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世界観と“術”と病

 すーばーらしーいーあーさがきた、きーぼーうのーあーさーだ、よーろこーびにむねをひーらけ、おーおぞーらあーおーげー。


 ……なぜか知らんが、夏休み恒例の朝の体操の歌が出てきた。ナゼ。


 むくっと体を起こし、寝ぼけ眼のまま、周りを見回した。


 そこにあるのは、優しい朝の光に照らされた室内と、見慣れない木製の壁と床。

 ふっと隣を見ると、昨日拾った白い子供がすやすやと寝息を立てている。



 見慣れた白く硬質な病室とは違う、暖かな空間。

 窓の外から鳥の声が聞こえた。


「……ふああぁぁ」


 あくびが出た。まだ朝の早い時間帯らしい。もう一眠りしようと、もぞもぞと布団の中に潜り込んだ。

 もう一眠りぐらい、しても構わないだろうと思いながら。



 ――――で、気付いたら昼でした。


 真上からさんさんと降り注ぐ太陽の光に、活気にあふれる市場の呼び声で目が覚めて、こんなに時間がたったことに驚いた。隣を見ると、朝と同じ格好でゼロが寝ていた。


 上体を起こし、ベッドから降りる。大きく伸びをして、体をほぐした。


(……ずいぶんよく寝たな)

 体の軽さに驚きながら、こうして立っていられる喜びを噛みしめた。


(今日はどうするか)


 第一に食事を取って、その後にゼロの服だな。またティズに世話になる事になる。

 とりあえず、ゼロを起こすことにした。


~~~~



「すみません……ユウ様をお起こしすることができず……」

「ゼロ、いいって言ってんだろ? それよりほら、服選べ服」

「は、はい……」


 ここはティズの服屋である。遅い朝食、というか昼食を食べた後にやってきたのだ。ティズに言って、ゼロ用の服をいくつか出してもらった。今まで来ていた服はぼろぼろで、とても着れるような代物ではない。

 ゼロの前には色とりどりの服が並べられている。ゼロは落ち込みつつも、真新しい服を見て目を輝かせ始めた。


(……そりゃそうだわな)


 ゼロも女の子だ、買い物が楽しいのも当たり前だろう。それに、いままでろくな生活をしてこなかったはずだ。ゼロはとても楽しそうに見えた。


 ティズが奥からなにやら引っ張り出してきた。


「お嬢ちゃん、アンタにはこういうのが合うと思うよ」


 そういって取り出したのは、いくつかの腕輪だった。

「なんで腕輪なんだ?」

「そういや、アンタは何も知らないんだったね。こういう腕輪とかの装飾品は、ほとんどが宝石や結晶なんかで作られてるんだ。それに魔職人が魔力を込めると、立派な魔法具になる」


 ティズは腕輪をもてあそびながら言った。


「魔法具には能力を高める効果があってね、冒険者や傭兵なんかの間では必需品さ」

「……俺の時は何にも出さなかったくせに」

「あんたは今身につけてるやつだけで充分さ。どれだけ奮発してやったと思ってるんだい。もう防具を買わなくてもいいくらいだね」

「これ、そんなにすごいのか?」


 俺は今来ている服を見下ろしたが、そんなスゴイ風には見えない。

 まあ、こんな服を着てるだけで俺に取っちゃあスゴイんだけど。


「全部で金貨三枚だろ? 金貨一枚で平民の半年分の給料になるよ」

「……まじでか」


 平均月収を二十万円とすると、半年分だから六ヶ月……百二十万!?

 つまりこの服は三百六十万円!?


「うそだろ……」

「本当だよ。まったく、金勘定も出来ねえのかい」


 ティズがあきれたようにため息をついた。


「じゃあなんで腕輪なんだ? 首飾りとか色々あるんだろ?」

「もともと“白”は魔法が使えないんです。でも、武術に関しては天才的な能力を見せるんです」

「武術はたいていが腕と足を使うからね。目標に近い装飾品を選んでおいたほうが効率がいいのさ」

「武術か……ゼロも戦えるのか?」


 俺が聞くと、ゼロはフルフルと首を振った。


「私は戦えません。産まれた時に施された“術”のせいで……」

「“術”?」

「はい」


 ゼロはおもむろに両腕の袖を肩までめくった。

 あらわになったそこには、なにやら幾何学的な模様が刻み込まれている。

 つか、ティズさんが邪魔でよく見えねえ。


「私達“白”は、男は産まれた時から武術を叩き込まれますが、女はこの紋様を刻まれるんです」

「“封印”の紋様かい。はじめてみたねえ」

「はい。女は戦えないように、“白”の特性を封じます。それは何十年も前から続いてきたことです」


 ゼロの話を聞きながら、俺は首をかしげた。


「なんで封じちまうんだ? 話によれば“白”は差別されてるんだろ? それだったら、少しでも戦力を蓄えておいたほうがいいんじゃないのか?」

「いいえ、差別されているからこそです」


 ゼロは顔をうつむかせながら言った。


「差別されているからこそ、女に“術”を施して抵抗できないようにするんです。……いざという時の供物のために」

「……信じられないな」

「そうかい? あたしは信じるけどね。言っただろ、こんなことは“当たり前”なんだよ。あんたがどんなに平和なところで育ってきたか知らないけど、あんたのものさしで世界の全てを測ろうとするんじゃないよ」

 ティズは言った。まるで幼い子供を諭すかのように。


 “当たり前”。……本当に、そうなのだろうか。




「“当たり前”ね……じゃあ、あんたはそのことに納得してるのか?」




 ティズは顔をこわばらせて凍りついた。まるで、聞きたくないと思っていたように。

 ゼロもうつむいてしまい、ぎこちない雰囲気が流れた。


「……ちょっと外の空気を吸ってくる」


 その顔を見ていられなくて、俺は外に飛び出した。



~~~~



 大通りから一本外れた、さびれた薄暗い路地に俺はいた。

 どこの家とも知れない壁に背中を預け、ずるずると座り込む。


 体の力を抜いて、はあ、と息を吐いた。


『“当たり前”ね……じゃあ、あんたはそのことに納得してるのか?』


 さっき自分が発した言葉が頭に響く。

 考えるよりも先に言葉が出ていた。自分でもなぜそんな事をいったのか分からない。


 さっきのティズの顔が、網膜にこびりついていた。


(でも、おかしいと、思ったんだ)


 差別が当たり前の世界。

 それを“当たり前”だという人々。


“上があって下がある。上のものは敬われ、下のものは虐げられる。それが普通だ”


(……違う、そんなことは、ない)


 ……平和ボケした日本から来たからかもしれない。考えが受け入れられなかった。

 それに、上下が努力で決まるならまだいい。それは受け入れるべき当然の結果なのだから。

 でも、生まれで決まるなんて。





 子は親を選べないのに。





 頭が、霞がかかったかの様にぼんやりとしている。

 呼吸がどんどん苦しくなる。あえぎながら左胸をわしづかんだ。



 ドクン、と体が揺れた。



 ――――――――発作だ。

ゼロの“術”はあとでユウ君に解いてもらうつもりです。

けど、なんだかユウ君死にそうです。大丈夫か……!?


この小説は作者の考えと違う方向にあれよあれよというまに転がっていってしまうので、もしかしたら……。

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