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遭遇



 ――――暗い森の中に、魔力がゆっくりと収束していく。


 眩いほどの光を放っていた球体のなか、薄れていく魔力の塊から俺たちは姿を現した。



 魔力が完全に霧散すると同時に、俺は酷い疲労感を感じて地面に膝を突いた。


「な、んだ……? すっげ、疲れた……」

「当たり前だろうが、この馬鹿者が! 陣すら用意せずごり押しで転移するなど正気か!? 貴様の魔力量があと一滴でも少なければ三人とも死んでおったわ!」

「知らなかったんだから、仕方ねえだろ……」


 荒い呼吸でキールに言う。ゲームや漫画ではわりと軽い感じで使ってるからいけると思ったのだが、予想以上にきつかった。体内に感じられる魔力は二割ほどしかないし、状況が許せば今すぐ地面に倒れこみたい。


 しかし、そんな事をしている暇は無いのだ。


「ゼロ……!」


 右手で抱きかかえて居たゼロを地面に寝かせる。

 転移前と変わらず、白い顔に意識は戻っていない。焦って顔を近づけてかすかな呼吸があることを確認して安堵した。細い手首からは、きちんと脈も感じ取れる。


「よかった……生きてる」


 額の汗をぬぐった。安心したからか気が緩み、意識が飛びそうになるが唇をかんで耐える。今はまだダメだ。ここがどこなのか、安全なのかを確認しなければ。


「キール……ここがどこだか、分かるか」

「むしろ俺が聞きたいな。貴様は一体どこを目指したんだ」

「どこって……とりあえず国外、で……」

「たったそれだけのイメージでか!?」


 キールが驚きのあまり目を剥いた。その様子に俺まで驚く。


「なんだよ……なんかおかしいか?」

「そんな不安定な構成で魔術を行使するバカはお前ぐらいだ! 下手すれば術中で四肢バラバラになっていても不思議じゃない、というよりも成功したことを信じたくない!」

「いや、実際出来ちまったし……」

「貴様……一体どれだけの魔力を保有していればそんなことが出来るのだ」


 キールは呆れたような表情で俺に言った。俺は疲れ切って動くことも出来ず、ため息を吐いてゼロの横に座りこむ。


 空を仰ぐと、やけに暗褐色をした木々が空を覆い隠していた。太陽も出ていないのか、酷く暗い。かろうじて二人の姿が分かるぐらいだ。

 物音ひとつしない不気味な森。何か出てきそうな、背筋が寒くなる雰囲気を持っているのが分かって余計に気が滅入る。


「……とりあえず俺が周囲を確認するから、貴様は動くな」

「確認するってどうやって……ああ、そういやお前なんか能力あるんだったな」

「ああ。結局、“勇者決定戦”では使う暇も無かった。俺はまだ未熟だからな、戦いながら“瞳”を発動することが出来ん」


 キールは悔しそうに言うが、その金の瞳に以前のような暗い絶望や諦めの色は無い。どうやら、兄に対する感情も少しは収まったようだった。



「行くぞ。――――“千里眼”」



 ふわり、とキールの瞳がほのかな光をともした。

 キールの曇りの無い純粋な魔力につられてか、わずかに風が吹き始めた。キールの髪が緩やかに揺れる。


 俺はその幻想的な光景に思わず魅入った。柔らかい光があたりを静かに照らす。


 数分後、その光はゆっくりと消えていき、それと同時に風も収まった。感触を確かめるように何度か瞬きするキールが、難しい顔でこちらに向き直る。


「だめだな、俺が感知できる範囲は全部森だった。動物も何もいないようだ」

「範囲の広さはどれくらいだ?」

「せいぜいが、アイヤリム城一つといったところだな」

「あんな馬鹿でかい城全部か? それだけ出来れば上等だろ。俺なんて、お前らの顔がようやく分かる程度にしか見えないってのに」



 エセ神に強化されたおかげか、ある程度は暗闇でも見えるようだが、“千里眼”には遠く及ばない。力を使い始めてまだほんの数年だろうに、大人になれば凄まじい能力になりそうだ。


「だから、そんな顔すんな。お前は自分を過小評価しすぎだ」

「……いや、俺は、まだ……」

「はいはい、もうそれ以上言うなよ。お前に謙遜されると俺の立つ瀬がなくなる」


 笑って言えば、まだなにか思うところはあるようだが、それでも呆れたように笑ってくれた。


 自分の力を過大評価して傲慢になるよりはましだといえるのかもしれないが、それでも自分の持つ力を知っておかなければ、出来ることも出来なくなる。


 まあ、自分を過大評価した挙句こうやって疲れ果てている俺よりもましだが。



「しかし、どうするか……」

「人も何もいないとなると、やはりこの森から出るしかないだろう」

「まあ、しょうがねえか。とりあえず休憩させてくれ。敵もいないんだろ?」

「何をもって敵と定義するのかは微妙だがな。何も無いのだから、敵も味方も無いだろう……て、っな!?」

「おい、どうした?」


 突然キールが上げた声に驚く。そのただならない様子に焦り、すぐに動けるように震える膝を叱咤して中腰の姿勢になってゼロを抱え込む。

 右手を白刀の柄にかけて、じっと耳を澄ました。


「何かが、近づいて――――ユウ! 今すぐそこから、」


 キールの言葉に反応する前に、がさり、と目の前の木の枝が揺れた。






「――――――――そこの侵入者ァ、お前はすでに包囲されているゥ、両手を挙げて投降しろォ」


 ――――暗闇の中で、姿の見えないモノが笑った気がした。



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