第四話:叫ぶな、ルーカス。頼むから話を聞け
昼過ぎの第一騎士団本部。
アイリスは廊下の窓を拭きながら、そっと背伸びをした。
(……腰が痛い。昨日の討伐で変な力入ったな……)
昨日、団長とルーカスの「掃除係=汚れと戦う達人=討伐向き」という謎理論に巻き込まれたばかりだ。まだ疲労が残っている。
そこへ、ゴードン団長の重たい足音が響いた。
「ふっ……今日も俺は働きすぎだな……いっそ辞めようかな……(チラッチラッ)」
(いや、まだ昼。せめて夕方までは仕事して……)
団長はおもむろに団員たちを集め、話を切り出した。今いる団員は7名ほど。ベテランも何人かいる。
「今日は北の砦から追加依頼が届いた。重要だ、しっかり聞け。」
団員たちは姿勢を正す。アイリスも掃除の手を止めた。
ゴードンは難しい顔で依頼書を読み上げる。
「『北の砦付近で大型魔獣の足跡を確認』……ふむ。『調査隊の派遣を希望』……ふむ。そして――」
そこへ、ルーカスが勢いよく手を挙げた。
「任せてください団長っっ!!!」
「……いや、まだ何も言ってないが」
(聞けよ……! 1回ちゃんと話を聞け……!)
「大丈夫っす!! 行きます!!」
(ほんとに大丈夫な要素ゼロなんだけど……)
ゴードンは咳払いし、続きを読み上げる。
「『大型魔獣の種類は不明。過去に例がない姿で――』」
「余裕っす!!」
(いや余裕じゃないだろ。不明が一番怖いって!)
「『危険度が高いため、熟練者の調査を求む』」
「了解でぇぇぇぇす!!」
(何に了解した? そこ“熟練者”って書いてるんだぞ?)
周囲の団員の視線がルーカスに集まる。
「なぁ……ルーカスって熟練者だったっけ?」
「いや、あいつ若手の中でも危なっかしい側」
(危なっかしい? ほぼ危険物レベルだよ)
ルーカスは胸を張る。
「気持ちが熟練してればOKっすよ!!」
(また新概念を出してきたな)
ゴードン団長が依頼書を見つめながら、ぽつりと呟く。
「ルーカスがそこまで言うなら……俺たちなら……いけるんじゃないか……?」
(やめろ団長!! なんで乗るんだ!!)
「よし! 今回の調査隊は――」
嫌な予感しかしない。
「ルーカス、お前が仕切るんだ!」
「おっしゃああああ!!」
(いや、無理。誰が見ても無理)
「そして掃除係も行け!」
「は!??」
ルーカスが振り返って満面の笑み。
「アイリスさんなら余裕っす!! 毎日雑巾がけしてるじゃないっすか!!」
(雑巾がけ=戦闘力みたいに言うな!!)
団長も謎の自信を見せる。
「そうだな! 足腰が強靭だからな! 大型魔獣にも負けないはずだ!」
(……雑巾がけと魔獣がどう繋がった?)
「というわけで、調査隊はルーカス、掃除係、そしてベテラン数名で行け。危険だと判断したら無理はするなよ?」
「えっ、本気でこのメンバーで行くんですか?」
「任せてください!! 危険でも行きます!!」
「いや違う、危険なら撤退しろと――」
「団長! 俺は撤退する気はないっす!!」
(あああああ最悪の返事……!!)
団長はなぜか感動している。
「……熱意があるな。頼もしい……」
(頼もしい要素がどこにもない……!)
ルーカスはアイリスに向き直る。
「アイリスさん!! 俺についてきてください!! 大丈夫なんで!!」
(大丈夫だと感じるのは、依頼内容に対してあなたの理解が浅いからだよ……)
ゴードン団長はルーカスに地図を渡しながら、またチラチラと周りを見る。
「よし! この調査が成功したら……俺の存在感も上がってしまうな……(チラッ)」
「任せてください団長!!」
アイリスは地図を見つめながら、深く深くため息をついた。
(……あぁ、なんでこんな仕事始めたんだろ。家計のためとはいえ、もっと静かな職場、絶対あったよね……。でも給料が……給料だけは……捨てがたい……)
こうして、大型魔獣“不明種”の調査隊は、不安度No.1の若手+巻き込まれ掃除係+無駄に多いベテランという編成で結成されてしまった。




