ちびっ子侵入者
とりあえず部屋に荷物を置いた俺たちは、呼び出されるまでは各自で自由行動をとることにした。
そのため、ゼロはアーリアさんに連れられて外へ。俺は部屋に残って睡眠を取ることにした。
二回戦はパーティーが十個ずつぐらい集まって対戦するらしい。そのため、役員が呼びに来るまでは特にやることはない。
特に疲れていなかったし、監視の目が気になったが、あまり不自然な態度だと怪しまれる。とりあえず二人に監視の事を話して部屋から出すと、すぐに割り当てられた部屋のベッドに横になった。
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異変に気付いたのは、それから一時間弱経った頃だった。
仰向けに寝るとどうしても視線が“視”に寄っていってしまうので、横を向いて眠っていた俺だったが、ふとした拍子に目が覚めた。
耳を澄ましても何も聞こえない。二人はまだ帰ってきていないのだと知って、もう一眠りしようとしたときだった。
――――フッ――――
かすかな息遣いが聞こえた。
体は幸いなことに反応しなかったが、寝起きの頭が見る見るうちにさえていくのが分かった。全神経を耳に集中させて、相手の居所を探る。
――――フッ フッ フッ――――
音の出所がだんだんと近くなってくる。ゆっくりゆっくりと近づいてきて、ちょうど自分の背中のほうで止まった。
そして、相手が腰から武器を抜く気配がして、空気が震えるのが分かった。
俺も薄目を開けて、ベッド脇においておいた刀の位置を確認する。
次の瞬間、相手が俺めがけて武器を思いっきり振り下ろした。
すぐさま横に転がって相手の武器をよけ、刀をつかんで立ち上がる。
相手は俺が起きているとは思わなかったようで、驚いたような気配が伝わってきた。
その一瞬の隙に刀を鞘から抜き放ち、鞘を左手で勢い良く投げる。
あのエセ神に強化された、俺のでたらめな腕力は鞘を凄まじいスピードで飛ばし――――見事相手の顔面に激突した。
「うぎゃあッ!!!?」
見事な手際で侵入したわりには間抜けな声を上げて、相手が鼻を押さえながらドテッと倒れる。
どうやら鼻にクリーンヒットしたらしい。鼻が高いから悪いんだよ馬鹿野郎が。
相手が立ち上がらないうちにベッドを乗り越え、相手の武器を遠くへ放り投げた。目の前のやつがそれに気付く前に、相手の首筋に刀を突きつけた。
「あ……」
「さ、顔を拝ませてもらおうか? 侵入者さん」
まだ鼻を押さえている腕をどけて顔を確認する。
全国の少女諸君が欲しがりそうな細い手足に加え、小柄な顔。性別は男。つーか少年。ゼロとそんなに変わらないんじゃないだろうか。
――――それだけならよかったのに。
手入れの行き届いた金髪に綺麗な金の瞳。布の端切れを売ったらそれだけで三日は食えそうな代物の高級そうな服。それにちりばめられた、小さくも形の整ったきらめく宝石たち。
――――そして、左胸に鮮やかな色の糸で刺繍された、この国の国旗。
「ぶ、無礼者ッ!! 誰が侵入者だ、俺はキール・アイヤリムだぞ!」
キール・アイヤリム。
ただの名前だと、鼻で笑えればどれだけよかったか。
アイヤリム。そしてこの国の名は、――――アイヤリム王国。
「お、俺は第二王子なのに!!」
――――赤くなった鼻を押さえながら、涙目で金髪ちびっ子は叫んだのだった。
11月14日、修正しました。