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 ガッ、ゴッ、と鈍い打撃音が聞こえる。耳を塞ぎたくとも塞げず、ずっと聞く羽目になる。何故なら、この音は僕の体から鳴っているからだ。

 僕は覆面男達にリンチされていた。気絶しない程度の絶妙な力加減で、血反吐も出ないくらいにボロボロにされた。幾つかの骨にはヒビが入っているだろう。左目などすでに血濡れでよく見えない。

 視界の隅で、青海くんが縛られて泣きじゃくりながら僕を呼んでいた。でも、ごめん。全然体が動かないんだ。



「っはぁ…! まあ、こんなもんにしといてやる。死なれちゃ困るしな」

「そうだな」

 やっと終わったらしい。体は何の反応もせず、ただ意識があるだけの僕は無造作に持ち上げられ青海くんの隣に落とされた。全身に激痛が走り、呻き声を上げた。意識が残されているのは、本当に地獄だ。

「うぇっ…っつづ、りぢゃ……っ!!」

 嗚咽を零しながら僕を呼ぶ青海くんに何とか応えようと思ったが、言葉にならない呻き声が出るだけで出来なかった。

 それを見て、厭らしく嗤った覆面男の一人が、青海くんに言葉を言い放った。残酷な、言葉を。

「おいガキ、このガキがボロボロになってるのはお前のせいなんだぜ?」

「、ふぇ……?」

「だってそうだろ? 折角お前を助けようと自分を犠牲にし俺達相手に嘘まで吐いて、目論見通りお前を助けられそうになったのに、それを台無しにしたのは天神のガキ……助けようとしたお前自身なんだからよォ」

「っあ……」

 ニヤニヤ嗤っているだろう事は、覆面と変声器越しにも見て取れた。違うっ! と否定したくても、声が出ない。出るのは乾いた咳だけだ。

 覆面男は、ぐいっと青海くんに顔を近付け、まるで追い詰めるように、暗示を掛けるようにトドメを刺した。


「このガキをボロボロにしたのも、お前の親父を巻き込むのも、全てお前だ」

「ぁ、ああ、あああぁ……」

「――お前が、皆を不幸にした」

「――――ああああああああぁぁっ!!!」

 青海くんは、発狂した。傷だらけにされていく僕を目の当たりにして、銃を持った男達が大好きな父親を狙って、それを叩き付けられて。

 まだ五歳の子供の心には、負担が大きすぎた。


 卑劣な男達の下卑た哄笑が耳に響く。コノヤロウ、ぶっ殺す。

 僕は子供を大切にしない奴は嫌いだ。この子はまだ五歳なんだ、見た目は兎も角中身はそれなりの僕が、守らなきゃ。 力が入らない体を叱咤する。腕に力を込め、血で滑って床に伏しながらも何とか上半身を起こし、光のない目で涙を流しながら俯いてへたり込む青海くんに、のし掛かるように抱き付いた。 どてっ、と床に倒れ込み、それでまた痛みが走ったが、何とか耐えて青海くんの頭を撫でた。ゆっくりと、優しく。青海くんは目に光を戻し、丸くしていた。

「あ? ガキィ、そんなになってもソイツを庇うのかァ?」

 覆面男の問いには答えず、青海くんと目を合わせる。歪ながらも、目を細め小さく微笑んだ。

「ぉ、みく……おー、み…」

「ぁ……つ、づ」

「ゲホッ……もだ、ち……とも、ち……気ぃ、すな…」

 伝わっただろうか。否、伝わるまで伝える。

 青海くんは僕の大切な友達で、僕は何も気にしてない。だから何も気にすんな。君は何も悪くない。

 思考が纏まらず、頭が回らない今、僕にはそんな言葉しか思い付かない。


 それでも、青海くんの心をギリギリ留めるくらいは出来たようだ。先程までとは違い、年相応にわんわん泣きながらごめんね、痛いよね、と泣いているから。さっきよりは、遙かにマシだよ。

「うわああああんっ! つづ、りちゃっ…、ごめ、ごめんねぇ…っ!」

「へー、き……だ、じょーぶ……っから、なく、にゃ…」

 へらぁ、と笑って青海くんを撫でた。これは、あの覆面男達のせいなんだから、君が謝る事じゃないんだよ。

 覆面男達は、興が削がれたのかいつの間にか側から消えていた。今の内に、回復に努めよう。


 僕は魔法の才能がない。正確には、魔力を放出出来ないのだ。更に、僕の魔力は治癒特化に染まっていて、身体強化すら出来ない。

 魔力は基本個人個人で色が違くて、魔力操作と呪文と魔法陣さえ知っていれば誰でも魔法が使える。威力なんかは、精密さ・密度・魔力量バランス・魔力質で決まるのだが、詳細は今は置いておく。

 ただ、偶に特化した魔力を持つ人がいる。治癒や強化、炎や水などだ。特化魔力は、特化したモノ以外はほぼ上達しない代わりに、特化したモノは凄まじい威力になる。一芸に秀でてるのだ。魔力色は、個人の色にそれぞれ特化色が混じりマーブルとなる。

 僕は治癒特化だが、放出が出来ないので自分にしか使えない。但し、治癒は一気に治せる訳じゃないし、僕は才能がなく学んだ時間も少ないのでちょっとずつ地道にやるしかない。才能がないからってサボったツケが回ってきた。つーか魔法陣を編めないのは致命的だ。

 ただ、僕には秘策がある。お父さんが教えてくれた、効率の良い使い方。己の体内でのみ使えるやり方。魔力は多い僕に打って付けの、とっておきの魔法だ。


 通常、魔力の糸で描くか、魔力を込めた言葉である呪文で作り出すかして魔法陣を出す。まあ、魔法具に登録した魔法陣を魔力を込め魔法名を言う事で使えるので、魔法具が一般的か。魔法陣は複雑だし。

 それを、特化魔力持ちは省いて使える。特化したの限定で、イメージを魔力で構築出来るのだから。だからお父さんは、僕に常に魔力を消費しながら持続的に癒す方法を教えてくれた。元は肉体強化特化の人が編み出した技らしい。

 まあサボってたので、治るスピードは遅いし酷すぎる怪我も治らない。ぶっちゃけ、気休め程度だ。それでもやらないよりはマシなのだが。治癒特化で本当に良かった……。

 ひくひくと未だ泣いてる青海くんを抱き締めながら、静かに治癒をする。全く放出出来ない僕の利点は、放出されてないが故に魔力の揺らぎを感じ取れず魔法を使ってもバレない事。自己中な使い方しか出来ない魔法だな。

「あ、おいアレ忘れてるぞ。万が一に備えて魔法具を身に着けてないか確認しとけっつったろ」

「あ……わ、忘れてた」

「お前……まさか今更緊張してるのか?」

「まあ分からなくもないがな。アイツ等とやり合うわけだし」

 男達の会話が聞こえる。麻痺してるのか痛みもないし、思考回路も正常になってきたので、改めて考えてみよう。

「面倒くせぇ、服ごと破っちまうか」

「あー、それが女なら俺がやったのに」

「まあな! だが、あの色月と天神のガキを剥くのは……うん、いいストレス発散だ」

 胸倉を掴まれビリィッ! と服を破かれ、全裸(ご丁寧に靴下も脱がされた)にされた。魔法具は持っていない。青海くんもで、手足は縛られたまま破かれていた。泣き叫んでいたので、抱き締め宥める。

 コイツ等の目的が、見えない。


 コイツ等はお父さん達への復讐を目論んでいるらしいが、コイツ等はお父さん達が《断罪の弾丸》だと知っての事のようだった。

《断罪の弾丸》は、その依頼達成率の高さでも有名だが、ボスと殆どの幹部が不明というのも有名だった。顔をメディアに晒しているのは三人。幹部の総数も不明で、三人曰く自分達と同等以上の実力者ばかり。幹部は部隊長を兼任している場合もあり、部隊長クラスは一人で国と渡り合える力があると言われている。

 まず不思議なのは、何故秘匿された幹部とボスを知っていたか。それも、居場所まで突き止めていたようだし、僕達の通う幼稚園も知っていた。アイツ等は犯罪者で刑務所に入っていたらしいが、そんな奴等が簡単に情報を得るなんて、出来るのか?

 そして、世界最強クラスの実力を持つ二人を敵に回す行為をしながら、やる事が幼稚園の立てこもりだよ? まさか僕達身内を人質にしてるから大丈夫、なんて甘い考えはしていないだろう。コイツ等は何故かお父さん達をよく調べられている。実力も知っていると思って良い。コイツ等の話を信じるならお父さんは《断罪の弾丸》のトップで、トップを敵に回すと言う事はその下である《断罪の弾丸》全てを敵に回すって事だ。

 やることなすこと、全てチグハグだ。調査は綿密で、実行はお粗末。一体……、あ。


 ……調査した奴は、別にいる…?


 いや、まだ分からない。僕が知らないだけで実はちょっと調べれば分かるのかもしれない。……でも、調べて僕達の事まで分かるか? 想像でしかないけどさ、組織の上の人達って、そういう情報ってかなり気を使うと思うんだよね。危険と隣り合わせな組織なら尚更さ。所詮は漫画とかの知識や想像だけど、簡単に知る事は出来ないだろう。プライベートな事なら特に。

 むぅ……考え過ぎか? それなら良いけど、もし別にいるとしたら何が目的なのかな。つーかこの中にいるの?


 あーもうっ、分からんっ! 考えても分かる訳ないよ、判断材料が少ないもん!

 頭を抱えたくなったが、治癒が出来なくなりハッと我に返った。

「やっと展開出来たぜ、AMF!」

「やっとか! なら早速色月と天神に連絡するぞ」

 AMF……確か魔法無効化領域展開装置、通称AアンチMマジックFフィールドだったっけ? ファンタジーでお約束の装置だね。魔力を拡散させて、練れないようにしてるから使えないって聞いた気がする。よく知らん。

 一応考えてはいたのか。あれならなかなか手は出せないのかな。お父さん生身でめっさ強いけどね〜。こないだ、寝ぼけて鉄の鍋ねじ切ってたし。勿論お説教しました。

 でも……僕達がいたら迂闊には手を出せないか。逆に言えば幼稚園にいるのは僕達以外は全員犯人だけど。……そうだよね?

 アイツ等はレアスキルを警戒してない。レアスキルを封じる手立てがないのが原因だが、見張りすらしてない気がする。もしかしたら、アイツ等の中には何かしらのレアスキル持ちがいて、それで警戒してないのかも。

 AMFの出す電波? 周波数? みたいなのに合わせた特殊な魔法具を付けていれば魔法は使える。装置全て電波が違うらしいので、通常は使った人じゃないとその魔法具を持てない。だからコイツ等は魔法が使える。それも強味なのか。

 ――…僕だって、レアスキル使えば一発だって思った。使おうとも一瞬考えた。……でも、今まで気付かなかった欠点が、僕のレアスキル【ワイルド・カード】には存在した。

(くそ……何かしら隙を見付けるか、どっかに一旦隠れなきゃ……)

 青海くんをひっくり返し背中をこっちに向けさせ、後ろ手に縛られた縄を解き始めた。覆面男達に気付かれたが、何も出来ないと思ってるからかスルーされた。ラッキー。 この調子で、召喚も……って、無理だよなぁ。流石にさ。

 【ワイルド・カード】の欠点。それは、今まで何気なくやっていた召喚までのプロセスだ。

 遊びや練習に使っていた時は、気にしなかった。カードブックを出す、ページを開く、カードをタップする、手に取り掲げるか投げる、カード名を言う。全部で五工程あり、更にページを開くには検索するか手動か、カードだって選ぶしカード名が何か見なきゃ分からない。

 これは敵を目の前にして出来るほど、素早く出来るものじゃない。見逃してくれる訳がないし、僕の肉体はか弱い五歳児なのだ。逃げながらとかも無理。

 致命的な弱点。そりゃこんだけの能力になるよなぁ、と納得した。納得してる場合じゃないけど。

 一瞬の隙でもダメ。出来るだけ長い……最低でも一分はないと辛い。今みたいに声も碌に出ず、体も動かない今は、三分は欲しい。

 戦いなんてした事ないから召喚獣の強さも分からないし、今の僕じゃ三体以上出すと問答無用で気絶して召喚も全部無効になる。だから、戦闘になると思うと、滅茶苦茶怖い。


 でも、やらなきゃならない。せめて、青海くんだけでも助けなきゃ。僕は運良く第二の人生を送っているが、優先するならまだ五年しか生きてない青海くんだもん。

 ……お父さん達を、待つしかないか。くっそう、何でシルブ達を出しておかなかったんだろ。僕ってマジで間が悪いや……。




主人公のレアスキル【ワイルド・カード】。スキル名覚えててくれましたかー?私は忘れてました!

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