人間は紙切れにさえも殺意を抱ける生き物である
飛び降りたら森でした。
…………どこの映画の宣伝だよ。
しかし、俺は確かに森にいる。
鳥達がうるさいぐらいに鳴き叫び、
木漏れ日(というか直射日光)が容赦なく照りつけ、
そこらじゅうで竜巻が発生しているような森に。
新手のいじめか?
なんで晴天と竜巻が同居してんだよ!
とりあえず竜巻から逃げるようにして足を進める。竜巻は縦横無尽に動き回り、樹齢がなんか古そうな大木を次から次へと根っこからもぎ取っている。
…………この森、よく無くならないな。
竜巻から充分距離をとってから一息つく。
俺はもともと体が丈夫なほうじゃないから、いちいち休憩しなけりゃやっていけない。
そこまで考えて、俺はハッとした。
そうだ、まず最初に――――。
(ここは、どこだ!?)
あわてて周りを見回すも、目に入るのは日光・鳥・竜巻・森のみ。
ここが日本なのかすら分からない。とりあえず地球であることは間違いないと思うのだが――――――。
その時、頭上から一枚の紙切れが降ってきた。
空から紙!? とかいう疑問は置いて、とりあえず振ってきた紙切れをつかむ。
そこには、日本語でこう書いてあった。
『ぶっぶー。はーずれ(笑。ここは地球じゃないよ~』
俺は瞬間紙切れを握りつぶすと竜巻の方向に放り投げた。
紙切れはいったん空中で停止し、竜巻の中心へと引き寄せられたあと姿が見えなくなった。
…………ふう。ポイ捨てはよくないけど、まあいっか。
さっきの紙の事は記憶から抹消し、再び思考を始める。
その時だった。
『ちょっとー、ひどいじゃないか~』
いきなり、地面から人間が生えてきた。
にょきにょきっと生え出たそれは、俺よりもでかい人型をしており、半透明に透けていた。
「…………は?」
あいた口がふさがらない。何だこの近未来的なカンジの物体は。
『ハロー、はじめましてユウ。神です~』
次の瞬間俺はこのおかしな物体に思いっきり蹴りを食らわせていた。
『べぶらばあァァァ!?』
半透明なくせに律儀にダメージをくらって吹っ飛んだ(自称)神は、三メートルほど楽々と空を飛んだ後に大木にぶつかって跳ね飛ばされていた。
…………見ているこっちが同情してしまうほどの見事な飛びっぷりだった。
「というか……何だ今のキック力!」
慌てて自分の足を確認するも、某名探偵で有名なあのちびっ子がはいているめちゃくちゃ便利な靴ではない。俺がはいているのはどこにでもあるようなスリッパだ。
なぜスリッパなのか、という疑問は割愛させていただく。
問題は、異常なほど上昇したキック力だ。それと、なぜここにいるのか、ここは一体どこなのか。
俺が疑問に頭を悩ませていると、向こう側で何かがむくりと起き上がる気配がした。
俺が振り返ると、さっきのアヤシイ半透明の物体が痛みをこらえているところだった。
『せ…………背骨が…………』
…………見なかったことにしよう。
俺はすぐさま前に向き直り、少しでも距離をとろうとさっさと歩き出そうとした。が。
肩をがしっとつかまれた。
『ま…………まてやコラァ…………』
ねえ、自称神。
あなたきっと神よりも背後霊に向いていると思いますよ。