1 日常編
読みにくい、かな…?
女の子になって五年くらい、鈴木綴から色月綴になって早二年くらいが経過した。僕は、生きています。
あのうさぎモドキ――ホーンラビットから助けてくれた二人の男性、天神春樹さんと色月篝さんに保護され、僕は名字から分かるように篝さんに引き取られた。つまりは養子、義娘である。奥さんもいないのにね。
死にかけていた僕は、今ではすっかり元気になり、篝さん……基、お父さんと仲良く暮らしている。死にかけたのが嘘のような穏やかさだ。
落ち着いてから尋ねたのだが、どうもこの世界は元の世界とは違うようだ。ホーンラビットや魔法がある時点で分かってはいたけどね。ただ、現代日本に酷似していて、ネットもあるしゲームもあるし、電化製品もある。ファンタジー世界と言われて思い浮かべるイメージと現代日本を足して二で割った感じかな? ああ、でもゲームやネットは一昔前のモデルで、タッチパネルが主流みたいだった。今時は思考操作と音声操作、3Dとホログラム投影が普通だったから、ちょっと違和感がある。
この国はヤマトと言うらしく、日本がファンタジー仕様にカスタマイズされただけな気がする。普通に日本語が使われてるしね。ただ、自然がかなりあって、前の世界より断然自然が豊かだ。 モンスターがいて、迷宮があって、魔法があって、レアスキルがあって……と、ファンタジー要素はあれど、個人的には住み慣れた世界に酷似した文化レベルなので、割とすんなり慣れた。
二年で大分馴染んだ僕ではあるが、僕にはなんとレアスキルがあった。え?転生者にはお決まりの使い古されたチート設定だって? ……まあ、確かに。僕も最初はそう思ったが、どうもすんなりチートとは行かないみたいなんだよね。
お父さんにレアスキル講座を受けて分かったのだが、レアスキル保持者には何かしらの枷があるらしい。運が悪いとか、力が付きにくいとか、そんなの。レアスキルにはピンからキリまであり、強大でオンリーなスキル程枷が大きいのだとか。
僕は、レアスキルの一部であるステータス閲覧により、枷がどんな物か知った。愕然とした。レアスキルは、僕に最も馴染みがありよぉく知った能力だ。でも……これはないんじゃないかな?
僕のレアスキルは、《カード・サモナー》――今まで創った全てのカードが納められたカードコレクション、コレクターズブックを具現化し、カードを使える能力。カードを自在に創れる能力。……カード化する、能力。
僕の製作者としての仕事とゲームの設定が混じった能力だった。しかも、僕が製作者だからか召喚獣の信愛度はMAX、狂愛とかヤンデレレベルだ。上限は100のはずなのに、無限大マークってどう言う事なんだろうね。出すのが怖すぎる。それに加え、何故かレベルも無限大マーク。最強どころの話じゃない。
……まあ、僕自身のレベルはLv.1だったし、後々確信はないが理由も見当が付くのだけれど、この時の僕には謎しかなかった。
こんな規格外のレアスキルだ。当然代償も大きいのは分かるだろう? 僕は、ゲーム同様にあるヘルプを見て悟った。
ヘルプによると、僕は魔法の才能がゼロ、戦闘の才能もゼロ、パワーもスピードも防御力も魔攻も魔防も魔法で強化しても一般人の域から出ないし、その癖並の治癒魔法や防御魔法は何故かレジストされるという始末。つまり、レアスキルは最強でも、使う僕は最弱なのだ。
お父さんに話した所、後衛特化型能力だから直接戦闘能力がないのは問題ないけど、治癒や防御がレジストされるのはかなり困ると言われた。確かに、身を守る術がない訳だしね。そして、ここまで重い枷は今まで見た事も聞いた事もないとも。通常、重くても剣の才能がないとかパワーが全く上がらないとか、その程度らしい。
……枷の重たさを実感したのは、重要さを思い知ったのは、まだまだ先である。
重さなんぞ知らない僕は、自分のステータスの極端具合に驚いた。《Lv.1 体力:11/11 魔力:352/352 膂力:1 敏捷:1 頑丈:1 魔攻:1 魔防:1 器用さ:8 魅力・カリスマ:1(∞) 魅力・色気:3(∞) 幸運:85》と言う具合だ。魅力の括弧内は、召喚獣に対する物らしい。そして、魔力はかなり多いらしいが才能ゼロなので、ぶっちゃけ宝の持ち腐れだ。
ヘルプによれば、レベルを上げていけばポイントが貰え(振れるのは器用さと魅力と幸運のみ)スキルを得る(当然直接戦闘系はない)らしい。
ただね、レアスキルによる旨味が大きすぎて、デメリットにも多少は目を瞑れるんですよ。マジキチ社長がサモンカード設定を色んなジャンルのゲームに使い回し、カードシリーズと称されたこれは、18禁も含め20作品以上ある訳で。更にはボツになったりお蔵入りしたのも全部ある上、面倒な手順があるが新しく創る事も可能な訳で。戦う才能がないくらいじゃへこたれないぜ! カードの種類が万を越えてるしね。色々便利なのだ。
第一、ホーンラビットの件で恐怖を植え付けられた僕は、戦う気は更々ない。あんな体験はもう懲り懲りだ。だから、デメリットなんてあってないようなものだ。魔法は使ってみたかったけど。
召喚の実証はそれなりにやっているものの、それより今はもっと重要な問題がある。能力の考察は後回し!
良いですか。この世界は日本と似ていて、尚且つ僕は五歳。当然、通うのだ。そう、幼稚園に!
…………。いやいや、重要だからね? 友達欲しいし。ぼっちとかやだもん。それに、お父さんは親友の天神さんと一緒に仕事をしているらしく、元々独身だったからか身軽で日夜仕事漬けだったみたいだが、今は大分仕事を減らして一緒にいる時間を作ってくれている。それはちょっと申し訳ないので、友達を作って安心させたいのだ。
天神さんに僕くらいの息子さんがいて、同じ幼稚園に通ってるし仲良くなりたいとは思うが、その子の幼なじみの女の子が敵意剥き出しで睨んでくるからあまり近付けないし。ライバル認定されたくないです。女の子とも仲良くなりたいんだけどね〜。因みに天神さんはシングルファザーらしいよ。
正直、僕は自分の年齢が分からない。当時、天神さんの息子と同じくらいだからと同い年扱いだが、もしかしたら一つ上かもしれない。幼稚園に通い出して三日、周りと話が通じず苦労している。年齢が一つ違うってだけでも、子供の内は精神面で結構違うみたいだから、どうすればいいか悩み中である。 それでも、僕と同じ様にちょっと馴染めていない女の子を発見したので、話し掛けてみた。内気で人見知りな子らしく、根気強く話し掛けて、二日目には手を引いて外に行けるようになった。やったね僕! 凄いよ綴さん!
女の子の名前は相川藍って言って、名前の通り綺麗な藍色の髪と瞳を持っている。この世界は、結構色んな色の髪と瞳の人がいて面白い。まあ黒髪と茶髪が多いけどね。
桜が咲き誇る中、僕はまた自分の世界を広げていった。