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クロキ ユウ の ぼうけん  作者: ユミル
“勇者決定戦”編
30/50

戦いの結果と服屋の逃亡


 修練場で向かい合うゼロとちびっ子は、お互いにいったん距離をとった。そのままピタリと両者が停止する。


 ゼロは自らの腕に力を込めて好機を待ち、ちびっ子は瞳を瞬く。


 先に動いたのはちびっ子だった。


 勢いよく地面を蹴り飛ばすと、瞬間的にゼロに肉薄する。ゼロが放った一撃をかいくぐり蹴りを繰り出した。

 ゼロはそれを片手でさばくと、空いた胴めがけて拳を出す。ちびっ子がそれをしゃがんで防ぎ、飛び上がるような形での攻撃。



 もはや子供同士の戦いではない。というか戦いの中で目突きやら頭突きやら足掛けやらの搦め手が目立つのは気のせいか。すんごく卑怯っぽく見える手を次から次へと繰り出し、しかもそれを正確に対処する手際。



(……こいつらほんとに子供ですか?)



 俺だったら力ずくでしか対処できないと思う。


 そんな権力構図の頂点と底辺に位置する二人は、ますます激しい戦いを続けていた。


 今回はあくまでも腕試しということで、ゼロの短剣やちびっ子の武器は没収している。よって形式は自然と無手での組み手ということになり、試合の質も落ちるかと思ったのだが。



「やりますね……」

「…………ええ」


 ぽつりとつぶやくと、アーリアさんもうなずいた。


 ゼロは“白”の女性ならではのパワーが、ちびっ子は神の瞳が持つ周囲の把握能力や先読みの力が突出しており、お互い一歩も引かない攻防を見せていた。


 どちらかというと力技のゼロの一撃は、一度当たれば相手に多大なダメージを与えるだろう。小回りのきく小さな体でスピードもある。

 ちびっ子はその攻撃一つ一つを正確にさばき、ゼロ以上のスピードで動き回る。一つ一つの攻撃は威力が少なくても、手数が多い。



 どちらも一進一退といったところだが、どう転がるのだろうか。



 目の前の戦いはますます速さを増していく。武器は一切使っていないはずなのに、時折すさまじい音が聞こえてくるようになった。


「ちぃ、さっさとくたばらぬか!」

「そっちこそ、ちょこまか逃げ回らないで下さい!」

「…………ならば私があの害虫の動きを」

「止めないで下さいお願いします」


 戦闘中のゼロの声に反応するアーリアさんはどうにかならないのだろうか。


 二人の対決を見守っていると、ふいにアーリアさんが出口へと顔を向けた。何事かと思ってそちらを見ると、そこにはいつの間にかティズさんがいた。



「あれ、ティズさん帰ってきてたんですか」

「そうだよ。店のほうもひと段落着いたからね。あんたたちを探してたらここに行き着いたのさ」


 ティズさんは部屋の中の対決に目を留めた。


「ほう、あれが例の第二王子かい。ゼロとやりあうなんて結構やるじゃないか」

「そうですね。俺の予想なら五分ぐらいでゼロの力にねじ伏せられるかと思ってたんですけど」

「…………予想外」

「うるさいわ貴様ら!」


 ちびっ子が叫ぶが無視である。


「やっぱりあのくそじじいの息子だねえ。しつけがなってないったらありゃしない」

「……ちなみに、ティズさん王様と面識あんの?」

「まあね。それなりに顔は知ってるよ」

「ただの服屋なのに?」

「う、そ、それはね…………」


 明らかな疑問点を指摘すると、ティズさんは思いっきり顔をそらした。隠し事が下手なのか、悪いがばればれである。


「しかもくそじじいと呼べるほどに深い間柄だと見た」

「え、ええと……そう、あれだよ、王様の服を仕立てたことがあって――――」

「王宮には専属の服飾職人がいるっていってなかったっけ?」

「それはその、お、王様が普段とは違う趣向の服を着たいと――――」

「へえ、それはどんな?」



 追い詰めると面白いようにぼろを出す。実際ティズさんの経歴に興味があったのは確かなので、つっつきつっつきしていると、ティズさんが急に大声を出した。


「ええい! ゼロ! そのガキ倒したらあたしがいくらでもおごってやるよ!」

「ええ、本当ですか!」

「ちょ、まてそこの女、ガキとは一体誰のことを――――うぎゃああああ!」


 ゼロは育ち盛りである。もう一度言おう。ゼロは育ち盛りである。

 そんなゼロの前に差し出された『食べ放題』の文字。


 飛びつかないほうがおかしいだろう。


 ゼロはティズさんに反論という行為を行なうことで隙を見せたちびっ子を容赦なく殴り飛ばし、ちびっ子はろくに受身もとれぬままに叩きつけられた。


 ゼロはティズさんに駆け寄ると、キラキラとした瞳でティズさんを見上げた。ティズさんは俺が先ほどの話題に触れないうちにそそくさとゼロをつれて修練場を出て行き、アーリアさんもすかさずその後を追う。


 修練場に残されたのは、いまだに床の上で悶絶してピクピクと震えるちびっ子と、見事に逃げられた哀しい俺だけが残ったのだった。

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