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知らない


 そろそろこいつから解放されたいッ……!


「ねえ、こんな子供ばっかりで“勇者決定戦”を勝ち抜いたのってさ、一体どんな手を使ったの?」

「しかも“使えない第二王子”になんの力も持たないはずの“白”の女の子」

「そのうえリーダーは“黒”で、なのに他の“黒”には知られてないみたいだし」


 ぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺら。


 さっきから休みことなく質問し続けてきて、こいつが口を開くたびにちびっ子の周りの空気の温度が下がっていってるんですけど。そろそろ零地点突破しそうなんだけど!


 俺が口を挟もうとしても、ことごとくさえぎられてしまう。なぜか男はちびっ子一人に話しかけ続けた。その良く回る口を激しく縫い付けたい。


 柔らかそうに天井からの光を跳ね返す金髪に、愉しげに細められた青い目はぶっちゃけイケメンだ。女に声をかけたらまず断られることは無いだろう。かもし出す雰囲気もどこか甘い。というか若干甘ったるい。


 しかし。


 いくら表情が笑顔でも、その声音が優しげでも。


 ――――人の悪意ってもんは、ストレートに伝わってくる。


 その目に映るかすかな侮蔑と傲慢の色。

 ちらちらと見え隠れする無遠慮な言葉の棘。


 ちびっ子はそれを確かに感じ取り、今ではもう相手に完全に背を向けていた。

 それでも、その声は耳に忍び込み、幼い心を簡単に揺さぶる。




「ねえ、“蕾の王子”サマ。ちょっとは答えてくれたっていいんじゃない?」




 聞いてもいないのにこいつがしゃべったのは、ちびっ子に関する決して良くは無い話だった。


 ――――“蕾の王子”。


 王族の特殊な能力、千里眼。

 あらゆるものを見通し、万物を支配できるその力、その瞳。

 光の象徴である金を授けられた、神に選ばれた血縁のみが所有するその力を、ちびっ子はきちんと開花させていた。それこそ、その年齢では出来すぎているほどに。


 ――――けれど。


「まあ、君がお兄さんのことを話したくないほど嫌ってるのは知ってるけどさー」


 彼の、兄。この国の“第一王子”は。


 冷静沈着、冷酷無比。冴え渡る頭脳にその冷たい美貌。軍人としての実力も、王宮騎士の隊長格とほぼ互角というのだから、まごうことなき天才である。

 現在俺より一つ上の齢十八という若さでありながら、現国王の補佐を見事に努めているその手腕。


 そして、その青年は“瞳”の能力を完全に使いこなしていた。


 空間把握能力、ある程度の先読み。それぐらいならちびっ子でも出来る。

 ――――青年の力はそれを軽く越えていた。


 遠視、気配の察知、心情の察知、近未来に限られるがおおまかな未来視。

 それらすべてが、出来た。


 それは、ある意味異常なほどに。


「国王すらかなわないその実力。母親も正妃だし、血筋も権力も十分。それに比べて、君は中位貴族の妾妃の生まれ。まあ、実力はその年にしちゃそれなりなんだろうけど」


 現国王であるあのくそじじいでさえ、せいぜいが遠視とある程度の心情の察知だ。第一王子はその能力で父すらも越え、ほとんど国一番の実力者といってよかった。


 今でこそ現国王と対立せずにその補佐を努めているものの、彼が一度兵を挙げれば勝敗は分からないといわれているほどだ。



 “出来すぎた”兄。“普通以上”の弟。

 比較される。どちらが上でどちらが下か。そんなことに何の意味があるというのか。


 そして彼らは第二王子を“蕾の王子”と呼んだのだ。


「いつまで経っても開花できない“蕾”のまま。見事に花開いたお兄さんとは違って、君はそのまま枯れていきそうだね。君の年でさえ、彼は“瞳”の力を大いに引き出していたっていうのに」

「…………」



「――――そりゃ、国王から愛想つかされても仕方ないよねえ……」




 ぎり、とちびっ子が歯を食いしばったのが分かった。


 その小さな手にますます力がこもる。握り締めすぎた掌から、皮膚を食い破った爪を伝って赤色がのぞく。


 相手はニコニコと笑っていた。心底愉しそうに。冷たい歓びに唇を緩めて。


 ――――もう限界だった。



 すっと立ち上がる。それに気付いたゼロが不安げな顔をして俺を見る。それを視界に入れながら男に歩み寄ると、俺の動きを目に留めた男がこちらを向いてん? と笑みを浮かべた。


 その作り物のような顔をめがけて、――――全力で拳を振り下ろした。


 速さはそれほど無い。男はゆるりと唇を吊り上げて顔の前で手を構えた。十分に捕まえられると思ったんだろう。


 ――――なめんな。


「お前はもう……黙っとけッ!!!」



 その構えられた手ごと、男の顔面を思いっきり殴った。


 ゴキ、と鼻っ柱が叩き折れた音がした。男が座っていた椅子が悲鳴をあげて砕け散る。そのままの勢いで男の頭を、見るからに硬そうな石造りの床に叩き付けた。


 ごおぉん、と鐘を打ったような重い音が響いた。


 俺はぱっと男の顔から手を離した。見事に鼻の骨が折れ、鼻血を流しながら男は気絶していた。最後に手加減した俺、よくやった。多分あのまま全力で床にこんにちはさせたら、きっとこいつは天使とこんにちはしていたことだろう。悪魔かもしれないが。


 男の鼻血がついた手を男の服でふき取って、手をパンパンと叩いて汚れを落とした。


 呆けたような顔で俺を見ていたちびっ子とゼロの首根っこをつかみ、部屋から出て行く。



 後ろに、男の仲間たちの視線を感じたが、知ったこっちゃ無かった。

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