表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

憚れる家

作者: 避暑地
掲載日:2026/08/08

「陸斗、だめだろ。ほら謝りに行くぞ」

陸斗は俯いたまま黙りこくる。

「なあ、陸斗。

ほら、悪いことしたんなら謝らないと」

だが顔を上げずに陸斗は未だ俯いている。

次男の陸斗が近所の家の敷地内にサッカーボールを投げ入れてしまった。本人曰く、というか、仕方がないと言うことも重々承知である。

しかし、教育のためと正人はしつこく陸斗に言う。

「なあ、黙ってても仕方がないだろ?謝らないとダメだ。謝ってボールを返してもらおうな」

腰を低くして正人は彼に近づく。

それでもまだ彼は口を開かない。

「なあ、陸斗、ほら」

だがしかし、彼はまだ俯いたままでいる。

正人は少し怒りを声に表し、彼にまた言う。

「いい加減に、」

そう言いかけた途端、陸斗の口が開いた。

「こわい」

疑問が頭に浮かび上がった。再び陸斗が言う。

「あの家の人、こわい」

もしかして、陸斗は私の見ていないところで、

ボールが入ってしまった際に謝りに伺っていたのかもしれないと、怒りをゆっくりと抑えた。

「謝ったのか?」

陸斗は少ししたのち、うんと頷いた。

「謝ったのか、偉いな」

ボール、そう言いかけると

妙なことを言い出した。

「見てるの、ずっと」

その家に目を向けた途端、

正人は鈍い声を出した。

2階に位置するその部屋から、

中年女性がずっとこちらを見ていた。

驚き怯んでしまったが、親は親だ。

ここは責任をとって。そんな思いを馳せながら、「待ってろ」と陸斗に声をかけ、玄関へと手招きをした。

俯いたままの陸斗はぎこちない足取りで我が家に入る。

私はその目になるべく目を合わせないように目的の場所へと足を進めていく。

確か、名前は玉田といった。ご近所付き合いも乏しいのでこれと言った面識がないが、どんな人物が住んでいるのかと言うことは知っている。白髪の年配のお爺さんだ。

ということは、今こちらを見ている女性は娘であるか?この一軒家を買って2年相応が経つが、そう言った情報は入ってこない。

まあ、頭おかしくはない。

ようやく正人はその玄関の前に辿り着いた。

表札には筆で書いたような字体の

玉田という文字が書かれている。

私は固唾を飲むかの如くそのインターフォンを鳴らす。

音がくぐもっていて不気味な雰囲気を醸し出す。

その空間に1人立ち尽くすように正人は静けさと対峙していた。

「すいません、すいません」

と声をかけ続ける。

白髪の男性がいないにしても2階にいる彼女がいるはずだ。なのに。

もう一度迷惑だと思われるが、インターフォンを鳴らした。

しかし、

大凡の時間を空けても応答はない。

所謂、異変のようなものを感じ始めたのはこの時からであった。

いや大体、普通にしても窓の外をじっと眺めている。

それも周囲ではなく一点をただ見ているのだ。

その時点で思えば不可思議だったのだ。

もう一度呼びかける。

しかしながら応答はない。

まあ、いいか、なんて少しの思いを頭の隅に浮かべて、庭へと足を踏み締めた。

しっかりと手入れがされており感心する余裕さえも芽生えた。

「失礼します」

そう言いながら少量の砂利を跳ね除けるように

足を進める。

そこでまた違和感が生じた。

女性の声が明らかに家の中から聞こえてくるのだ。

「すいません、すいません」

と声をかけ続ける。

白髪の男性がいないにしても2階にいる彼女がいるはずだ。なのに。

もう一度迷惑だと思われるが、インターフォンを鳴らした。

しかし、

大凡の時間を空けても応答はない。

所謂、異変のようなものを感じ始めたのはこの時からであった。

いや大体、普通にしても窓の外をじっと眺めている。

それも周囲ではなく一点をただ見ているのだ。

その時点で思えば不可思議だったのだ。

もう一度呼びかける。

しかしながら応答はない。

まあ、いいか、なんて少しの思いを頭の隅に浮かべて、庭へと足を踏み締めた。

しっかりと手入れがされており感心する余裕さえも芽生えた。

「失礼します」

そう言いながら少量の砂利を跳ね除けるように

足を進める。

そこでまた違和感が生じた。

女性の声が明らかに家の中から聞こえてくるのだ。










「ど   う  ぞ  お はい りに

     な   ってくだ     さい」














確かにそう言っていた。

例えて言うと歪んでいる声。

今にも消えてしまいそうな

弱々しい声が聞こえた。

しかしながら要件はこの家の庭に転がる我が子のボールを回収するというだけで

他に用はない。

「息子がサッカーボールを」

そう言っている束の間にもまた















「ど   う  ぞ  お はい りに

     な   ってくだ     さい」













矢張り只事ではないと念を入れてその窓を見ることにした。

おそらくその場所に彼女がいる。

瞬時にその顔を上げてみると

先ほどまでとは違い、

口角をあげ笑っている彼女を見た。

改めて思ったことは普通でないと言うことだ。

その頬を、見たくもないのに見てしまう。

ただただ不気味である。

目を逸らすことなくずっとその目は揺れる。


私はその悪寒と嫌な気分をとくと味わった。

私は最後に相応の対応をする。

「すいません、勝手に入ってしまって。

ボールをとりにきました。

勝手なことだとは承知の上ですが

ボールだけでも。ボールだけでも」

すると女は顔を突き出した。

どういうわけだか、まだ閉まっているはずなのだが、窓をすり抜けて顔を出している。

やがてその首は私のいるこの下に向ける。


















「あぎゃっぎゃっぎゃっぎゃ」


















女が突然、気の狂ったような笑い声を上げた。

私はそれから逃れるように

地面に首をやった。

しかしながら視界の隅にそれはある。

またもそれを凝視してしまったのは

その存在が急激に消えたと

いうことに気がついてしまったのだ。

窓をとくと見る。

やはりその空間に女はいない。

またもある場所に目をやった。

サッカーボール。

あれは確かに陸斗のサッカーボールだ。

クリスマスにやったサッカーボール。

どういうことだか、どういうわけだか。

何故だかそのボールが陸斗の

首に見えてしまったのだ。

息が詰まって正人は顔を上げた。






「おま  ち  してまし た」





先ほどと同じような顔を見せる女が

すぐ目の前に現れた。

女は両手を私の頭に乗せる。

その力は圧倒的であり、

指が頭部に突き刺さるような痛みが走る。

「痛え」

くきききき、と笑いを抑えきれない女は

その口を大きくした。

徐々に口が開いていく。

みちみちみち、と異様な音が鳴り響き

生々しい音が私の両耳に突き刺さる。

明らかにその口の大きさは私の頭部が

入ってしまいそうになるほどの大きさに。

目を思い切り瞑る。

息を締め殺すように。

息を殺すように。

その音が鳴り止んだように

耳鳴りが止み始める。

一息、はっと、声を漏らした両目を開けた。

女の姿は消えていて、あたりは平然と、

かつ何もなかったような空気であった。

正人は安堵の息を吐き、その膠着とした肩を撫で下ろすようにして力を抜いた。

あるのはその家。

家自体は何も変わっていない。

それとその下を見る。

サッカーボールがあった場所。

あったということは消えたという

事実がそっと襲った。

どこだ?

陸斗のサッカーボール、どこにある。

どこにあるサッカーボールよ。

不意に見たその場所。

玄関扉の隅に目をやった。

そこに確かにサッカーボールが転がっている。

ご近所付き合いなんてものからは遠ざけるように勢いよくそれを奪うようにして

その場を去ろうとした。

その両腕で喰らいつくようにサッカーボールを掴む。

振り返って軒先を出た。

その直後、私の右耳から強烈な

クラクションの音が聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
相手の庭に入るシーン、文章がコピーされたみたいに二重になってますよ。流石にそちらは誤字報告できないので、手動でどうぞ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ