表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロキ ユウ の ぼうけん  作者: ユミル
“勇者決定戦”編
34/50

地獄の中で

なんのお知らせも無く更新停止申し訳ありません。今後も週一で更新していきたいと思っていますが、またこのようなことがあるかもしれません。

こんな私を受け入れてくださる寛大なお方々は、これからもお付き合いよろしくお願いします。

では、どうぞ。


「っはあ!!」


 こちらにやってきた一体の魔物に蹴りを叩き込む。しかしダメージは与えられていないようで、ふらりと後ろによろめくだけだった。

 俺がすぐさま後ろに飛びのくと、魔物の腕が空を切った。左右の腕に加え、肩甲骨の辺りから生えるもう1本の触手が、開いた距離を簡単に詰めて伸びてくる。


「“炎よ暗闇を焼き尽くせ”!」


 とっさに腕を出して手の平から炎の塊を発射する。運良く触手に当たり、触手は見る見るうちに炎に包まれた。魔物が金属音のような叫びを上げて、怒りのままに俺に突進してくる。


 ドンッ! と地面に響くほどの脚力で地を蹴った魔物は一直線に俺に向かってきた。



(ッ速い、よけきれな……!)


 とっさに身をひるがえそうとするも間に合わない。


「――――はあっ!」


 と、俺と魔物の間にゼロが飛び込み、その小さな手で魔物を思いっきり殴りつけた。


 俺の蹴りよりも強いゼロの拳に、魔物が吹っ飛んでいく。


「ゼロ!」

「大丈夫ですか、ユウ様」


 ゼロは周りに注意を払いながら俺の横に立った。ちびっ子を探すと、すこし先で魔物に攻撃を仕掛けていた。一撃離脱を繰り返すその姿に、俺も加勢しようと駆け出す。


 魔物の背後を取ると、刀をはじめて抜いた。


 シャラン、と軽い音を立てて刀身が姿を現す。俺は魔語スペルを口にした。


「“汝我が言の葉に応えよ 白刀はくとう”!」


 刀(白刀と名付けた)に魔力を勢いよく注ぎ込む。刀身が俺の魔力で内側から光り始めた。


「“その身に焔を宿し 我を導く灯火となれ”!」


 魔語スペルを唱え終わると共に、白刀が一気に赤く発光し、刀身に炎を纏った。


 俺は刀を振り上げると、全力で魔物を袈裟切りに斬りつけた。


「うりゃあああああ!!」


 ズバンッ! と魔物の身が音を立てて斬れる――――はずもなく。

 燃える刀は魔物の肩口に食い込んだかと思うと、そこから背中の真ん中辺りまでをぐちゃぐちゃに抉り取った。

 傷口には魔力の通った炎がまとわりつき、魔物が苦悶の叫び声をあげる。それに驚いてちびっ子がこっちを見ているのが分かったが、俺に声を出す余裕は無かった。


(く、そ……なんだよ、これっ!!)


 気持ち悪い。魔物の硬い肉を無理やり抉った感覚が手にこびりついて離れない。

 刀についた魔物のどす黒い体液をはらい、俺は顔を歪めて魔物を見た。


「くそ……!!」


 こちらを振り返った魔物が見えて、俺は無我夢中で刀を振るった。

 魔物の身体に刀傷が増えるごとに、炎の勢いが増していく。ボタボタと地面に染み込んでいく体液の臭いに頭がおかしくなりそうだった。


「グオギャアアアアアアアアアアア!」


 魔物が咆哮をあげる。俺は何も考えず、ただ本能のままに魔物の口に刀を突っ込んだ。


 すぐに炎が魔物の口内を焼く。刀は口から魔物の頭の後ろまで突き破る。俺はその感覚に我に返り、ぞっとして思わず刀を引いた。


 もはや声も出せなくなった魔物が苦痛に苦しむ。俺はその姿に寒気を感じながらも、魔物が動かなくなるまで刀を振るい続けた。


 やがて魔物がその巨体を地面に倒す。俺は汗だくで魔物を見つめ、死んだことを確認した。


「…………死んだ」


 俺が殺した。


 

 ――――考えるな。今はそんな事をしている場合じゃない。


 俺は周りを見回した。すると、そこには地獄が広がっていた。



 死体。死体死体死体。


 魔物の死体。人間の死体。

 血に塗れ、はらわたをむき出しにした人。

 頭をやわらかい果実のようにつぶされ、手足をなくした人。

 生きたままに魔物にむさぼられている人。



「あ、ああ、あああああああああああ!!!!!!」



 思考回路がぶっ飛ぶ。何も考えられない。


 ただ、心の奥底で思うのは。



(だ、めだ……殺さなきゃ。俺が、殺さなきゃ)


 じゃないと、殺される。



 俺は無意識のうちに走り出していた。





 その目にあるのは、ただ真っ黒に塗りつぶされた殺意だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ