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6 籠城事件編


 お泊まり最後の日は雨だったので、僕は休みだった茜パパと趣味(スポーツ観戦)が合ったので一緒に盛り上がった。

 野球の試合の屋内中継を観ていたが、僕は特に贔屓してるチームはなく、スポーツ全般を見るのが好きなので、茜パパが好きな球団が負けても気にしなかった。勝ち負けより内容が大事なので。

 この世界のスポーツってマジで凄いよ!? 消える魔球とか分身魔球とか普通にあるんだぜ! バットも分身するし、ジャンプ力も速度もパない。サッカーも分身するし漫画みたいな超絶技が行われて、合体技や炎や冷気を伴ったシュートも普通にある。他のスポーツもだし、何より一番人気の高いマジックファイト通称マジファイは魔法と格闘技の融合競技。最高に燃えるぜっ!!

 興奮した僕は、茜パパに贔屓してる球団の良さを語られても半分くらい聞き流していた。



 そんなお泊まり会から早一週間が経った。最近は四人で遊ぶ事が多く、公園では煌夜くんを含めた五人で遊ぶのが普通になっていた。

 ――――……僕には、一体何が起きたのか、上手く理解出来なかった。

 その日も、お父さんの見送りで幼稚園に来た。召喚人は最近じゃ出しっぱなしにはしないので、労を労いすぐ戻って貰う。出しっぱなしだとお弁当嵩むので。 藍ちゃん達とお絵描きしたりかくれんぼしたり、普通に遊んでお遊戯したり粘土でうさぎ作ったり……いつもと変わらなかった。

 その日常を壊したのは、ドォンッ! と言う極近くから聞こえた爆発音。


 きゃあああっ! と悲鳴を上げパニックになる園児達に、同じくパニック寸前ながら何とか状況把握に務めようと、僕達をまず宥めようとする先生。僕も何が何だか分からなく、藍ちゃんと抱き合い怯えていた。

 その時、大きな音を立て乱暴に教室のドアが開かれ、黒い覆面をした銃を持った男が入ってきた。

 それにより上がった悲鳴や泣き声は、ドン、と天井に威嚇するよう一発撃たれ、息と悲鳴を飲む音に変わった。


「騒ぐんじゃねぇ! 言う通りにすれば、傷付けはしねぇよ」

 変声器でも使ったような濁声で、ドアを閉めた男は怯える僕達をぐるりと見渡した。先生は僕達を庇うように立っているが、足が震えている。

「……この中に、天神って奴と色月って奴はいるか」

「……! …っそ、それが一体…」

「うだうだ言わず答えろ! 殺すぞ」

 先生が震える声で理由を問い質そうとしたが、右足を思い切り踏み鳴らし威嚇した。殺す事に何も思っていないだろう事は、変声器越しでも分かった。

 先生は震え何も言わない。泣き声が聞こえる。……早くしなきゃ、誰かが傷付く。

 僕は、震え動かない足を殴り無理矢理動かし、先生の隣まで歩いた。

「ぼ、僕が色月、だよ」


 一瞬の沈黙。全ての視線が僕に集まったのが分かる。覆面男は――…笑っていた。

「クックック……自ら名乗り出るとはな。良い判断だ。おいガキ、天神はどこだ」

「――っ! ちょっ」

「先生は黙ってな」

 僕の前に出た先生は、銃口を向けられヒッ、と小さな悲鳴を上げた。

 ……落ち着け、落ち着け僕。

 先程の、震えた情けない声を思い出し深呼吸。今度は、マシな声を出そう。

「……天神は、昨日から休み、だよ」

「休みだァ?」

「か、風邪って聞いた。熱下がらないって……」

 良かった。震えてはいるがさっきよりは大分マシだ。

 ――当然、これは嘘だ。青海くんはいる。でも、わざわざ危険な目に遭わせる必要はない。二人所望するなら一人出て、もう一人は隠せばいい。二人とも名乗り出なきゃ他の皆に危険が及ぶかもしれないが、素直に名乗り出た僕ならば、先入観から信じ込めやすい……かも、しれない。

 所詮は素人の考えだ。でも、やらなきゃ。僕は皆よりお兄……ううん、お姉さんで、二回目の人生なんだ。まだちっちゃなこの子達を、危険な目に遭わせる必要はない。

 頑張れ、僕。


 先生により表情は隠れ、恐怖に震える声色が嘘による動揺を紛らわせる。先生が目を丸くし此方を振り向いてしまったのが予想外だったが、アドリブを利かせなきゃ。

「なっ、綴ちゃ…っ!?」

「……先生、でも本当の事だよ。いるって嘘言ったら、他の子が……だ大丈夫だよ、きっと。いないからって乱暴されたりしないよ」

 するかもしれないが、今はこう言わなきゃ。これで一気に真実味を帯びた……と、思う。多分、きっと。

 意外と冷静に見える僕だが、実際はテンパりすぎて頭が冴えまくってるだけにすぎない。多分長く続かないし、僕如きの脳みそじゃ冴えててもダメダメだから。漫画やゲームの知識を総動員させねば。

 覆面男の方を見れば、顎に手を当て考えている。し、信じるか……?

「ちっ……休みか。計画を多少変更する必要があるな……」

 しっ、信じたあああああっ!! よっしゃあああっ!!

 嬉しくて飛び上がりそうになったが、寸でで諫めゴクリと喉を鳴らした。なら一刻も早く皆を解放させて、青海くんを隠さなきゃ。


 考え込む覆面男に、僕は汗ばむ手を握り話し掛けた。

「っね、ねえ! 目的が僕なら、他の皆はいいでしょ?解放してあげて」

「……あ? そうだな……」

「なっ!? だ、ダメよ綴ちゃっ……ああッ!!?」

「先生っ!?」

「先生は黙ってな。アンタよりよっぽどそのガキのが頭が回るし肝が据わってる。今は、交渉・・の時間だ」

 先生が慌てて僕を止めようとするが、覆面男に肩を撃たれ倒れた。皆が先生を呼び駆け寄る。

 先生は血に染まる肩を押さえ、脂汗の浮かんだ顔を歪めた。僕は先生のエプロンを捲り上げ、それで肩を押さえた。

 ……早く、病院に連れて行かなきゃ。早く、解放しなきゃ……!


 僕は、皆に先生を頼み静かにするように言った。泣きながら頷く様に、よりいっそう気合いを入れ、覆面男と対峙した。

「交渉……解放は、条件付き?」

「ククッ……流石あの男の娘だ。回転は悪くない」

「ッ!? お父さんを知ってるの!?」

 え、え、まさか狙いはお父さん!? ……そういえば、お父さんと天神さんは、同じ仕事を……。

「……お父さん達の、仕事関係…」

「……そこまでになると、いっそ気味悪いくらいだぜ」

 ポツリと呟いたそれは、どうやら聞こえていたらしい。唸るような声は、濁声も相俟り地獄の使者みたいな恐ろしさだった。


「お前は父親が何をしてるか知ってるか?」

「……知らない。教えてくれないから」

 突然の質問だった。いや、突然ではないか。相手の目的と動機が透けて見えるかもしれない、重要な物だ。

 クツクツ笑った覆面男は、そうかそうか、と呟きお父さんの仕事について告げた。

「あの男は世界を股に掛け活動する化け物組織、《断罪ジャッジメント弾丸・ショット》のボスだ。天神はその右腕でありサブボス……。俺達は、アイツ等への復讐のためここに来たんだよ」 ――――……その名は、有名すぎる物だった。誰だって、子供だって知っている。勿論、僕も――。

 《断罪ジャッジメント弾丸・ショット》――――世界に名を轟かせる巨大組織。様々な依頼を受け、解決する集団。各国の警察や自警団などとも協力関係にあり、主な仕事は警察があまり関与しないモンスターや怪奇関係だが、逮捕権限や捜査権限など様々な権限までも持つ、信頼度では警察より確実に上の誰もが憧れる組織だ。

 ファンタジーでいう、ギルドみたいな組織だ。まあ、誰でも入れる訳ではなく、《断罪の弾丸》は厳しい審査があり決してコネで入れたりはしない。因みに、他にも似たような組織はあるようだが、《断罪の弾丸》のような世界中に支社があるような巨大組織はない。


 そんな、凄まじい組織のトップが、お父さん……? 朝はだらしなくて、大好きって言うとデレデレして、一人でお風呂入るって言うと泣きそうになる、あのお父さんが?

 呆然としていると、覆面男が苛立たしそうにカツカツと足を馴らし、更に言い募る。

「《断罪の弾丸》総帥・《帝神》色月篝、《断罪の弾丸》幹部にして特殊万能部隊《銀弾シルバーブレット》隊長・《星の閃光》天神春樹。俺達はアイツ等に捕まった! アイツ等さえいなければ、俺達は豚箱に放り込まれる事なんて無かった!!」

 興奮したように憎々しげに叫ぶ覆面男。恐らく、何かしらの犯罪を起こしお父さん達に捕まったのだろう。明らかな、逆恨みだ。


「……父さんが、《断罪の弾丸》……?」


 その時、ピタリと覆面男の激昂が止まった。小さな呟きは、覆面男の息継ぎの瞬間に静まり返った部屋に間が悪く落ちた。

 声がした方を見れば、ハッと口を押さえた青海くんがいて。分かり易いその反応に、当然覆面男も気付いただろう。


「――――お前、天神春樹の息子かァッ!!!」

 ズンズンと大股で此方に近付き、青海くんの胸倉を掴みグン、と持ち上げた。

 悲鳴が響く。バレた……ッ!!

「は、ハハハハハッ! いるじゃねぇか天神のガキ!」

「ヒッ…!」

「ハハハハハッ! ……嘘吐きやがったな、このクソガキがァッ!!」

「ッがぁ!!?」

 狂ったように嗤った覆面男は一変、荒々しく罵り僕を蹴り飛ばした。

 壁に激突した僕は、お腹を抱えながら咳き込んだ。ごふっ、と嘔吐し、そこに血が混じってるのを見て顔を歪めた。

「騙されたぜ、ガキィ……。俺が思った以上に頭が回りやがる」

「げほっ、げぇっ……ぅえっ!」

 喘ぐ僕に、冷静になったらしい覆面男が呟いた。最悪だ……。


漸く治まり出した頃、僕は涙を拭いながら顔を上げ覆面男を見た。青海くんは泣きながら覆面男の足元にうずくまっている。「クハハッ! ガキの大胆不敵な賢さに免じて、不要な奴等は全員解放してやるよ」

 おかしそうに笑う覆面男は、恐らく念話で仲間と連絡を取り合ったのだろう。そう言ってから、教室にわらわらと同じ覆面の男が複数人入ってきた。

 先生は痛みで気絶していたが、覆面男の一人が担いで外に放り出し、園児達も追い出した。多分他の組の人達も逃げただろう。

 一世一代の演技も水の泡となり、僕は絶望と恐怖に彩られた。


 これから何が起こるか分からない。これが、恐怖の一日の始まりだった――――。




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