第四話 衙役
楽しんで読んでください。字の間違いがあったらごめんなさい。
次の日
街の広場に入った瞬間、空気がざわついているのを感じた。
人だかりの中心で、若い女が叫んでいる。
男が数人、取り囲むように立っていた。
「助けて!」
声は大きい。
だが、嘉樹は足を止めた。
(……違う)
理由は説明できない。
ただ、胸の奥が冷えた。
文淵が隣で低く言う。
「嘉樹、無理に近づかなくていい」
「……でも、見ます」
嘉樹は女を見る。
泣き顔。震える手。
けれど、足の向きだけが、妙に落ち着いていた。
(逃げる気がない)
それだけで、十分だった。
「文淵様、あの男です」
嘉樹は、女の後ろに立つ一人を示す。
腕を組み、周囲を見回している男。
文淵は、静かに中心に入った。
「何か問題でも起こったんですか」
静かな声だった。
「これ…」
女は何か怯えているように見た。
嘉樹が少しの前に進んで、倒れている人を見た。
その瞬間ある女の人が倒れている男を揺らそうとした。
「触るな!」
嘉樹は多分生まれて初めてこんなに大きな声を出した。
嘉樹は急いで、男に駆け寄り、仰向けにした。
「動かない呼吸はある、脈は浅い、口が青い」
嘉樹は男を少しつねった。
「反応なし」
私は男に心臓マッサージを始めた。
「役人を呼んでください」
文淵は声を上げた。
誰かが衙役を呼びに走った。
私は、何も考えないようにしていた。しかし頭が勝手に動く。
多分この男は助からない。
口が青いつねっても反応しない目が赤いこれは脳内出血
現代なら治るかもしれない、けれどここでは絶対に治らない
なんで助けたんだろう。私の処置が悪いから死んだかもしれない。そんなリスクもあったのになんで助けたんだろう。
(これから気をつけよう)
ほどなくして、衙役が現れた。
黒い羽織を着た中年の男だ。
「状況は把握した。後は任せろ」
嘉樹は素直に手を離した。
理由は簡単だ。
もう死んだからだ。
「お前は、何をしているものだ。」
嘉樹は一瞬、身構えた。
「この方と旅をしています。」
「この時期に旅なんて珍しいな」
何か下に見られているようだ。
「女が旅なんて危険だここで働かないか。給金はなしだが寝るところと食うものは準備する。悪くないだろ。」
はっきりしない誘いだった。
期待も、制限も、両方含んでいる。
嘉樹は首を振る。
「確かにそうですが」
それ以上は言えなかった。
衙役は笑った。
「じゃあ入ればいいことだ」
現実的で、残酷で、正直だった。
文淵が一歩、嘉樹の前に出る。
「それを決めるのはこの子です。」
それだけ言って、振り返る。
問いかけない。背を押さない。
嘉樹は胸の奥を探る。
(前世なら、絶対誰も信じなかった。)
でも今は違う。
私は拳を握った。
「はい分かりました」
衙役は頷いた。
「それでいい」
人々が散り、広場に静けさが戻る。
嘉樹は息を吐いた。
知らぬ間に、肩が強張っていた。
文淵が、静かに言う。
「これでいいのですか」
「……はい」
「それが、あなたの答えです」
嘉樹は空を見上げる。
夕日が、街を赤く染めていた。
(本当の気持ちかどうかは、まだわからない)
衙に入っても、入らなくても。
旅を続けても、ここに残っても。
たぶん、生きてはいける。
正解も、不正解も、今の私には同じ重さだ。
なんでそれを選んだのか私にも分からない。
それで、今は十分だった。
広場での一件の後、嘉樹は正式に宿舎へ入ることになった。
表向きの役目は掃除係。
差し出されたのは、落ち着いた深緑色の漢服だった。
派手さはなく、街の景色に溶け込むような色合いだ。
嘉樹は布を両手で受け取り、その重みと感触を確かめる。
「下級の者は、まず街を知ることから始める」
中年の衙役が淡々と告げる。
「掃除も、管理も、すべて街を守る仕事の一部だ」
嘉樹は静かに頷いた。
(……これが、私の立ち位置)
胸の奥で、前世の記憶が微かにざわめく。
似たような服、似たような役割。
けれど今回は、誰かに押し付けられた道ではない。
文淵は一歩後ろに立ち、いつもと変わらぬ落ち着いた声で言った。
「最初は地道でいい。あなたには“見る役目”があります」
嘉樹は小さく息を吐き、肩の力を抜いた。
次回も楽しみにしていてください。




