表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/50

“白”と“黒”

 着替え終わり、奥から出てきた俺を見て、おばさんは満足げに顔を緩ませた。


「へえ、似合うじゃないか。サイズは大丈夫かい?」

「ああ、平気だよ。ま、馬子にも衣装ってやつかな」

「なんだいそれ?」

「俺の故郷のことわざだよ」


 俺は着替えたばかりの服を見下ろした。


 黒で統一された色が、髪と瞳の色にとてもあっている。

 動きやすい素材で作られたシャツやベストに、ズボンにつけられたベルト。

 ベルトには袋などを吊り下げられる機能が付いている。

 そして、フード付きのマントと来れば、


(俺、冒険者っぽい!!?)


 やべー、なんか感動する。


「で、あんた宿は取ったのかい」

「え、宿?」


 新しい服に見とれていた俺は、おばさんの問いに首をかしげた。


「今のうちに取っとかないと、夜になってから野宿、なんて事になりかねないよ。ここは曲がりなりにも王都。旅人や観光客の数が半端じゃないんだからね」

「へーえ。んじゃ、一回行ってみるかな。こっから一番近い宿は?」

「どんなのでもいいなら色々あるけど、私のお勧めは【黒の巣】だね。値段も手ごろだし、結構いい穴場だよ」

「ん。何から何までありがとおばさん」

「おばさんじゃないって何回言ったら分かるんだいこのチビガキが!!」

「ってえェェェェ!!」


 本日二度目の制裁。頭が割れる脳細胞が減る背が縮む!!


「じゃあ名前! 名前教えてくれ。俺はユウ・クロキ」

「ふん、ガキがいっちょまえによく言うよ。あたしはティズ・クロード。困ったことがあったらなんでもいいな」

「了解! じゃあなティズさん」


 俺は服屋をでた。



 ~~~~~


 で、俺は迷うことなく【黒の巣】について、部屋を一つ取った。

 なかなかいい部屋で、狭いけどベットふかふかだし、文句なしだ。


 窓から外を見ると、ようやく日が大地に埋まろうとしていた。


「腹減った…………」

 ここに来てから何も食べていない。

 一度食堂に下りて従業員の人に聞くと、ここでのサービスは朝だけらしい。


 一度自覚した空腹感はなくなるどころか更に存在をまし、俺は外の露店で食うことに決めた。


 ~~~~~~


 で、歩くこと十分強。

 露店を適当に冷やかして歩きながら、食べ物を探す。

 しかしどれがうまくてどれがまずいのかがさっぱり分からず、いまだに食べ物にはありつけていない。


 俺の胃は繊細なんだよ!異世界まで来て食中毒なんて起こしたくない。

 食中毒は軽くトラウマだ。


 とりあえず、うまい匂いを発見したので歩いてみる。

 うまい匂いのするほうにひたすら歩く。


 歩いて、歩いて、歩いて。


 気付いたらどことも分からない路地の中だった。


 ちゃんと匂いを追ってきたのだが、ここがどこだかさっぱり分からない。

 とりあえず、また歩く。


 歩いて、歩いて、歩いて。

 見えてきたものは、うまいものとはかけ離れた光景だった。


「ヒャハハハハ! 上玉じゃねえかこいつァ。しかもこのガキ“白”だぜ!」

「いいこにしなァおじょーちゃん。悪くはしねーからよ」


 声につられて横の路地を覗き込むと、聞こえた声とあわせて、他にも三人ほどの柄の悪い男達。合計五人の野郎が、何かを囲んで立っていた。

 一人がかがみこんだ。


「しっかしまあ綺麗なお顔だこと。“白”のガキってだけでも高ぇのに、この面じゃあ、どこかのお貴族様にかわいがられるんじゃねえか?」

「ヒャハハハハ!! 違いねえ!!」


 俺が見ると、野郎たちに囲まれているのは、まだ幼い少女だった。


 おびえたようにうずくまり、震えている。さらに、俺が驚いたのが髪だ。


 腰まである長い髪。そして、その色は綺麗な白だった。

 じいちゃんばあちゃんの縮れたような毛ではなく、美しくなめらかな髪。


(キレイだな…………)

 素直にそう思った。


「じゃ、さっさと売り飛ばすか」

「金貨何枚になることやら…………ヒヒヒ!」


 男達が少女の腕を無理やり引っ張った。


 次の瞬間、俺はそいつらの前に姿を現していた。


「っ!!? 誰だテメエは!」

 俺を見つけた男が声を上げる。


「別に、通りすがりの若者ですけど。オッサンどもがいたいけな少女を誘拐しようとしているのを、見過ごせるわけないだろーが」

「ああ!? てめえヒーロー気取ってんじゃねぇぞ!」

「見られたのはまずいな。やっちまえ!!」


 一人、二人と大声を上げて襲い掛かってくる。



 だが、あまりにも遅い。


「うっせーんだよ糞が。ご近所さんの迷惑も考えて、」


 俺は思いっきり足を引いて、あの時エセ神を蹴ったように振りぬいた。



「静かにしとけッッッ!!」


 二人の体に俺の脚がめり込んだのが分かった。


 二人は悲鳴をあげるまもなく吹っ飛び、他の仲間にぶつかって気絶した。


 唖然としている男達に声をかける。


「さ、さっさとその女の子を渡してもらおうか」

「ふ、ふざけやがってェェェェ!!」


 その時、薄暗かった路地に一筋の夕日が差し込んだ。

 男達の背中のほうから差してくる光が路地にあふれ、視界が一気に明るくなった。


「っ!!? や、やべえ逃げろ!あいつ“黒”だ!!」

「う、うわああああああああ!」


 俺の髪と目の色が見えたらしいそいつらは、気絶した二人を担いであっという間に消え去った。


「ったく、逃げるくらいなら最初ッからすんなっつーの。そんなにこの髪が怖いかね?」


 ぶつぶつ言いながら少女に近づく。と、彼女はおびえたようにあとずさった。

 しかも目には涙。


(……なんか、悪いことしてる気になってくんな……。それにしても)

「キレーな髪だよな~」


 少女は驚いたように目を見開いた。

 俺はそんなことに気付かず続ける。


「俺がじいちゃんになってもここまで綺麗にゃなんねーぞ。しっかしうまく色素抜けてるよな」

 じろじろ見ながら一人でつぶやいていると、おずおずと少女が口を開いた。


「あ、あの」

「ん?」

「ありがとうございます。助けてもらって……」

「いーや、別に? つかそっちのほうが大丈夫?」

「は、はい。なんともないです。“商品”には傷をつけないので……」

「……“商品”?」


 俺は顔をゆがめた。さっき話したばかりのティズさんの声が頭によみがえる。

『ここじゃ、差別なんて当たり前、それが常識なんだ。奴隷なんてのもいる』


 奴隷。“商品”とは、そういうことなんだろう。


(でも、)


 まだ十歳ぐらいの子供が、そんな事を言う。



 それは、酷く哀しい。





「なあ、お前、名前は?」

「……ハク。でも、この名前は嫌いです。“白”であることを、忘れられなくなる……」

「そ。……んじゃ、お前の名前は今から“ゼロ”だ」

「え?」



 少女―――ゼロが驚いたように目を見開く。


「“ゼロ”っていうのは、俺の故郷で“なにもない”ことを表すんだ。お前はお前、色なんて関係ねェ」


 俺は笑った。


「お前、気に入った。一緒に来ないか?」


 少女はしばらく何も言わなかったが、少し後に泣きながら笑った。


「………………っはい!!」


 ゼロの目じりから、最後の一滴が零れ落ちた。


結構強引に仲間にしちゃいました。とりあえず一人目ゲットです。

次は、何も知らないユウ君に、ゼロからこの世界の事を教えていただこうと思います。

誰か、文才分けてください…………!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ