一回戦
「さあ、いよいよこの時がやってまいりました!!」
広い闘技場内いっぱいに、レポーターの声が響く。
俺とゼロはレポーターの声を聞きながら、適当に体をほぐしていた。
「剣を研ぎ、技を磨き、己の体を鍛え上げながら待ちに待ったこの瞬間!! “勇者決定戦”の開始です!!」
会場が大いに沸いた。歓声というよりも叫びが闘技場を満たし、全員のテンションがマックスになっているようだ。
「はい、ではここで、一回戦のルールを説明します」
レポーターが声を上げる。
「一回戦は、その名も“殴って殴ってぶちのめせ!”です!」
どんなネーミング!? そのまんますぎるだろ!
俺は思わず心の中で叫んだ。ゼロもぽかんとした顔でレポーターを見つめていたが、他の参加者達はますますハイになっていく。
……もしかして、毎回こんな感じなのか。
なんとも脱力してしまいそうなネーミングセンスだ。これを決定した人間の顔が見てみたいものである。
そんな俺の心情とは別に、レポーターは説明を続けた。
「ルールは簡単、一回戦開始から一時間経過したときに、立っていた者が勝利者だ! その一時間のうちは何をしてもOK! もし死んじゃったら困るという方は、今のうちに棄権してくださいねー!」
「いやいや待てよ!?」
殺されるのか!? 勇者同士の争いで殺されるんですか!?
俺棄権するぞそんなん! だって平和主義の日本人ですから!死にたくありませんから!マジ冗談抜きで!
棄権しよう! そう思ってゼロを見ると、ゼロはなぜか目を輝かせていた。
「あ、あのさゼロ――――」
「ユウ様! すごく楽しみですね!!」
満面の笑みを振りまきながらはしゃぐゼロ。……ナゼに?
周りを見ると、俺以外の人がほぼ全員といっていいほど同じような表情をしていた。
……俺だけ!? 俺だけですか! こんなところで孤立するなんて予想外だ。異世界クオリティーですか!?
「棄権したい人ー! いませんねー! それじゃあ一分後にはじめます! 準備してください!」
一分後かよ! 早ッ!
とりあえず、横に長い六角形の形をしている闘技場の壁際による。とんがっている下のほうが入り口で、上のほうに、ティズさんたちが居る観客席があると思って欲しい。
俺が居るのは入り口側で、周りを見ると参加者達が同じように壁際によっているのが見えた。
「はーい! それではみなさん、準備はいいですね! ――――レディー、ファイッ!!!」
観客席に設置されている大きな金の鐘が、この大会の始まりを告げた。
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「うわあ………………」
だいたい三十分ほど経っただろうか。
俺は、目の前のありさまに思わず顔をしかめてうめいた。
死屍累々。地獄絵図。
三途の川がそこらに流れているんじゃないだろうか。
そんな感じだった。
最初は人だらけでごみごみしてぎゅうぎゅうづめだった闘技場も、再起不能とみなされた人たちが外に運び出されて、大分人数が減った。俺とゼロはまだ生き残っているけど、もう千人も居ないんじゃないだろうか。まだ半分だというのに、ずいぶんなペースだ。
「えいっ!」
「うぎゃああああああ!!」
また一人、ゼロに飛び掛った男が軽々と投げ飛ばされていく。良く飛んだな。軽く十メートルぐらい?
縛られたゼロの髪が風に揺れる。
いくら人が多くても、ゼロのような小さい女の子はほとんど居ない。つまり、それだけ標的になりやすい。
小さい女の子をねらう時点で最低な奴らだ。勇者になる資格はないと判断した俺は、ゼロにゴーサインを出した。
まあ、そっからはもう想像に任せるけど。
今、ゼロの前には様々な男達がひとかたまりになって積み上げられていた。
「ふう……疲れました」
「お疲れ。次は俺が行くよ」
汗をかいているゼロを休ませるため、今度は俺が前に出た。
いくら減ったとはいえ次から次へとわいてくる敵さんたちに向けて、魔法を発する。
「“風よ来たりて渦を巻け”!」
エセ神からもらった魔術書に書いてあった魔語を唱える。するとどこからともなく風が吹き、俺の目の前でどんどんと竜巻を形成する。
男達はそれに気がつくことが出来ず、数秒後には吸い上げられて空の上だ。まあ、加減はしているので、気絶するだけで済んでいるだろうが。
初めて使ったときは森の木々が根こそぎ引っこ抜かれてしまった。一番最初に、この世界に来たときに見た景色のようだ。俺の魔力は一体どれだけあるのか、いくら魔術を使っても疲れなかった。
……エセ神、加減間違えたんじゃね? っていうぐらい。
まあ、そのおかげで今まで生き残っているんだけど。
とりあえず、時間一杯まで交代に敵を蹴散らして、俺たちは一回戦で勝利を収めたのだった。
……意外と楽勝だったのはいいんだけどさあ。死ななかったのもありがたいんだけど、ねえ。
――――やけに“黒”が多い気がするのは、俺の気のせいか?




