決意と脱出
「ったく、あのエセ神、そのうち殺してやる…………」
ブツブツ言いながら森の外へと足を進める。
手元には、あの時空から降ってきた紙。
そこには、さっきいなくなったはずのエセ神が半透明の生首となって浮かんでいる。
…………軽くホラーだ。
『だれがエセだ、だれが。私は正真正銘のカミサマですぅー』
しかもしゃべる。
「お前が本物だったらカミサマなんてそこらじゅうにあふれてるよ」
『ひっどーい。まあ、実際そうなんだけどね』
「は? 」
俺は思わず手元の紙を凝視した。実際にはそこに浮いている生首だが。
神はすらすらとしゃべりだした。
『世界なんていくらでも存在するし、がんばったら何個でも創れるからね〜。世界を十個ぐらいつくっちゃったゼ☆ってやつも結構いるしぃ?
世界一つに付き神一人って決まってるわけでもないしね〜。
あとは、それぞれの世界の“内側”にいる神かな〜』
「“内側”?」
『そー』
神はうなずいた。
『世界の中で勝手に生まれたり、私達が創ったりしたやつ。
君たちでいう守護霊とか、仏とかキリストとか?
山のぬしに海のぬし、そして何といってもフェアリー!!』
「あーはいはい」
俺は軽く流した。こいつはなぜかおとぎ話の生き物が大好きらしい。まあこっちには関係ないが。
『ちょっとー、流さないでくれない?これ結構重要なんだけど』
「分かったから、顔を近づけてくるな。この紙破るぞ」
『えー、それは困るー』
なんでも、この空から降ってきた紙は、神をここに実体化させるための媒介だとか。
これがないと、力を無駄に消費してしまうらしい。
別に、破れたらまた降らせればいいと思うのだが。
『それが出来ないからいってるんでしょー』
「何で出来ないんだよ。魔王は馬鹿みたいに増やしたくせに」
『そりゃ魔王はカッコいいもの。大好きだもの。がんばっちゃうじゃん?
でも紙だとね~……やる気が出ない』
「お前のやる気の問題か。働けエセ神」
魔王なんていう面倒なものを増やすな! 人様の役に立つやつを創れ。
『ん〜、確かにやる気がないのも自覚してるけど、それだけじゃないの。世界の仕組みっていうのが関係しててね』
神が説明する。
『世界の大きさによって、そこに存在できる物体の数は決まってんの。
で、私みたいな神は、それにあわせていろんなモノを創る』
神が周りを見回した。
『大地を創るために土と砂と石を創って、海を創るために海底と塩と水を創って。
それぞれに適応する植物や動物を創る。
葉っぱ一枚でも、人間一人でも、物体としては両方一つだ。それを調整して、うまく循環させる』
「……つまり、規定の数以上のものは創れねえのか」
『そー。今この世界はギリギリでね。他に創らなきゃいけないもので手一杯なの。私が創ったものが自然に数を増やすのはいいんだけど』
「ふうん」
俺はそこでうなずいたが、疑問が一つ生まれた。
「待てよ。この紙を破ったらその分物体の量が減って、もっと紙を創れるようになるんじゃないか?」
『…………ねえ、君ってバカ?』
「殺す」
『ぎゃーす!! ちょ、ストップストップ!! 目が、目が怖いよ君ィィィ!!? 』
だれがバカだ。俺はこの生首を殴ろうと拳を振り上げた。神が必死に首を振るが、知るか。
俺は、問答無用で生首をぶん殴った。
ガンッ!! といい音がして、紙の上の生首が何度も高速回転した。たぶんかなり吹っ飛んだ。
まあ、殺意がこもってたし。
つか、やっぱり半透明でもダメージはいくのな。しばらくして回転が止まった生首は、白目をむいて固まっていた。
……ちょっとやりすぎたか。
とか思わないのが俺である。
俺は気絶した(ように見える)生首にビンタを食らわせた。
バッチイィィィィィィン!!!
『ぎゃああああああああああ!!?』
「俺の前で気絶してるフリなんて通じると思ったか。張り倒すぞ」
『もうしてるし!!』
涙目なのは放っておいて、ズイッと神に詰め寄った。
『ち……近い……です』
「気にするな」
『即答!?』
俺は神の目を見つめた(というかにらんだ)。
「で、俺がバカだって?」
『いや……えっと……』
「早くしろ」
『理不尽ンンンンン!!』
俺が神の頭をつかむと、ようやく話し始めた。
頭がミシミシいってるのは、気のせいだ。(言い切った!? by神)
『えー、たとえこの紙をバラバラにちぎって燃やして風に飛ばしても、その物体はなくなったことにならないの』
「なんでだ? 」
『それは、もとあった紙が姿を変えただけだから。物体のモトになる、核がこっちに戻ってくるためには、その存在が完全に消え去らなきゃいけないの』
たとえばね、と神は例を挙げた。
『君たち人間だったら、死んだ後に埋葬されるでしょ? それから肉が他の動物や虫に食われたり、骨がだんだん風化したりして、その人を構成する物質が完全に“消滅”しないとダメなわけ』
「へー」
『だから、紙を破っても核がこっちに戻ってこないし、私が媒介として使えないっていう損ばっかり。
君を生きてるうちにこっちに引っ張ってきたのもそういうこと。
レベル1から育てることも出来るけど、今はあいにく満員なのよ』
俺は納得して神から手を離した。
神が頭をさすっているが、何も見えない(ことにする)。
だいぶ歩いたからだろうか、ようやく森の出口らしきところに近づいてきた。
かなり遠くにだが、うっすらと森が開けた場所が見える。
『で、そろそろ本題に入っていい?』
「本題?」
『私がこんな痛い思いしてまでここに来た理由だよ!』
すっとぼけたら危うく噛み付かれそうになった。
『勇者である君には、まずは王都に向かってもらう。とりあえず、だれでもいいから王族と会って君の勇者という存在をアピールするんだ!』
「……なんだかますますファンタジーっぽくなってきたな」
『だってファンタジーだからね!』
何でお前はそんなにうれしそうなんだ。
「……はあ、行くか」
観念して、俺は森を抜けた――――――。
――――――一つの決意を胸に。
……ようやく森を抜けましたね。一息つけてほっとしています。
さて、この後は目指せ王都!どんな展開になっていくのか、私にもまったく分かりません!
見放さずに見守っていただければ幸いです。