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ちょっと短めです。
朝、茜ママのご飯を食べ僕達は遊びに出掛けた。今日と明日は休日である。
普段よく使う公園に向かう。藍ちゃんには今日遊ぶと言ってあるし、多分来るだろう。煌夜くんは――…分からないけど。
煌夜くん、どうも挙動不審と言うか、名前呼んでもなかなか反応してくれないんだよね。まるで呼び慣れてない、みたいな。それに、隣に住んでる同い年の女の子がいるみたいだけど、会わせてくれないし。
まあ友達には変わりないけど、ちょっと不思議なんだよね。
公園には、藍ちゃんがいた。今日はおままごとをする事になった。……ふっふっふ、僕がおままごとの為に創ったカードをお披露目する時がついに来た!
「さぁっ! 目ェかっ開いてとくとご覧あれ! これが僕が遊びに引くほど全力投球した逸品にゃ!」
「わーわー!」
「つづちゃんカッコイー……!」
「……格好いいのかしら?」
茜ちゃんノリ悪ーい。藍ちゃんのアレは素だが、青海君はノってくれたぞ!
遊具の半分埋まってるタイヤの上に乗り、僕は両手を広げババーン! と効果音が付きそうな様子で歌うようにキメる。芝居がかったのがちょっとアレだが、子供だから許されるだろう。許してねっ。
カードブックを出し、僕はとあるカードをタップした。創造したカードは勝手にカードブックに収納されます。
「行くぜっ! 召喚! 【リアルおままごとセット】!」
翳したカードから出た光の放流は、地面にぶつかりクリーム色の10m四方のタイルを残し霧散した。
結構大きいので端っこに出したそれは、一見すると何の変哲もないタイルだ。皆の落胆が目に浮かぶ。現に、拍子抜けしたようだった。
「えーっと、これは?」
「ふふん、こいつの凄さはタイルに乗って、設定を決めれば分かるさ」
「ふぅん?」
靴を脱ぎ全員で乗った。そして、配役を決める。
「今回は僕が考えた設定でも良い?」
「おれはいーよ」
「あたしも」
「うん」
許可を貰ったので、設定する。ふふふ、皆何気に精神年齢が高いからちょっとアレなのにしよう。……やっぱ、初めて使うし普通のにしよう。
「設定、スタンダードなおままごとで臨機応変。配役、父が青海君、母が茜ちゃん、娘が藍ちゃん、僕はその他。肉体に変化はいらない」
《設定開始。――設定、配役共に受理。おままごとモードに入ります》
ポーンと言う音と共に、異変が起きた。全方位投影立体ホログラムと物質具現化により、半透明の壁が出来、リアルなテーブルにソファーにキッチンが出来、玄関もある。
ポカーンとしている三人だが、ちょっと見た目が変わってる。藍ちゃんは薄紫のワンピースで変わらないが、茜ちゃんはエプロンを身に付け青海君はスーツを着ている。因みに僕は、顔だけ出た犬の着ぐるみである。僕犬役かよっ!
何とか皆を復活させ、説明した。設定や配役により、場面や格好を変化させられ、よりリアルなおままごとが出来ると。やろうと思えば、年齢も変える事が出来て、何気に大人な機能も……げふんげふん、何でもない。子供にゃ言えぬ機能です。……何故こんな機能付けたし、僕。
…………おままごと内容は、割愛させていただきます……。
何があったかって? まあね、仕方ないっちゃ仕方ないかもしれないけどさ? 茜ちゃんが恥ずかしがっちゃって続かなかった。僕、顔にペイントまでされてわんこになってたのに……。
で、気合い入れたおままごとは、別の設定になった。今回は、藍ちゃんの要望である。何れスタンダードおままごとに再挑戦しよう。
「ここがお前の墓場だ! 覚悟しろ、大泥棒ヌピン38世!」
「おーっほっほ! このアータクシが捕まると思って!?」
「……まっ、待ちなっ! 猫の小判はアタイ達、怪盗キャッツテールのもんだよ!」
「そーよそーよ、お姉様の言うとーりよ」
…………藍ちゃん、大泥棒ヌピン38世とキャッツテールが好きだったんだね。いつものオドオドっぷりがどっかに吹っ飛んでるよ……つーかキャラ変わりすぎじゃね?
大泥棒ヌピン38世とキャッツテールとは、人気のアニメだ。ヌピンは胸元バーンなライダースーツを着たオカマ(・・・)で、三人の仲間がいる先祖代々から続く稀代の大泥棒だ。ヌピンのこゆい顔と仲間のイケメンを襲っては返り討ちに遭うお約束、ギャグと人情の絶妙なバランスが大人から子供に人気なのだ。
キャッツテールは、ハイレグに目元を覆う仮面と猫耳尻尾を身に付けた姉妹の怪盗。母親の行方と父親の存在の真相を知るために怪盗となった姉妹の、愛と涙と汗の物語。エッチなシーンもあり、女性だけでなく男性からも人気がある。
設定は、ヌピンとキャッツテールが同じお宝を狙い奪い合いを繰り広げる、と言うもの。配役は、キャッツテール姉が茜ちゃんで妹が僕、ヌピンを追い掛け世界中を飛び回る刑事が青海君、そしてヌピンが藍ちゃんだ。どんな配役だ。
ステージは、かなり広くなっている。さっきのリビングとは違い、美術館で、動くと場面も変わる。これは、背景が動いていて、見せる光景も役者同士の距離が開いた場合それぞれ異なり距離があるように見える。無駄に高性能で臨場感溢れている、と思ってくれればいい。
僕は、ハイレグにサイハイにニーハイブーツに猫耳尻尾と言う、マニアックな格好で姉(茜ちゃん)のイエスマンな妹役なのだが、初めは僕が姉役だった。だが、アクションが少ない妹役より姉役のが恥ずかしいポーズを取るので、丸め込んで変わって貰った。どうやったかって? 前に出ないと青海君との絡みが少ないよって耳元で囁いただけですが、何か?
にしても……色々ツッコみたい。まず青海君、あーた逮捕するのになんで墓場言っちゃった? 本物では、年貢の納め時って台詞だったよな? そして藍ちゃん、君マジでどうした? キャラが違すぎるよ。超ノリノリだよ。将来は女優になったらいいよ、割とガチで。
…………ねぇ、イマドキの子供のおままごとって、これが普通なの? 前世では、普通に夫婦とか家族とか、そういう分かり易い感じのだったような……。
あ、因みにこのおままごと風景、全部録画してあります。後で茜ママと茜パパに見ーせよっと。
***
夕方までおままごとして遊んだ。色んな設定でやったよ。茜ちゃんは家族設定にリトライし撃沈、青海君は有名な英雄物語の再現、僕は皆がモコモコ羊の着ぐるみを着てダンス大会目指したり。将来これ皆に見せてからかうんだ。……まあ、キャッツテールコスは僕も黒歴史だけどさ。
茜ちゃんちに帰り、手洗いうがいをしたら僕は茜ママのお手伝いを申し出た。あ、その前に茜ちゃんを誘おう。ククク、僕の唆しスキル(そんなものありません)をとくと見よっ!
茜ちゃんをちょっと青海君から離し、ガッシリと肩を組んだ。
「茜ちゃん茜ちゃん、知ってるかい? 男は胃袋を掴むのが一番なんだぜ?」
「え?」
「つまり、料理が上手ければ青海君も茜ちゃん大好きになって結婚…」
「やるわよ料理っ! ママー!」
若干食い気味に答えた茜ちゃんがやる気満々な様子で、鼻息荒くキッチンに突撃していった。……ふっ、チョロいぜ。
まあぶっちゃけ、料理の手伝いはアレだよ。……料理上手な幼なじみって、萌えるよね。
「ママ! あたしも手伝う!」
「あら、突然どうしたの? ふふ、ありがとう。でも、遊んでていいのよ?」
「はい、でも、僕最近料理習ってるんです。ちょっとくらいなら出来ますよ! 料理って結構楽しいですし」
「胃袋掴んでけっ……んんっ!?」
変な事を口走りそうになった茜ちゃんの口を塞ぎ、不思議そうに首を傾げる茜ママににっこり笑った。 当然、お手伝い権は貰いました。
「あら、ホントに上手ねえ綴ちゃん」
「えへへ、ありがとうございます」
「むぅ……」
今日はハンバーグらしく、材料を混ぜている。我が家では玉ねぎは炒めて混ぜるが、戸田家では生のまま混ぜるようだ。確かにそのままでも美味だよね〜。
一応前世でも簡単な自炊くらいはしていし、今も習っているから手際は悪くないだろう。
手の熱が移らないように手早く、粘り気が出るまで混ぜる。今は丸める作業だが、手が小さいので出来るのも小さい。茜ちゃんは初めてだからか、混ぜるのも遅く空気を抜くのも上手く出来なかったからか、ちょっと不機嫌。
まあ、それが普通だろう。初めてな訳だしね。それに教えればどんどん吸収していくから、筋が良いんだと思う。
「おっ茜ちゃんそれキレイな形だね」
「え? ほ、ホント?」
「そうね、綺麗な小判型だわ。凄いわよ茜」
「え……えへへ〜っ!」
ほっぺたを赤くしてにっこり笑う茜ちゃんはマジ天使。
夕飯は、楽しい物になった。
…………夕飯後のおままごと観賞会もね! 真っ赤になった茜ちゃんにポカポカ殴られたぜ……。
皆で笑いながら見るおままごと映像。映像は、アイテムにあるテレビに自動的に登録されてます。ビデオやDVDにする事も可能。