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クロキ ユウ の ぼうけん  作者: ユミル
“勇者決定戦”編
33/50

VS魔物


 魔物。


 そういわれて真っ先に思い浮かぶものといえば、一体なんだろう。




 某ゲームのスライムか?

 昔ながらの妖怪か?

 ファンタジックな猛獣か?




 俺からしてみれば、魔物は――――――、“ ”だと思う。



~~~~



 闘技場内、観客席の真下の壁の向こうから現れた、魔物。


 よくゲームでは形が狼に似ているものや、ドラゴン、スライムなどがでてくるが、この魔物は似ても似つかぬ姿をしていた。



 ――――人型なのだ。



 真っ黒に塗りつぶされたようなどす黒い鎧に武器。まるで暗黒の世界から飛び出してきた兵士のような。大きさは軽く俺の二倍ぐらいある。目があるはずのところにはぽっかりと穴が開き、闇がそこにたたずんでいる。指や腕、瞳の数がめちゃくちゃで、まるで出来の悪い人形を無理やり動かしているようだった。


 俺は思わずぞっとして後ずさった。



(――――なんだよ、あれッ……!)


 恐怖で体が硬直する。歯がガチガチとなり、冷や汗がこめかみを伝い落ちた。


「なぜ、こんなところに魔物がいるのだ!? 父上は一体何を!」


 ちびっ子の声が聞こえる。それでも動けない。



 この世界に来たときでも、こんな恐怖は感じなかったのに。人と戦った時でさえ。

 怖い。

 怖い。

 怖い。


 この異形の形をしたイキモノが。

 この醜い姿のいきものが。

 この闇に覆われた生き物が。



 ――――まるで、病を具現化したようで。



「っはあ、はあ、ああ……!」


 呼吸が荒れる。顔が苦痛で歪むのが分かった。


 駄目だ。今、こんなとき、に。



「――――――ユウ様ッ!!」


 突然、ゼロに腕を引っ張られた。すさまじい勢いで体が横にずれる。と、そこへ間一髪で魔物の腕が突き刺さった。


 顔が青ざめるのが分かった。魔物には真っ黒で鋭い爪があり、それがさっきまで俺が居た地面を深々とえぐっていた。

 思わずゼロを見ると、ゼロも焦ったように後ろに下がった。


「貴様ら下がれ! 今すぐそいつから離れろ!」


 ちびっ子の叫びにはっと我に返り、ゼロの手をとって急いで距離をとる。魔物は次のターゲットを定めたようで、違う方向へと進んでいった。


「っなんだよ、あれは!?」

「魔物だ。人型ということはB級で、普段は国外の森の外れに住んでいる。なのに、なんだってこんなところに……!」

「私、一度だけあれを見たことがあります。私の村は国境付近で、たまに冒険者の人がそこを通って森へ向かうんです」

「討伐しに行くのか?」

「はい。でも、普通の冒険者じゃC級で精一杯で……私が見たあれは、死体でした。でも、あれを一匹倒すために、冒険者が半分以上……」


 ゼロはそこで顔を歪めた。悲痛そうなその顔に、俺は視線をそらせなかった。


「通常、B級ともなれば一つのパーティーで一体相手にするのが限度だ。ざっと見たところ、パーティーと魔物の割合は2対1だが……犠牲は免れんだろうな」

「お前の親父はなにを考えてるんだよ!?」

「知るか! むしろ俺が知りたいわ……父上は一体、何をする気だ!?」


 ちびっ子が簡易玉座に座る父親を睨みつける。ここから見ても、国王は表情を変えた気配はない。

 と、ちびっ子の後ろに忍び寄る黒い影。


「っ!」


 俺はちびっ子の襟元を引っつかむとゼロに放り投げ、間髪入れずに魔物の胸めがけて蹴りを入れた。

 エセ神に強化された俺の脚力は相当なものだ。思いっきり叩き込むと、魔物が後ろに一メートルほど下がった。

 俺はすぐに下がって距離をとった。


「硬いな……」


 人体の皮膚の感触だったが、その皮の下には金属板が埋め込まれているのだろうか。蹴ったこっちの足が痛くなるほどだ。


「ちっと、手こずりそうだな……」


 俺は、魔物をまっすぐに睨みつけた。



 ――――いつの間にか、胸の痛みは止まっていた。

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