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クロキ ユウ の ぼうけん  作者: ユミル
“勇者決定戦”編
31/50

双子と双子

 数分後、我に帰った俺は床の上でぴくぴくと痙攣するちびっ子を回収して女性陣の後を追ったが、どうやら見失ってしまったらしい。“安らぎの樹”はかなり大きな建物なので、しらみつぶしに探すことも難しい。


 多分どこかの食堂だろうとあたりをつけて、ちびっ子をつれて先に部屋に戻ることにした。とりあえずちびっ子を部屋においておけば、俺も自由に動けるだろう。


 馬鹿みたいな怪力のおかげで重みは感じないが、万が一にも王子サマを落とさないようにしっかりと抱えなおしながら、俺は部屋へと歩いていった。


 時々すれ違う人々は試合を勝ち抜いてきただけあってか、なんというか纏うオーラが違う。俺みたいなドーピング野郎がいることを謝りたくなる。だが俺も譲れない。全ては金貨の……ごほん、人々のためだ、うん。


 俺はぼんやりと先ほどの試合を思った。ちびっ子は宣言していた通りゼロの動きにちゃんとついていっていた。最後こそ隙を見せて負けたものの、その動きはよどみない。俺やゼロのような急ごしらえのやり方ではなく、きちんとした指導を受けて培ってきた力だろう。それでいて、正攻法だけではない。


 気配を消すのも得意なようだし、戦力になるのは確かだろうな。

 そんな考えにふけっていたのがいけなかったのか。


 無意識に足を動かしていた俺は、どうやら厄介ごとに巻き込まれたみたいだった。


「なあ、兄ちゃんはどう思う?」

「ぜってー俺のほうが強いよな?」


 突然聞こえてきた声に驚いて歩みを止めると、ちびっ子より一回りか二回りは大きい少年が二人いた。

 どうやら双子のようで、驚くほど似通った顔をしている。翠の瞳と金の髪に既視感を覚えながら、俺はようやく声を出した。


「……え、何の話だ?」

「もう兄ちゃん、人の話聞いてねーのかよ」

「人の話聞かないやつは人間としてダメなんだって姉ちゃん言ってたぞ」


 会ったばかりの奴にダメ出しされる俺って……。


「そりゃあ悪かったな。で、何だって?」

「「だから、俺とコイツのどっちが強いかって話」」


 同時に口を開いた双子はまったく同じ口調で話した。おお、シンクロ。

 つーかまた強さ勝負かよ。コドモはこんなのが好きなのかねえ。


「いやそんなの知らないから分からないんだけど」

「んじゃ第一印象は?」

「どっちが強そうに見えた?」

「どっちがって……どっちも貧弱そうな」

「「ああなんか言ったかコラ!!」」

「恐っ!!いきなり恐っ!」


 正直な感想を述べたら顔が!顔がまるで般若のように!何こいつらめちゃくちゃ恐いんだけど!

 背中のちびっ子がうるさそうに身じろぎする。

 俺は方針を変えることにした。日本人なめんなよ!


「えーとな……どっちも同じくらい強そうに」

「「ちゃんと結論出せやてめえドタマかち割るぞ」」

「ほんとにお前らなんだよ!?」


 二重人格ですかそうですか!? ヤのつく自由業の人みたいな言葉だったよ!


「だいたい、何でそんなに強さにこだわるんだよ?」

「そんなの決まってんじゃんか」

「当たり前だろ」


 双子ははっきりとこう言った。


「「姉ちゃんを助けるためだよ」」


 俺は首をかしげた。


「姉ちゃんって、お前らの姉か?」

「そうだよ、あんた知らないの?」

「入り口で受付してた双子がいたでしょ?」

「ああ、あの!」


 そういえば、こいつらとそっくりの顔した双子の受付がいたな。こいつらに既視感を覚えたのもそのせいか。


「姉ちゃんは王宮で仕官してるんだ」

「めちゃくちゃ強い魔法士なんだぜ!」

「へえー……王宮の魔法士か」


 そんな人が受け付けやってるんだ、国も力を挙げてこの試合に取り組んでいるんだろう。


「姉ちゃんの仕事はな、」

「王宮の警備と、」

「魔法の研究と、」

「「そんでもって、この“勇者決定戦”の不正取締りなんだぜ!」」


 双子が誇らしげに語る。その瞳には、姉への尊敬と羨望が感じ取れた。


「不正取締りって、具体的にはどんなことをしてるんだ?」

「そりゃ、怪しい奴がいないか見てまわったり、」

「古代語を使って部屋の監視を」

「馬鹿! それは言っちゃダメって姉ちゃんが言ってただろ!」


 一人が言いかけたことを片割れが頭をひっぱたいて止めた。しかし、聞こえてしまったものは聞こえなかったことには出来ない。

 やはり、あの“視”は監視用だったらしい。それがどうやって監視されているかということまでは分からなかったが、裏が取れただけでも良いだろう。

 とりあえず、適当に誤魔化して逃げるか。


「そーか。まあ、なんだか分からないけどお前らの姉貴はすごいんだな」

「その通りだな!」

「なかなか分かる奴じゃんか!」

「ああ、まあな。んじゃ、俺はここら辺で」


すばやく二人の間をぬって歩く。捕まらないうちに逃げよう。


「あ、ちょっと待てよ!」


 ……逃亡失敗か。振り返りたくない。恐る恐る、ちらりと後ろを見ると、双子がニヤリと笑って言った。


「「俺とコイツ、どっちが強い?」」




~~~~



 結局双子を振り切れたのは数十分が経ってからだった。いつまでもどっちが強いとうるさい双子を、最終的には半ばやけくそで逃げた。だってあいつらしつこいんだよ!


 遠回りになりながらも部屋へ向かう。だいぶ人のいるところから離れたようで、聞こえるのは俺の足音だけだった。


「で、いつまで寝た振りをしているつもりだ?」

「……なんで分かった」

「寝息が聞こえなかったからな」

「……ふん、あんなにやかましく騒がれては眠れるわけもなかろうが」


 背中へ向かって声をかける。どこかふてくされたような声音のちびっ子に苦笑した。


「そんなに負けたのが悔しかったのか?」

「…………ふん」

「へこむなって。ゼロ相手によくやったと思うぜ? 実際、俺でも勝てるかどうか分からんってのに」

「俺と貴様は違う」

「んなこたぁ分かってんだよ」


 静まり返っている廊下に響く俺たちの話し声。ちびっ子が俺の服をぎゅっと握った。


「少なくとも、こてんぱんに負けたわけじゃないだろ?」

「……だが、負けは負け。敗北者は王族としてあることが認められぬ」


 吐き出すようにつぶやくその声は暗い。


「俺は、いつまで経っても何も出来ぬ。いくら努力しても、あいつには追いつけない……」


 俺には、ちびっ子が言う『あいつ』が誰のことなのかは想像もつかない。でも、分かることもある。


「俺は……」

「女々しいんだよ、お前」


 何か言おうとしたちびっ子をさえぎる。


「一回ぐらい負けたからって何だよ。努力して努力して努力して、見返してやれよ」

「努力したって何も変わらぬ。どうせ俺は――――出来損ないだ」

「――――ふざけんな」


 俺は歩みを止めた。いきなり感じが変わった俺の様子に、ちびっ子が困惑したように声を漏らす。


「何が出来損ないだ。健康な体と親と地位と権力と力を持っておいて、そんな事を言うのか」

「――――だって」


 ちびっ子の声が泣き声に変わる。


「どれだけやってもダメだというのに、嫌というほど分かっているのに、これ以上何をしろというのだ!?」


 悲痛な叫び。こいつにも、暗い過去があったのだろうか。

 ――――だが、それでも。


「自分を卑下してもう何も出来ないと塞ぎこんで、全てから背を向ければ満足か?」


 背中にあるちびっ子の顔は見えない。


「前を向くこともせずに、進めないと決め付けてどうする気だ?」


 俺の服を握る力がギュッと強くなる。


「なにも出来ないなんてことない。やってみないと始まらない。やりたいことをやって、それで出来なくても何も悪くなんかない」


 ぐす、と泣く声が聞こえる。


「お前のやりたいことは、なんだ?」

「――――強く、なり、たい!」


 泣き声ながらもようやく前を向いたちびっ子に、俺は笑った。


「んじゃ、まずは“勇者決定戦”で優勝しないとな」


 お前を馬鹿にした奴らを見返してやろうぜ?


 ひっく、と泣き続けるちびっ子をあやしながら、再び歩き出したのだった。

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