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クロキ ユウ の ぼうけん  作者: ユミル
“勇者決定戦”編
37/50

覚悟


「そもそも、“勇者決定戦”は文字通り命がけのもの。半端な覚悟しか持ち合わせぬ愚か者に用はない」


 国王は、死ぬまいと必死に戦う俺たちを見下ろしながら言った。


「勇者とは、大勢いる民の平和のために全てを捧げる聖職者だ。その頭脳も、身体も、精神も、魂も、命も全て」


 俺たちを冷ややかに見つめ、観察する国王の姿。


 ちびっ子はそれを見て何を思うのだろうか。


「で、もっ……!」


 顔を歪めて必死に叫ぶちびっ子を、国王は一言で切り捨てた。


「役立たずはこの国に必要ない。ここで生き残れぬというのなら、そのまま死ね」



 ちちうえ、と呼ぶちびっ子の悲鳴が聞こえたのは、気のせいだったのだろうか。



 気付けば、俺は魔物の最後の一匹を倒し、ゼロとちびっ子の横に立っていた。


「ユウ様……」


 ゼロが心配そうな声を出す。ちびっ子を見れば、蒼白な顔で震えていた。




 ぽす、とちびっ子の頭に手を落とす。

 びくり、とあからさまにおびえたちびっ子の金髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜた。



「、ユウ、きさ、ま……」


「もう終わった。お前は寝とけ」



 俺が言ったとたん、何かの糸が切れたようにちびっ子は意識を飛ばした。倒れないように支え、ゼロの横に座らせる。



 ちびっ子を、見た。そういえば、はじめて名前を呼ばれたとぼんやりと思った。

 一度目を閉じて、俺は国王を振り仰いだ。


 ちびっ子と同じ金の瞳、金の髪。

 その“千里眼”で、俺は一体どう見えているのだろうか。


 く、と口角が上がった。


「――――おい、国王」


 かちり、と俺と国王の視線が合った。


「俺はな、正直勇者になんかなりたいとこれっぽっちも思わねえ。魔王を倒す権利にも興味はないし、金貨一千万枚なんて現実味が無さ過ぎる」


 死を選べば、突然放り込まれた異世界。

 勇者になるために連れてこられた。勇者以外の道は一つたりとも無い。あのエセ神が許しはしない。


「ああ、勇者なんて幻の存在だよ。それなのに、ありもしないはずの魔法を覚えて、殺すための武器を買って、死なないための防具を身につけて。――――そして今、魔物とやらを殺した。そのおかげで、もう決して元には戻れなくなった」


 刀を突き立てれば肉を貫く鈍い音がした。飛ばした首は重く、ねばつく液体に寒気を覚えた。

 それを知らなかった頃には、もう戻れない。


「もう言っちまうとな、俺はすぐに尻尾巻いて逃げ帰りたかった。こんな事を二度としたくない。こんな面倒で生々しい世界から消えうせたい。そう思った」

「ならば、その通りにすればよい」


 国王が薄い唇を開く。


「降参は許さぬ。ここから逃げたいのであれば死を選べ。今すぐ己の首を刈り取ればよかろう。そこらの骸にしたのと同じようにな」

「――――でも、」


 冷たい顔。慈悲なんてカケラも存在しない。為政者たるものの顔。

 俺はそいつをまっすぐに見つめた。


「あんたが気にくわねえ」


 国王が、すっと目を細めた。


「俺は決めた。勇者になってやる。顔も知らない他人のために人を殺す偽善者になってやる。でもそのかわり、」


 あんたの思い通りには絶対にさせねえ。



 俺がそう言い放てば、国王はゆるりと口元を冷たく緩めた。



「我を敵に回すか、小僧」

「もともと、あんたとよろしくする気はなかったよ。それが露見するのが、少し早まっただけだ」


 ちびっ子を思う。実の父親に真正面から拒否され、打ち捨てられた小さな子供。

 ――――どうしても、重なる。

 ちびっ子もゼロも。俺はもう決めてしまった。



 自分を重ねて見てしまった。見捨てるなんて到底不可能。そんな気はもとよりさらさらない。


 俺は俺の偽善のために、こいつに喧嘩を売ってやる。


 さあ、大安売りのバーゲンセールだ。


「覚悟しとけよ、国王陛下。あんたはいつかきっと、俺と出会ったことを後悔するぜ」


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