第三章 旅の始まり
楽しんで読んでください。字の間違いがあるかもしれないけどごめんなさい。
沈家を出て、数日が経っていた。
あの血の件は、結局誰にも知られないまま――私は屋敷を離れた。
嘉樹の胸の奥は、落ち着かないままだった。
沈家の塀の外に出てから、世界は思っていた以上に冷たく、距離があり、時に露骨な悪意を向けてくる。
(やっぱり、現代も過去も変わらないな…)
そのとき、街角から荒い怒号と足音が響いた。
「税を減らせ、食料補をよこせ」
「最近は、作物も少なく少し寒気もしますね。」
文淵は、何か心配そうな表情で言った。
(確かもうすぐで民が滅んで清に変わるんだっけ)
最近の明はひどい状況になっている。
店の戸は半分閉まり、値札だけが書き直されていた
街の治安は悪くなり、外に夜出られない街もあった。
(商売が不安定、銀不足で取引が混乱、物価が上がる、失業増加、女二人で旅するなんて奇跡に近い気もする。)
「この辺で宿を決めましょう。変に動いても危ないので」
文淵は相変わらず優しい声でいった。
「はい」
(清の時代になっても、しばらくはこのままか、やっぱ生まれ変わっても辛いな…)
「今日はここで休みましょう。」
「はい」
会話はこれだけだった。
特に言うこともない。
「文淵様はこの旅を辛いと感じますか?」
何故か勝手に口が動いた。
「それは大変ですよ。貴族出身の私はこういう旅は、大変だと思うことは多いですよ。」
「そうですか。」
何故か自然に目が閉じた。
朝は、静かだった。
まだ日が昇りきらず、宿の廊下は冷えている。
嘉樹は先に目を覚ました。
天井の木目を数えながら、昨夜の計算をなぞる。
(所持銀、残り三両と少し足りるかな…)
指先で布団の縁をなぞる。
隣で文淵が身じろぎした。
「……おはようございます」
声は穏やかで、平坦だった。
「おはようございます」
二人はそれ以上話さない。
⸻
帳場はすでに人がいた。
主人は眠たげな顔で算盤を弾いている。
その音が、やけに乾いて響いた。
「昨夜の分と、今日一泊分で」
嘉樹は銀を出す。
主人は受け取り、重さを確かめ、少し眉を寄せた。
「足りませんな」
空気が止まる。
「……昨日、伺った額ですが」
嘉樹の声は静かだった。
主人は肩をすくめる。
「今朝から値が変わりました。米が入らん。銀も回らん。仕方ありませぬ」
算盤の珠が、ひとつ余計に弾かれる。
(流通停滞に、供給不足か…価格転嫁が即日図書に書いていたことよりも大変だな…)
頭が勝手に整理する。
嘉樹は黙って、もう一枚出そうとした。
その前に、文淵が袖から銀を差し出す。
動きは迷いがなかった。
主人は無言で受け取り、帳面に何かを書きつける。
⸻
外に出ると、朝の空気は冷たかった。
嘉樹は歩きながら言う。
「昨日より、上がっていました」
「そうですねもうすぐ路銀も無くなりそうですし、もう旅はもう続けるのは難しいでしょう。」
責めない。焦らない。
ただ事実を受け取る声。
嘉樹は横目でその横顔を見る。
(所持銀の減少率は、想定外だ)
だが同時に、別の思考が混ざる。
それでも、今は同じだけ減っていく。
「文淵様、旅をしながら仕事をしませんか?」
文淵は不思議そうにこっちを見た。
「このままだと路銀が消えます。しかし仕事を雇ってくれる人なんていないと思うので、商売しませんか?」
文淵はもっと不思議そうな顔でこっちを見た。
「つまりどういうことなんですか。」
嘉樹は胸元から紙とすずりを出した。
そして自分の、頭を指で示した。
「私の頭には色々な知識があります。それを、この紙に書いて、院寺などに売れば路銀になると思います。」
さっきまで不思議そうな顔をしていた文淵は、優しく笑って言った。
「なるほど、でも嘉樹様だけに負担がかかって大変だと思います。」
「大丈夫ですよ」
私は、愛想笑いで返した。
その日どこにも行かず、前世では、当然のことを書いた。少し前世のものも、少し書き加えた。一日中手が止まることはなかった。
文淵は、横でずっと優しく見守ってくれて、たまに差し入れもくれた。
「終わった」
私は額の汗を袖で拭いた。
「お疲れ様です。では院寺に持っていきましょう。」
寺に行く途中、
影が二つ、並んで伸びていた。
一定の距離。
乱れない歩幅。
それが、不思議と安定して見えた。
(変動するのは外だけか)
文淵は嘉樹を見た。
「今日中に、もう少し安い宿を探します」
「任せます」
即答だった。
信頼なのか、無関心なのか、自分でも、判別がつかない。
だが、その重さは感じた。
銀は減る。
物価は上がる。
時代は傾いている。
それでも。
隣の歩幅は、変わらなかった。
私が書いたものは、寺に0.1両で買い取られた
しばらく困ることはなさそうだ。
楽しんで読んでいただけたでしょうか。続きも楽しみにしてください。




