封印解除!
いつのまにやらPV一万突破!ユニークは二千五百と、うれしい限りです!
どうもありがとうございます!
今回ちょっと長めですが、お楽しみくださいませ。
とりあえず、一息つくためにいったん町に戻った。
ちょうどいい具合に腹もすいてきたので、ティズさんオススメの店で昼食を取ることになった。なかなかこじゃれたいい雰囲気の店で、それなりに盛況なようだ。
五人で席に着き、料理を注文した後、俺はみんなにゼロの封印の事を説明した。
ゼロの封印に使われていた言葉が、俺の故郷の言葉にそっくりだったこと。
ふたつの文字に込められた意味の説明もしておいた。
なんで古代語がまだ残ってるんだとか、アーリアさんとティズさんに首を傾げられたが、海の向こうの島国だからとかなんとか言って誤魔化した。
「うん、そうなると、封印を解くのが簡単になってきたかもしれないね」
スープをすすりながらヤブ医者が言う。
「お前さん、なにか故郷の魔道書は持っていないのかい?」
「ん~……魔道書って言われてもなあ」
おそらく、魔道書とは魔法の教科書みたいなものなんだろうが、現代日本に居た俺がそんなものを持っているはずが……ん?
待てよ。
俺はベルトにぶら下げておいた袋の一つを開けると、そこから分厚い本を取り出した。
これは、ヤブ医者の家で、エセ神から勇者決定戦の事を聞いたときにもらった本だが……。
俺はその本をぱらぱらとめくってみた。
と。
「…………すごい」
「見事に全部古代語だねえ」
アーリアさんとヤブ医者が、横から覗き込んで感嘆をあげる。
ティズさんも珍しそうに目を見開いていた。
「う、う……? 何にも分からないです」
ちょうど俺の向かい側に居るゼロは、精一杯こっちに身を乗り出し、日本語の羅列に目をパチパチさせている。
そして、俺はというと。
そのページの題名を見て絶句していた。
<第1項 十歳の“白”の封印を解く方法>
――――どんぴしゃかよ!?
あの神どんだけ適当なの!? 絶対「たぶんこうなるだろーなー」的なカンジの考えだろコレ!
どんぴしゃだけどな!! 百発百中の可能性で当たりまくったけどな!!
内心でそんな事を叫んでいると、ふとある点が気になった。
「……ゼロ。今お前何歳だ?」
「はい? ……えーとですね、もうすぐ12才になります」
「つまり今は11才か?」
「はい、そうなりますね」
ゼロに確認を取り、本に目を戻すと。
<第1項 十一歳の“白”の封印を解く方法>
いつの間にかページが書き換えられていた。
――――本ッッッ当に適当だなあの神!!! 年ぐらい把握しとけよ! 行き当たりばったりすぎるわ!
てか、年齢で解き方変わるの!?
心の中でひたすら叫びながら、重い口を開いた。
「……あった、解き方」
「え? あったんですか!?」
「本当かい? いいことだけど、ちょと残念だったなあ」
「…………解剖は許しません」
「へえ、なんて書いてあるんだい? 言ってみておくれよ」
ちょっとやるせない気持ちを抱えながらも、ページに再び目を落とした。
「えーっと、“黒い魔”を“呪”に、“白い魔”を“解”に押し付ける」
「ふむふむ。それで?」
ヤブ医者にうながされて、続きを見る。
「………………以上、だ」
――――終わりかよっ!? しかも意味分かんねー!!
またまた心の中で叫びまくる俺を放って、大人組3人は議論を続けていた。
「“黒い魔”と“白い魔”、かあ」
「…………おそらく、闇属性と光属性の魔力の事」
「光はあたしが持っているからいいとして、闇は、やっぱりあいつしか居ないねえ」
ヤブ医者がこっちを見たので、とりあえず聞いてみた。
「で、どうすればいいのか具体的に分かったのか?」
「うん。多分ねー、魔力の塊を古代語に押し付けるだけでいいと思うんだけど、闇属性の魔力を持った人が僕らの中に居ないんだよー」
「え、どうすんだよ」
……なんか、嫌な予感。
ヤブ医者がニッコリと笑った。
「と、いうわけで、クロキ君はアーリアの教育の元、がんばって魔力を出せるようになってねー」
「…………死ぬ気でやらないと、ちょん切りますよ」
「死刑宣告!?」
地獄が見えた。
~~~~
もうそこからは怖かった。つーか恐ろしかった。
だってアーリアさんメス投げてくるんだよ!? どこにしのばせておいたのっていうぐらい大量に!!
いくつか首にかすって死ぬかと思ったからね俺!!
まあ、そんな地獄の特訓のかいあって、一時間足らずで手の平から魔力の塊を出せるようになった。
コツは、深呼吸しながら、出来るだけリアルにイメージすること。
アーリアさんから襲い掛かるプレッシャーと、生命の危機に耐えながらでも出来るようになったところで、ティズさんからOKがでた。
ちなみに、俺の魔力は真っ黒だ。
それこそ黒以外何も見えないような色に、ひどく感動した。
が、ティズさんの出したそれこそ神々しいまでの白い魔力にちょっとへこんだ。
で、俺たちは店を出てヤブ医者の店に戻った。その時に店長らしき人が涙を流して喜んでいたのがなんともいえない。
だってアーリアさん店の中なのに手加減しないんだよ!? 店員さんの鼻先をかすめていったときは本当に心の底から謝りたくなった。
でも文句なんていえるはずがない。アーリアさん最恐だもの。みんなビビッて何も言えなかった。
んで、ヤブ医者の家。ゼロを椅子に座らせて、俺がゼロの右側に、ティズさんが左側に立った。
「用意はいいかい?」
「ああ、多分大丈夫だよ」
ティズさんと目をあわせて、最後の確認をする。
「よし、いくよ!」
掛け声と共に、手の平に魔力を集める。そして、それをえいやっと“呪”の文字に押し付けた。
ゆらゆらと揺れていた俺の魔力は、ゼロの皮膚の中に徐々に染み込んでいき、それと同時に文字が薄れていった。
手の平が肩に付いたところでパッと手を離すと、文字が完全に消えてなくなったのが見て取れた。
顔を上げるとティズさんと目が合い、大丈夫だとうなずかれた。
が、ゼロには何の変化もない。
「一応、成功したみたいだけど……」
「こっちもだよ。古代語は綺麗になくなったんだけど……。ゼロ、何か体に変化はあるかい?」
ゼロは椅子からトン、と下りると、そのまま体をくるりと回した。が、特に変わったような場所は見られない。
「特に何もないみたいですけど……」
「じゃあ、実験して見よっか。アーリア、なんか木の板でも持ってきて」
ヤブ医者の声と共に、アーリアさんがすぐさま隣の部屋に消えた。そして、若干大きすぎるような気がしないでもない木の板を持ってきた。
「じゃあ、まずはクロキ君から」
「俺から?」
「そ。何事にも、対照は必要だろう?」
アーリアさんが俺に近づいてきて、木の板を手渡した。
と、同時に思わずよろめく。
「重っ!!?」
かなり重い。50キロはある気がする。
「んじゃ、クロキ君。それをゼロ君に渡してくれるかな」
「…………潰れると思うんですけど」
「その場合は、僕が責任持って引き取ってあげるよ」
「……何のために?」
「解剖」
「やっぱり!!」
ゼロをヤブ医者の手に渡すようなことはしたくないので、あくまでもそっとゼロに板を手渡す。
万が一何かあれば、アーリアさんが助けてくれるだろう。
ゆっくりとゼロのほうに重さを傾けるが、ゼロはまったく動じた様子がない。
しかも、板を完全に一人で持っている状態でも平然としていた。
「ぜ、ゼロ? 重くないのか?」
「あんまり重さは感じませんけど……」
アーリアさんが手助けしているのかと思わず目を凝らしたが、アーリアさんはヤブ医者の隣に居るままだ。
「ゼロ君、ちょっとその板を握ってもらえるかい?」
「あ、はい」
ヤブ医者の謎の指示とともに、ゼロが指に力を入れる。と。
パシッ。
――――木の板が、粉砕した。
「……は?」
思わず間抜けな声が出たが、そんなことに構っていられない。
ゼロが指に力を入れたとたん、なにかのCGのように、板が粉々になった。
驚きのあまり呆然としているゼロの指から、サラサラと小麦粉のようなこなが零れ落ちる。
驚く俺を放って置いたまま、ヤブ医者が面白そうにうなずいた。
「“白”の女性は怪力だと聞いたことがあったんだけど、これほどまでとはねえ」
怪力で済まされるような事ではないと思う。
今のゼロなら、トラックでも止められるのではないだろうか。
「は、はは」
取り残された俺は、乾いた笑いを漏らすことしか出来なかった。