VS魔物
魔物。
そういわれて真っ先に思い浮かぶものといえば、一体なんだろう。
某ゲームのスライムか?
昔ながらの妖怪か?
ファンタジックな猛獣か?
俺からしてみれば、魔物は――――――、“ ”だと思う。
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闘技場内、観客席の真下の壁の向こうから現れた、魔物。
よくゲームでは形が狼に似ているものや、ドラゴン、スライムなどがでてくるが、この魔物は似ても似つかぬ姿をしていた。
――――人型なのだ。
真っ黒に塗りつぶされたようなどす黒い鎧に武器。まるで暗黒の世界から飛び出してきた兵士のような。大きさは軽く俺の二倍ぐらいある。目があるはずのところにはぽっかりと穴が開き、闇がそこにたたずんでいる。指や腕、瞳の数がめちゃくちゃで、まるで出来の悪い人形を無理やり動かしているようだった。
俺は思わずぞっとして後ずさった。
(――――なんだよ、あれッ……!)
恐怖で体が硬直する。歯がガチガチとなり、冷や汗がこめかみを伝い落ちた。
「なぜ、こんなところに魔物がいるのだ!? 父上は一体何を!」
ちびっ子の声が聞こえる。それでも動けない。
この世界に来たときでも、こんな恐怖は感じなかったのに。人と戦った時でさえ。
怖い。
怖い。
怖い。
この異形の形をしたイキモノが。
この醜い姿のいきものが。
この闇に覆われた生き物が。
――――まるで、病を具現化したようで。
「っはあ、はあ、ああ……!」
呼吸が荒れる。顔が苦痛で歪むのが分かった。
駄目だ。今、こんなとき、に。
「――――――ユウ様ッ!!」
突然、ゼロに腕を引っ張られた。すさまじい勢いで体が横にずれる。と、そこへ間一髪で魔物の腕が突き刺さった。
顔が青ざめるのが分かった。魔物には真っ黒で鋭い爪があり、それがさっきまで俺が居た地面を深々とえぐっていた。
思わずゼロを見ると、ゼロも焦ったように後ろに下がった。
「貴様ら下がれ! 今すぐそいつから離れろ!」
ちびっ子の叫びにはっと我に返り、ゼロの手をとって急いで距離をとる。魔物は次のターゲットを定めたようで、違う方向へと進んでいった。
「っなんだよ、あれは!?」
「魔物だ。人型ということはB級で、普段は国外の森の外れに住んでいる。なのに、なんだってこんなところに……!」
「私、一度だけあれを見たことがあります。私の村は国境付近で、たまに冒険者の人がそこを通って森へ向かうんです」
「討伐しに行くのか?」
「はい。でも、普通の冒険者じゃC級で精一杯で……私が見たあれは、死体でした。でも、あれを一匹倒すために、冒険者が半分以上……」
ゼロはそこで顔を歪めた。悲痛そうなその顔に、俺は視線をそらせなかった。
「通常、B級ともなれば一つのパーティーで一体相手にするのが限度だ。ざっと見たところ、パーティーと魔物の割合は2対1だが……犠牲は免れんだろうな」
「お前の親父はなにを考えてるんだよ!?」
「知るか! むしろ俺が知りたいわ……父上は一体、何をする気だ!?」
ちびっ子が簡易玉座に座る父親を睨みつける。ここから見ても、国王は表情を変えた気配はない。
と、ちびっ子の後ろに忍び寄る黒い影。
「っ!」
俺はちびっ子の襟元を引っつかむとゼロに放り投げ、間髪入れずに魔物の胸めがけて蹴りを入れた。
エセ神に強化された俺の脚力は相当なものだ。思いっきり叩き込むと、魔物が後ろに一メートルほど下がった。
俺はすぐに下がって距離をとった。
「硬いな……」
人体の皮膚の感触だったが、その皮の下には金属板が埋め込まれているのだろうか。蹴ったこっちの足が痛くなるほどだ。
「ちっと、手こずりそうだな……」
俺は、魔物をまっすぐに睨みつけた。
――――いつの間にか、胸の痛みは止まっていた。




