プロローグ
プロローグを一つに纏めました。書き方もちょっと変えたので、一度読んだ方も是非読んで下さい。
僕、鈴木綴は小さなゲーム会社に勤めている。彼女はいないがリア充しちゃってる、仕事に忙殺されそうな哀れな男だ。うちの最大の売りでありヒット作の『カード・サモナー』のデザインを一手にやらされている。
社員なんて、僕を含めたった六人だ。よく潰れないな、とも思うが、うちの社長はかなり優秀らしい。頭オカシイけど。
社長は有能でもゲームを作る才能はイマイチだったようで、全く売れなかった。そこで、もう潰れる寸前だし最後のソフトははっちゃけようぜ! と、『現実にあったらいいな!』をコンセプトにした『カード・サモナー』が製作された。社員全員で案を出し合い作ったこれは、売れるかどうかなんて関係なく、皆終始楽しく笑顔で満足が行く物が出来た。まさか当たるとは思わなかった。
『カード・サモナー』は、サモンカードと言う召喚に使うカードを集め、レベルを上げ、様々なクエストをクリアしていくと言う、単純なゲームだ。コンセプト通り、戦闘だけでなく日常生活にも役立つ物もたくさんある。
サモンカードとは、召喚獣が描かれたカードだ。つまり、様々な召喚獣を要所要所で使い分けクエストをクリアしろって事。召喚獣も補助もアイテムも全てカード化されていて、召喚獣も美しく格好いいと評判だった。 召喚獣のレベルを上げると召喚獣がスキルを覚え、クエストクリアでプレイヤーのレベルを上げると一度に召喚出来る数が増えたり、と幅も広がる。まあ、単純だけど面白いってのが売りだった訳だ。
その、召喚獣からアイテムからカード化されるモノのデザインは、全て僕に丸投げされた。いや、確かに元漫画家志望で、出版社に「絵は物凄く良いんだけど、ストーリーがねぇ…。あ、イラストレーターになったら? 君の絵なら売れっ子間違いなしっ!」って言われた程度には絵は得意だけど。つーか、何でイラストレーター勧めんの。普通、原作を基に作画やらないか? とか聞く所じゃないの?
話がズレた。ちょっとオカシイ社長に丸投げされ、しかもそれぞれの設定まで頭に叩き込まれ、満足行く物は出来たがそれが売れた。嬉しいが、シリーズになった。嬉しい、が……後のデザインまで僕担当とか酷くないか!? 死ぬから! 最近寝てないから! その上確認って事でゲームも徹夜でやらされるし! ……パソコン音痴を持ち出されたら、従うしかないけどね。僕絵以外では役立たずだから。
最近の仕事なんて、男の子向けの戦闘メインのソフト、女の子向けのほのぼのメインのソフト、疲れた大人向けの癒しメインのソフトの三本を、同時発売するだぁ? それぞれのサモンカードを作ってくれ、だぁ? マジふざけんなコノヤロォォオッ!! 僕を殺す気か! つーか死んだわッ!!
………。はい、まあ、死にました。やり遂げた…ッ、と発売されたソフトを見て、気が抜けた瞬間ポックリ逝ったよ。多分過労死ですよ。だって最近寝不足だしご飯も食べてなかったし。
そんな、死んだ僕が何故話しているか。それには理由がある。僕も詳しくは分からないけど、所謂……転生、って奴を体験しちゃったらしい。
……うん、僕も信じられないけど、実際起きちゃったし、仕方ないよね。
僕は三歳の時に鈴木綴だった僕を思い出した。記憶喪失の人が新しい生活をしていたら、急に記憶が蘇った、みたいな。喪失中の記憶もバッチリ保持しちゃってる、みたいな。戸惑ったけど、状況的な受け入れざるを得ない、みーたーいーなー!
……ふぅ、ちょっと落ち着こうか僕。テンパりすぎだ。テンション上げてみたけど、やっぱダメだ。いや、百歩譲って転生は良いとしよう。ブラックアウトした後の記憶はないし、死んだなら転生は儲けもん、夢でも問題ないしね。
でも、でもさ? これはないんじゃないかな? ――女の子を森に置き去りとか、ないわー……。 女の子。僕は男の子でした。転生により、どうやら性別が変わったらしい。まだ小さい内だから問題はないが、成長していくに連れ辛くなりそうだ。性別が気になり出す思春期には、もう慣れているかもしれないが。
閑話休題。
森――林かもしれない――で女の子が独りぼっちである。これは非常にヤバいのではないだろうか。野犬とか出たら対処出来ない。
ええと、僕の記憶? によると、僕と言う人格がなかったこの三年は抜け殻みたいだったようだ。で、まあ不気味がった両親は、僕をポイした――って所か。 ……まあしょうがない、のかなぁ。三歳だから殆ど覚えてないし、こっちの両親に未練はない。だから悲しいとか辛いとかはない。所謂無関心だ。
転生、か……受け入れなきゃ始まらないし、不思議と前世への未練はない。本当に不思議だけどね。だからここで暮らしていくのは吝かではない。でも、なぁ……捨てるにしても、せめて施設にして欲しかった。時代も場所も分からないのは痛い。どっちに行けば町なのかね…。
転生と言えば異世界とか思い浮かべるが、多分違うと思う。だってさ、記憶にある両親は黒髪茶眼と茶髪紫眼でどう見ても日本人(眼はカラコンか、僕が知らないだけで紫眼があるんだろう。多分ハーフかな?)だったし、名前も前と同じ綴みたいだしね。
日本だと仮定して、僕の名前は今風のちょっとアレな奴だから、時代も前と同じくらい何じゃないかと思う。服も、子供服で可愛らしい淡いピンク色のワンピースで襟にタグが付いている。やっぱり同じ世界だよな? あのイカレ社長もいるかな? いたら絶対ぶん殴ってやる。
ちょっと口が悪くなったが、気にせず気合いを入れて歩き出した。多分寝てる間に捨てられたはずだが、わざわざ着替えさせたり靴を履かせたりされている辺り、良心的な……いやいや、良心的なら施設に送るか。むぅ、まあ考えても仕方ないか。今更だよね〜。
さて、第二の人生を楽しむかぁ!
***
意気揚々と歩き出し、早三時間。体感だから実際はもっと短いかもしれない。
僕は現在三歳である。道も歩きにくいしお腹も空いたし、木々の葉が重なり合い空を隠すので薄暗い。……精神は、肉体に引っ張られる訳でして。
「ぅ、うっ…っうわあああああああああんっ!!」 大号泣しました。涙腺ゆるゆるで、兎に角泣き叫んだ。ボロボロ泣きながら、それでも歩く。
「びえええええっ! びええええんっ!」
泣いたせいか大分ゆっくりになった歩み。うぅ、両親めどんだけ深い森に僕を捨てたんだ! 殺す気か!? 殺す気か! そうなのか!
足が痛み何度も転びながら、トイレに行きたくなりその辺で用を足したり、それで涙が一旦引っ込んだりした。もう疲れたよぅ。
休み休み偶に歩き、ついに僕は踏み固められた道を発見した。舗装はされていないが、タイヤの跡があり田舎道ってイメージだ。な、長かった…ッ! ホンットーに! 長かった…。 どうしようかな、どっちに行こう? むぅ……よし、左に行こう! 両利きだけど元は左利きだったから。適当である。 てくてくと、否、よちよちと歩いていく。早く誰かに会いたい……警察署に保護されるのかな? 取り敢えず何か飲み物が欲しいな。で、柔らかい毛布に包まれたい。結構精神力がガリガリと削られているのだ。
ガサガサガサッ、と傍の茂みが揺れた。道に出てから暫く経った時で、精神的にも疲労が溜まりに溜まっており、ビクッと肩を揺らすも、確認しようとは思わなかった。
何が出てくるか、と見つめていると、ぴょこんとうさぎが姿を現した。うさぎ、だよな…?
僕が知るうさぎとは違う見た目に、思わず固まった。大きさは、今の僕くらい。薄紫の体毛に、パグやブルドックのような顔……そして、額から生えた一本の角が、アレをうさぎだと言い切るのを躊躇させていた。 唖然と呆けたように立ち尽くし見ていたからか、当然向こうも僕に気付く。一瞬目線が交差し――――うさぎモドキは、シャーッと牙を剥いた。そこから始まる、命懸けの鬼ごっこ。
「ひっ……、ぃあっ」
ズシャッ、と地面に滑るように転びながら、僕は必死で逃げた。アレは意外と鈍足で、それでも疲労困憊の僕より断然速く、先程から体当たりを仕掛けられている。皮肉な事にふらふらなのが功を奏しているようで、掠りはするもののちゃんと当たる事はない。 意味が分からない。ここは、日本じゃないの? 同じ世界じゃないの? あんなの、知らない。ゲームの中でしか知らない!
恐怖と混乱と疲労と痛みで、思考がぐちゃぐちゃになった僕。手足から流れる命の燃料が死への道に明かりを灯す。転生して早々、僕はまた死ぬのか。
過労死、は正直死んだって実感はなかった。でも今は違う。疲労も、痛みも、全てが明確な死を示そうとしている。肌をピリピリと刺す何かは、恐怖により具現化された殺気か、はたまた錯覚か。唯一確かなのは、夢であって欲しいのに――――現実だと言う事だけ。
僕が一体何をしたというのだ。ただ僕は、新しい人生を楽しみにしただけなのに。楽しいけど休む暇のなかった、仕事漬けの日々が終わったのに。のんびりほのぼのライフを送りたいって思っただけなのに。
――――神様は、残酷だ。期待させといて、それを簡単に奪おうとするんだから。
うさぎモドキから逃げて、どのくらい……いや、多分五分も経ってないだろう。僕には十分にも一時間にも感じられたが。もう、諦めようか……疲れちゃった、もん。
声もなく涙を流し、迫り来る死を見つめる。いやにゆっくりに感じる。そして、僕は。
「【アースバインド】!」
「【アクアジャベリン】!!」
――――力強い声の主に、寸前で助けられた。どうやら僕は、まだ終わらないらしい。
うさぎモドキを拘束した土の手も、うさぎモドキを貫く水の槍も、この時の僕には衝撃を与えるには至らなかった。ただただ、助かった事への安堵で、僕は意識を飛ばした。
倒れた僕が最後に見たのは、此方に駆け寄る人の姿だった――。