!」

「そうだっ! 無駄に金を貯め込んでる老い先短い爺から、どうせ使えきれない金を俺達が貰ってやったんだ!」

『爺……ああ、まさか君達、金持ちの老人を狙ったサイゼ強盗団かい? 家の人間も使用人も全て皆殺しにし、女は犯して殺し、金目の物は根こそぎ盗んでいく外道の』

『ああ、あの胸糞悪い連中か! よく分かったな』

『あまりにも下種だったから覚えていただけだよ』

 天神さんはコイツ等の正体が分かったらしい。あの情報で何で分かるんだ……。覚えていたってすぐ分かるなんて、頭良いんだろうな。

 覆面男達は、正体がバレたからか覆面を脱いだ。人相の悪い面構えで、変声器は覆面とセットになっていたのだろう、素の声になっていた。「……俺達の目的は、お前等への復讐だ」

「お前等を辱め、貶め、無様に地面に這い蹲らせたいんだよ」

 あ、ヤバいかも。そう思った。何をするか、させるかとか分からない。

「そうだな……まずは、服を脱いで貰おうか。メディアの前でな」


 メディア。確かに幼稚園に立て籠もるなんてセンセーショナルな事件、報道されないはずがない。コイツ等、社会的に潰す気か?

 空中ディスプレイをもう一つ出した覆面男。そこにはこの幼稚園と、お父さん達の後ろ姿が映っている。どうやら覆面男の要求が聞こえていたようで、お父さん達の正面に回った。

 会話に聞き入り手が止まっていた僕は、早くカードを! と思った時、どよめきが聞こえた。それも、感嘆の声。

 見ると、お父さん達が上半身裸になり、その肉体美を晒していた。鍛え抜かれた体は、本当に美しい。思わず魅入ってしまうほどに。

 覆面男達も驚いていた。それがあっさり脱いだ事に関してなのか、優男にしか見えない二人の脱いだら凄い体にかは分からないが。

『言っておくが、俺達は見せて恥ずかしい体はしていない』

『まあ、女性の前で脱ぐのは少し気が引けるが、子供達の為なら例え見た男のプライドをへし折ろうと構わないしね』

 あー……お父さん、滅茶苦茶大きいもんな。僕も前世でアレだけ立派だったなら、もっとモテたかもしれない。女になった僕でさえ羨ましいのだから、普通の男ならプライド粉砕されるね。

 と、僕はやっとカードをタップした。これ以上、お父さん達に何かさせる訳にはいかない!


 カードブックを消し、カードを構える。僕達を護り、敵を倒す美しき獣。

「さ…召喚サモン、【純白の聖なる獣 ホワイトホーリータイガー】」

「――ッなあ!!?」

 轟ッ、とカードから溢れ出る光と竜巻。僕達の前、覆面男達との間に落ちたそれは、その場に召喚獣を残し消えた。


 蒼い柄のある純白の流れるような毛並み。

 前を見据える双眸は湖面のような美しいブルー。

 強靭で鋭く巨大な牙。

 額から天を衝くように真っ直ぐ伸びる純白の一角。

 キラキラと輝く光を纏い佇む姿は、王者のような風貌のしなやかな巨躯。


 ――――……神々しいまでの、聖獣。美しい、白い虎。

「ガアァァァッ!!」

 威圧感のある力強い声は、僕達には希望を、敵には絶望を与えた。

 ああ、これで終わる。僕はこの時、そう思っていた。



 ***


 力強い味方を召喚し気の抜けた綴は、ふっと意識を手放した。それを、美虎に見惚れていた青海は慌てて抱き締める。意識のない綴の顔は腫れ上がり唇も切れ左目は血塗れで、全身にも傷がある姿は恐怖すら感じる。青海は泣きながら綴を揺すった。

「つっ、づりちゃん…綴ちゃあん…!」

「ガルル……」

「ひぅっ!」

 己の主人の名を呼ぶ声に振り向いた美虎。その大きな躯に短い悲鳴を上げながらも、青海は震える体を抑え綴を抱き締めた。

 その護るような行動が評価されたのか、青海は美虎に敵と認識される事はなく、ペロリと顔を舐められた。宥めるようなそれに、青海は目を見開き固まりながらも体の震えは止まっていた。絶対的な味方だと、理解したからだ。

「くそっ! 召喚系のレアスキルか!?」

「今のうちに殺せ!」

 後ろ、子供達の方を向いた美虎に好機と思ったのだろう。覆面男改めて強盗団は、魔法とレアスキルで攻撃を始めた。それが自分達を狙う銃の引き金になるとは思わずに。


 水と雷、炎と風、そして一人のレアスキル【毒ガス精製】による棒のように収束された猛毒のガスが美虎に向かい飛んだ。魔法はそれぞれ威力を倍々にする組み合わせであり、威力はかなり高い。警備員のいる屋敷で殺人強盗を繰り返せただけの実力が垣間見えた。

 ペロリと青海の顔を舐めた美虎は、襲い掛かる凶器にしかし微動だにせず、緩慢な動きで振り返り、凍てつく絶対零度の眼差しで一瞥しただけだった。

 ――――たったそれだけで、攻撃の一切は消えた。文字通り、何をしたのかも分からず攻撃は初めからなかったかのように、美虎から強盗団を隠す物は何もなかった。


「――……え?」

 ポツリ、と。しんと時が止まったような静まり返った中、波紋を作るように小さな声が漏れた。それは青海や強盗団、この光景をディスプレイにて中継されていた外の野次馬、誰から漏れたかは分からない。だが、それにより時が動き出した。

「な……んだ、アレは……っ!!?」

「いっ、一体何をした…!!?」

「…有り、得ねえ…」

 動揺する強盗団。当然だろう、殺す気で放った攻撃が歯牙にも掛けられず何事もなかったかのように消えたのだから。

 美虎は、改めて愛する主人を見た。小さな子供に抱えられた主は、身に纏う物はなくボロボロで、美しい長い黒髪はグチャグチャ、見る者を魅了してやまないアメジストの双眸は閉ざされ見えない。変わり果てた姿は、美虎を怒らせるには十分過ぎるほどだった。「グルルガアアアアアアアアッ!!!」

 怒りの咆哮は、強盗団の心をへし折った。


 一方的な殺戮。否、殺してはいないのだから殺戮とは言わないか。強盗団は、後悔すらする暇もなく美虎に嬲られ、ボロ雑巾のようになっていた。

 五体満足の者はいない。八人いた強盗団は、腕か足の一本はなくし、肩を立派な一角に貫かれ、鋭い爪に引き裂かれ、腹を大きな口で食い千切られた。人質を取ろうにも、子供達には純白の半透明の強固な結界が張られ、曇りガラスのようなそれは内側からも外側からも向こう側をよく見せない。

 美虎は怒りに満ちていた。それでいて頭はある程度冷静で、子供達のフォローも、室内だという事へのフォローも出来ていた。幼稚園が倒壊しない程度に暴れている。まあ、壁や床はボロボロだが……。 【純白の聖なる獣 ホワイトホーリータイガー】――名の通り、純白を纏う聖獣だ。体長三メートルはくだらない体は、艶やかな美しい毛並みの下に強靭な筋肉を隠している。そこから繰り出される攻撃は、無造作に振った前足でさえ大岩を粉砕する。どれだけ手加減しているか分かるだろう。それに何より、美虎が持つ能力――聖属性の攻撃が殆どない。これは初め敵の攻撃を消した力も含まれる。

 相手が悪なら悪なほど最強となる、まさに勇者な能力。これを使えば、強盗団など細胞一つ残さず消せるだろう。だが美虎は、強盗団が回復出来ないように、そして死なないようにするくらいにしか使っていない。理由は、主の痛みを何倍にしても分からせるため。聖属性ではあるが、移動と攻撃に特化した自分は、治癒術が使えない腹癒せもある。

 正に生き地獄であろう。延々と続くいたぶりは、いつ終わるかも分からない。後悔する暇すらなく、脳内は激痛への叫びで満ちている。


「綴ーッ!」

「青海ッ!」

 バンッ、と大きな音を立てて開いたドア。そこには父親二人が立っていた。長く感じたが、美虎の攻撃は五分と経っていない。 新たな侵入者に、美虎は警戒を露わにした。しかし、正義の能力を持つ獣は簡単に襲い掛かりはしない。何よりも、侵入者の片割れが主の名を呼んだから。

 篝は、自分が綴の敵ではない事を伝えようと一歩前に出た。一刻も早く綴を病院に連れて行く必要があるからだ。

「聞いてくれ、俺達は綴達……貴方が庇っている子供達の親だ。早くあの子達の治療をしたい。通してくれないか?」

 神々しい聖獣に、自然と丁寧な言葉遣いが混じる。真っ直ぐに、どこまでも透き通ったブルーの瞳を見つめる。

 美虎は治癒こそ出来ないが、嘘や悪意を見分ける事が出来る。美虎は、篝と春樹に道を譲った。

 二人が駆け寄るとシャボン玉のように割れる結界。泣きじゃくる青海は、大好きな父の姿を認め泣き笑いを浮かべた。

「おとぉさん!」

「青海!」

「綴…ッ!」

 篝は力なく横たわり青海に抱えられていた綴を抱き上げた。春樹は青海を抱き上げ、美虎の方を向く。

「今から病院に向かう。ここは俺達の仲間に任せて、貴方も綴と来るか?」

 美虎はチラリとドアの方を一瞥し、教室の天井角にも一瞥をくれコクリと頷いた。

 惨劇の処理はドア横にいた《断罪の弾丸》メンバーに任せ、篝達は足早に幼稚園を後にした。

 美虎だけが気付いた、黒幕・・に気付かずに――。




「あ〜あ、終わっちゃった♪」

 暗い部屋に、中性的な声が響く。内容は落胆の色を滲ませている割に、表情も声も笑っていた。

「やっぱり出来の悪いおもちゃはダメだね♪ 折角情報をあげたのに、やる事がつまらないんだもん」

 目の前の巨大なディスプレイには、あの立て籠もり現状である幼稚園の教室が映っていた。丁度、男達が篝と春樹に連絡を取った場面。

「色月篝と天神春樹なんて、超大物の情報、掴むの大変だったのになあ……依頼受けて損しちゃったかも…♪」

 相変わらず笑顔で、内容の割に楽しげな口調。椅子をくるりと回転させ、ガリッ、と棒付き飴をくわえた。

「くだらないなあ。復讐で社会的権威を失わせたいならば、折角子供を人質にしてるんだから周りの人間を殺させればいいのに♪」

 笑顔でサラリと恐ろしい事を何て事ないように宣った。

「若しくは《断罪の弾丸》メンバーに各地で暴れさせるとか♪ んふふふ…♪ やらせれば《断罪の弾丸》は世界中から非難されるし、やらなければ自分の子供を見捨てた最低な親に出来るのになあ♪」

 嗤いながら、悪魔のような発言を零す。男達を生温いと言うだけあり、発言はとても過激で、最悪だ。

 映像は綴が背中にカードブックを出し、美しい聖獣を召喚した所に移った。それを見て、声は先程までの同じテンションから一変、興奮したような物に変わった。

「いいなあ、これっ! このレアスキル、どんな物かなっ? 本からカードを取って召喚かあ…♪ この虎以外にもいるんだろうな〜! しかも、情報では色月篝の自宅に執事や料理人がいたらしいし、恐らくそれもあの子の召喚獣。人間を召喚してこんな凄い聖獣がいるなら、まだまだ隠し玉もありそうだ♪ 複数同時召喚も可能だろうね♪ ああっ、見てみたい♪!」

 この映像だけで召喚獣が複数いると見破った。それだけでなく、情報を摺り合わせ召喚獣の目星までつけてしまう。幼い声に似合わず、聡明なようだ。

 映像は録画のようで、何度か繰り返し召喚の瞬間を見て、進めた。一方的な制裁風景。

「んふふふっ♪ 壊れたおもちゃはいらないよね♪ ガラクタは邪魔にならないよう早く処分しなきゃ! ああっ、こんな事もあろうかと(・・・・・・・・・・)彼等の脳に超小型爆弾セットしといて良かった♪」

 小さすぎて脳味噌を頭蓋内で破裂させるくらいしか出来ないけど♪ と呟き、いつの間にか手に持っていたスイッチをぽちりと押した。

「んふふふっ♪ 破棄かんりょー♪ お片付けは色月篝達に任せちゃおっ」

 にんまり無邪気に笑い、簡単に人を殺す様は悪魔と言って差し支えないだろう。

 そして映像は、綴達が父親に救出され、美虎の一瞥を貰った所で消えた。

「……んふふふっ。まさか気付かれちゃうなんてね。しかも壊されちゃった(・・・・・・・)。油断ならないなあ」

 笑顔は変わらず、だが声からは先程までのふざけた調子が消えて、低く感情の読めない物になっていた。

 ディスプレイを消し、椅子から降りて隣室に歩いていく。そこには色々な写真があり……一際大きな綴の写真が、壁に貼られていた。よく見ると、他の写真は綴の周りの人間ばかりで、綴の写真がかなり多い。

 写真を眺め、恍惚とした満面の笑みを浮かべた人物は、ゆっくり愛おしそうに写真を撫でた。

「んふふふっ…♪ 色月綴……欲しくなっちゃった…♪」

 愉悦に満ちたそれは、その暗い写真部屋へと誰に聞かれる事もなく、溶けていった――――。




不完全燃焼ですか?私はそうです。所詮かませ犬!なキャラって難しい。シリアスが続かないんです……!

この騒動はまだ少し続きます。もう少しお付き合いをば願います。

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