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クロキ ユウ の ぼうけん  作者: ユミル
“勇者決定戦”編
38/50

“勇者”として


 “安らぎの樹”。与えられた部屋の中で、俺はベッドの上に寝転がっていた。


 …………はあ。


 口から出るのは俺の眠気と疲労と自己嫌悪が混ざり合った二酸化炭素。



 国王に喧嘩を売って、その後。

 生き残ったのは、俺たち三人と、二人組らしいパーティーの男女、四人組の男達。

 それだけだ。


 最初の参加者が約一万。第一回戦で三分の二が脱落。二回戦でまた三分の二。それ以外でも、勝てないと踏んで去っていく者は多かった。

 それでも。

 それでも、何人もの人々が、“勇者”を、栄光を、金を、希望を求めて、あの地に立っていたはずだったのに。


 残ったのは、たったの、これっぽっち。


 「…………はあ、」


 吐く息が重い。まぶたを下ろすたびに、眼裏で明滅する光景。

 血と肉と骨と臓物と。


 ぎゅっと眉間にしわを寄せる。


 ゼロとちびっ子は、この頃良く眠れていないようだった。昼間なら、ティズさんやヤブ医者、アーリアさんとのどたばたで、まだ笑ったり怒ったりするぐらいの元気があるようだったが。

夜になるともうダメだった。

 一人では寝れなくて、一つのベッドに三人で寄り添って眠った。暗闇に怯える二人のために、夜も明かりを絶やすことは無かった。何度もうなされて飛び起きた。

 特にちびっ子がひどくて、ふとした拍子に表情をなくしていたのを見たときにはぞっとした。


 勇者がどうした。なにが英雄だ。なにが聖職者だ。

 俺たちは、まだ子供に過ぎなかった。


 過ぎた力を与えられた、ただの無知な子供。夢見がちで楽観的で行き当たりばったり。

 “現実”に突き当たれば、うろたえることしか出来なかった。


「…………、」


 無言で、両脇で眠る二人を見る。ようやく本格的に眠り始めたのか、寝息は深くなっていた。しかし、 それでもときどき顔をゆがめる。

 ゆっくりと頭をなでてやれば、少しごそごそと動いて、再び丸くなる。その寝顔に年相応のあどけなさを感じて、ようやく笑うことが出来た。


 ははっ……まったく、情けない。

 俺は相変わらず、朝が来るまで眠れないままだ。


 冴えた瞳であたりを見渡す。相変わらず、部屋の隅に怪しく潜む“視”の文字。

 監視は続いているようだ。エセ神からもらった例の本には、古代語でも魔語スペルでも、魔術には制限時間があると記されていた。持続的に効果をもたらすためには定期的に魔力を注いで、刻まれた語を消さないことが必要だと。


(消えないって事は、見られ続けてるってことだよな……)


 あのくそじじいめ。


 三回戦、それが終わってから約一週間半。

 俺たちは、いまやすっからかんになってしまった“安らぎの樹”で寝泊りしていた。

 相変わらず外出禁止。ほとんど人のいなくなったここはすっかり寂れてしまった。


 せいぜい、毎日やってくるティズさんたちを相手に暇をつぶすことぐらいしか出来ない。


 ティズさんたちは俺たちと一緒に泊まる事は出来ない。だから、毎日ギリギリまで残ってから帰っていくのだが。

 毎回帰り際のアーリアさんの視線が恐い。もうギラギラ通り越して発光してそうな眼をしてんだよ!?

「ゼロになにかあったら切る」って! もはや多少のかわいらしさを出していた「ちょん」すら取られて殺意しか感じられないよ!


 ヤブ医者は慰めのつもりかしないけど毎回突拍子も無いものばっかり持ってきて悲鳴あげさせてるし。

 前なんて笑顔で差し出されて何かと思ったら毛虫がうじゃうじゃ入ってるフラスコだったし。

 うわああああああ!あ、この世界にもフラスコあるんだ。って現実逃避しちゃったのは仕方が無い、うん。


 生き残ったのは九人。この人数で、数日後にある“勇者歓迎式典”とかなんとかに参加するらしい。


 その日から、俺たちの称号は“勇者”になる。

 子供でいられるのは、後ほんの少しだけ。


「……んん」


 小さくうなったゼロの髪をかき分けて、汗を軽く拭いてやる。


 ……腹はくくった。後悔はしていない。――――俺は、もういい。けれど。


 この二人には、もう少し、時間を。


 “子供”でいられる、夢と希望が詰まった、優しくて暖かい時間を。

 与えてやりたいと思うから。


 綺麗事だ。ただの、戯言。

 この道を選んだのは二人で、これからを選ぶのも二人だ。それに対して、俺が勝手に哀れんで同情してるだけ。

 だから、これは戯言。


 勝手に哀れんで同情した俺が、勝手に動くだけだ。

 そこに、こいつらが何かを思う必要は、ない。


 拳を握り締めて、そっと詰めていた息を吐く。

 うっすらと明るくなってきた空気の中、俺はようやく目を閉じた。



 運命は、すぐそこまで迫っていた。


これで、“勇者決定戦”は終了です。いわば第一章ですかね。

次回からは、王宮を舞台に書いていきたいと思います。

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