とりあえず準備
「……うーん。どれにしようか」
今、俺は武器屋にいる。ゼロとティズ、あとアーリアが一緒だ。
ヤブ医者はなんかやりたい実験があるとかで診療所に残った。
……なんの実験か激しく聞いてみたい。きっとグロテスクだな。
「あんまり重いのはやめときなよ。体の出来てないあんたみたいなガキには、到底扱えないよ」
「親切なアドバイスどーも」
俺は今、ゼロと一緒に武器を見ている。“勇者決定戦”に出るために、とりあえず武器を調達しようということになったからだ。
ゼロは基本体で戦うファイターだから武器は使わない。だが、短剣やナイフなどの刃物も持っていたほうがいいと、アーリアが助言したため、俺達と同行している。
「しっかし、やけに種類が多いな~」
俺はずらりと並べられた武器を見てため息をついた。
光を眩いばかりに反射する鋭利な刃物。
槍や棍棒に斧、それに弓などの飛び道具。
あとは、杖や水晶の埋め込まれた魔法具だ。
(エセ神によると、俺の魔力は強いらしいから……やっぱ魔法具か?)
でも、どれを手にとってもしっくり来ない。中には水晶玉なんかもあったが、これを使ってどうやって戦えというのか。
(…………敵に投げつけるとか? いやいや、そんなの意味なくね?)
確かに重くて硬い鈍器だが。
「どれにしましょうか。ユウ様、どれがいいと思います?」
「ん? 見せてみろ」
ゼロに声をかけられ、俺はゼロの手元を覗き込んだ。
そこにあるのは、五本ほどの短剣。
それぞれの柄には違う色の水晶が埋め込まれてあって、見た目としてはとてもキレイだ。
「どれかを選ぼうと思うんですけど……」
「別に選ぶ必要なんてないだろ。全部買っちまえばいい」
「え!? ダメですそんなこと! ユウ様のお金を私なんかが使うなんて――!」
「いいっつってんだろ? 俺が許すんだから」
ゼロの頭をぽんぽんとなでる。ゼロも本当は全部欲しかったようで、にへへと表情を緩めて笑った。
……ほんと、癒されるわあ~。
と、次の瞬間背後に殺気を感じてすぐさまゼロから離れた。
「…………またか弱い女の子に暴力を……! 許せません」
「待て待て待て待て! だから俺はなんにもしてないだろ!?」
「…………喚くな叫ぶな喋るなちょん切りますよ。汚らわしい」
「ひどい! それは酷いと思いますアーリアさん!」
俺がアーリアさんの不平等さを訴えていると、突然横からボカッと殴られた。
「っいて!?」
「あんたはいつまでおしゃべりしてるんだい。さっさと選びな」
「なんで殴るんだよ……」
ぶつぶつと文句を言うと、また横から鉄拳が飛んできたので間一髪で回避した。
これ以上殴られたくはないので武器に思考を戻す。
とりあえず水晶玉は候補から除外して、斧なども重すぎるため却下。
そうなると、軽めのナイフや剣がいいのだが――――。
(……刃物、だもんな)
人の命を奪う道具。
この世界と前の世界は何もかもが違う。生きているものも、生活も、全て。
この世界で生きていくために一番手っ取り早いのは、前の世界での考え方を捨て、こっちに順応することだ。そうしないと、前の世界に縛られ囚われて、きっと身動きできなくなる時が来る。
(――でも、俺はそれでもいい)
囚われてしまっても構わない。
(――――俺は、自分のしたいようにしてやる)
刃物から目をそらして魔法具のほうを見る。すると、怪しげな杖や水晶玉などの間に、なにやらおかしなものが見えた。
「…………日本刀?」
黒い鞘に入った、昔ながらの刀。手に取ってみると意外と軽く、柄を握るとなぜか手になじんだ。
(つか、刃物はやめようって思ったばっかなのに)
それでも、なぜか魅せられる。
スゥっと鞘から抜くと、シャランという軽い音を立てて刀身が姿を現した。
「…………あれ?」
すると、少々おかしな点を発見した。
なぜか刀身がかなり白い。
白といってもペンキを塗りたくったようなものではなく、物質そのものが放つ透き通るような白さ。
そして、柄の少し下にある真っ赤な結晶が映えてとても綺麗だった。
(なにでできてる? 鉄じゃあなさそうだし……新種の金属か?)
コンコンとノックをするような形で刀身を叩くと、結構硬く丈夫そうだった。
と、手が滑って思わず刃の部分を触ってしまった。
「やべっ……!?」
が、切れなかった。
まじまじと自分の手を凝視して、今度は自分から恐る恐る触ってみる。ゆっくりと刃に指を滑らせても、痛みを感じることはなかった。
「…………切れない?」
「何一人で百面相してるんだい」
「っうおわ!?」
突然ティズが横から顔を出してきた。
つーか突然出てくるなよ! 心臓に悪い。マジで。
「いや、これは」
「…………見たことのない武器」
「うぎゃああああ!?」
死角からぬっとアーリアが出てきた。
アーリアさん青白すぎるんだよ! 幽霊に見えるってか幽霊にしか見えないからヤメロ!
「……これは俺の故郷の武器だよ。ここにはないのか?」
「少なくとも、こんな武器は今まで見たことないね」
「…………刀身は水晶でできています。魔法具でしょうか」
「魔法具?」
日本刀が魔法具。……納得できねー。つかイメージできない。
けど、それなら切れないことについての説明は出来る。
(これなら、敵の攻撃も受け止められそうだし、魔法も使える。……よし)
「んじゃ、俺これにするよ。おっさん、これいくらだ?」
「へい、そいつなら銀貨二枚で結構でさあ」
「……やけに安くね?」
俺は武器屋のおっさんが言ったことに首をかしげた。
銅貨一枚でだいたい千円、銀貨一枚で大体一万円ぐらいの価値がある。それだけを言うとそんなに安くないが、さっきのゼロの短剣は5本で銀貨三十枚だった。
……一本六万円? 包丁でも持って来ればよかったかな。
「そいつは結構な材料を使ってる一級品ですが、なにぶん買い手がつかなくて。かれこれ十七年はここにありますかねえ」
「へえ。ま、いいや。安いに越したことはないし」
俺は銀貨二枚を取り出しておっさんに渡すと、なぞの日本刀を手にみんなと一緒に武器屋を後にした。
――――日本刀が武器屋にあった時間と俺の年が同じ事は偶然なのか、と思いながら。
ようやく投稿です。すみません。
キャラの案があったらどしどしそうぞ。