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服屋と色

なかなか話が進まない……。


「……うし、とりあえずこんくらいか」


 今、俺は市場から一本横道にそれたところにいる。

 大通りが広すぎるせいで、一つ通りが違うだけですごく静かだ。

 で、手の中には大量の荷物が。


「めぼしいものは全部買ったかな……」


 ついさっきまで、俺は市場で買い物をしていた。

 とりあえず目に付いたものを片っ端から買い込んだ。おかげで荷物は両手で抱えきれないほどになってしまっている。

 それこそ薬草やら水晶やら魔術書やら食料やら寝具一式やら多種多様だ。

 

 え? 金はどうしたかって?



 あの例の紙から神を呼び出して、金を巻き上げ……ゲフンゴフン、いただきました。


 袋一杯の金貨と、四次元ポケット的なカンジの不思議カバン。

 その金を使い切らんばかりの勢いだったな。


 とりあえずカバンの中に荷物を全部放り込んで、疲労した両腕を大きく回して伸びをする。

 市場はとても混雑していて、つぶされないように体を張って筋肉が疲れた。

 

 ちなみに、最初に加減が分からず思いっきり突き飛ばしてしまった人は他の人を五人くらい巻き込んで吹っ飛んでいきました。

 ……だれが驚いたって、俺が一番驚いたよ。


 「他に必要なものは…………防具と服と武器、か」


 ちなみに服は病院着です。


 いや、飛び降りたところが病院だったから、着替える暇がなかったんだよ。

 おかげで市場にいた人々から白い眼で見られていた(気がする)。

 


「……とりあえず服だな」


 よし、と気合を入れて、再び市場の喧騒の中に入っていった。


 ~~~~~


 しばらくさまよった後に服屋(らしきもの)を発見。

 チラッと中を覗くと、カウンターに、座っている立派な体格のおばさんが見えた。


 ここでいいか。


 ドアを引いて中に入る。気付いたおばさんがこっちを見たあと、少しだけ目を瞠った。

 そのあと、興味深そうに声をかけてきた。


「いらっしゃい。珍しいね、“黒”のお客さんなんて」

「“黒”?」

「おや、知らないのかい」

 カウンターに近寄りながら問いかけると、

 おばさんはちょっと驚いたようだ。田舎から出てきた若者だとでも思ったのだろう、詳しく説明してくれる。


「お前さん、地方の出身かい? まあ、そうなら仕方ないね。服もなんだか特徴的だし」

「故郷の民族衣装でね。それより、“黒”っていうのは一体何なんだ?」

 

 ごめんおばさん。故郷の民族衣装は着物であってけっしてこんなジジくさい病院着じゃありません。

 なんて言葉を心の中でつぶやきながら、続きを促す。


「“黒”っていうのはね、黒目黒髪の容姿を持ったやつのことさ。他にも、赤目赤髪なら“赤”、それに、青目青髪なら“青”って呼ばれる」

「じゃあ、おばさんは“金”か?」

「だれがおばさんだい。あたしはまだ二十代だよ」

「っいってえェェェ!!」


 思いっきりげんこつをくらった。

 目から火花が飛んだ気がしてふらふらする。

 つーかおばさん二十代? うそだろ詐欺だろお詫びして訂正しろ。



 どう見たって、子供を3人は持ってて旦那を尻に敷いてそうな三十代後半の主婦だろう。



「それに、その答えもハズレ。あたしは“金”じゃないよ」

「え? でも金髪に金目…………」

「この目はね、金に見えるけどただの明るい茶色さ。だから、あたしはただの“無色人”だよ」

「む、“無色人”?いやでもおばさ…………オネエサンは透明じゃないよな?」


 オネエサンからの刺すような視線に慌てて言葉を訂正する。


 つーか、“無色人”とはなんだ。


「あんた、本当に何も知らないんだね…………」


 呆れたような声とため息は無視する。


「“無色人”ってのは、ようするに“色”の称号を持ってないやつのことだよ。逆に持ってるやつの事を“有色人”って呼ぶ。あんたは“黒”の称号をもってるから“有色人”、あたしは持ってないから”無色人”さ」

「ふーん。でもさ、そんなもんもってて何になんの?」


「“有色人”ってのは、ようするにお貴族さまのことさ。色の称号を持っていないやつよりも、持っているやつのほうが格段に優遇される。他にも色ごとに階級があって、一番上が“金”、次が“黒”、他に“銀”やら“赤”やらいろいろあって、一番下が“白”だね。“白”は、唯一“有色人”でありながら“無色人”よりも階級が低くて、その分世間から冷たくされてる」

「…………それって、さ。差別だよな」


 俺がそういうと、相手はすこし驚いたようだった。続いて、優しげな声が降ってくる。


「あんた、相当平和なところで育ったみたいだね。でも、そんな考えここでは捨てな」


 厳しい声音と視線。


「ここじゃ、差別なんて当たり前、それが常識なんだ。奴隷なんてのもいる。ちょっとの失敗で“無色人”なら打ち首さ。普通なら、“有色人”がこんな店に入ること自体がありえないんだ。あんたみたいな綺麗な“黒”は初めて見たから、悪いようにはされないだろうけど、ここの事に口出しするんじゃないよ。そんな事をしたって、何の得にもなりゃしない」

「………………そっか」


 おばさんが表情を緩めた。俺が納得したと思ったんだろう。


「なら、――――――――――」

「でも、」

 でも、と俺は続けた。


「俺が今まで生きていたところでは、全部が全部同じだった。ここの言葉を借りるなら、家族も親戚も友達も赤の他人も、全員が全員“黒”さ。中には自分から髪や目の色を変えるやつだっている」


 おばさんが、驚きに目を見開いた。


「だから」


 俺は、笑って言ってやった。





「色があろうがなかろうが、階級が高かろうが低かろうが、俺には何の関係もないのさ」




 …………しばらくあと、おばさんはふっと息を吐いた。


「……あんた、きっと早死にするよ」

「そんな気はサラサラないけどな」


 俺たちは顔を見合わせて、どちらからともなく笑い出した。


 ひとしきり笑いあった後、俺が話を切り出した。


「で、服を買いたいんだけど」

「服かい?確かにそんな格好じゃ目立つだろう。いいのを選んでやるから、少し待ってな」


 おばさんはそういって店の奥に消えると、程なくしてすぐに戻ってきた。


「けっこういいヤツ選んでやったから、高いよ」

「だいじょーぶ。金ならあるから」


 ふところの袋から金貨を取り出してジャラジャラ音を鳴らすと、おばさんにまた呆れられた。


「ほんと、アンタみたいなヤツは初めてだよ。はい、金貨三枚ね」

「ありがと。奥で着替えてきても良いか?」

「いいよ。サイズがあわなかったら言いな」


 金貨を渡して奥の試着スペースへと入る。俺の世界とそんなに変わらない服と、まったく着方が分からない服に混乱しながら着替えを済ませた。



 その間に。


「ほんと、おもしろいやつだねえ……」


『俺には何の関係もないのさ』


 この国にはびこる“闇”。自分達はそれを知りながらも、それが「必要な犠牲」だと言い訳をして、目をそむけて逃げていた。


 でも、そんな“闇”を、あの少年は鮮やかに断ち切って見せた。

 いっそ軽々しいほど簡単に。


「ほんとに、おもしろいやつだよ…………」


 入ってきた新しい“風”。


「何か、変わるかもしれないねえ……」


 どちらに転がるのかは、まだだれにも分からないけれど。






さあ、やっと神以外の人物登場!

これからちょいちょい出していく予定です。

つーか、自己紹介させるの忘れたァァァァ!!

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