第三話:主な業務内容は清掃です
トンデモ会議な第一騎士団ではあるが、遠征は何の問題もなく終えたようだ。
(いつも思うけど、アレでよく無事に帰ってこれるなぁ)
強運の加護でも持ってるんだろうか。騎士団全体に効果がある加護なら、ここで働いている私にも恩恵があるんだろうか。アイリスは、バケツの水面に映る自分を見つめてみた。
そこへ、いつもの足音が近づく。
「ゴードン団長、何か御用で――」
「よし! 今から小型魔獣の討伐だ! 掃除係も行くぞ!」
「……は?」(死ねと?)
「団長、いま『掃除係』と呼びましたよね? 私を掃除係と認識しているんですよね??」
「掃除係は日頃から“汚れ”と戦っているだろう? つまり“戦闘経験が豊富”だ! 討伐に活かすべきだ!」
(汚れ=魔獣? もはや思考回路が魔獣だ)
ゴードンは誇らしげに胸を張る。
「大丈夫だ! 小型魔獣なんて俺なら片手で倒せるし! アイリスは俺の後ろで、俺の活躍を掃除してくれればいい!」
(活躍を掃除って何だ。言っている意味が分からない)
そこへルーカスが勢いよく飛び込んできた。
「団長!! 討伐行くんすか!! 俺も行きますよ!! アイリスさんには俺が教えますんで!!」
(いやいや、あなたの説明力は信用ゼロだよ?)
ゴードンは満足げにうなずく。
「よし! これより、三人で討伐チームを組む! チーム名は『アイリス隊』だ! 出発するぞ!」
(なんで掃除係が主戦力みたいになってるんだよ)
目撃情報のあった、市街の公園へ向かう馬車の中。アイリスはモップ(武器ではない)を抱えて揺られていた。
「いやー、小型魔獣っすよね? 余裕っすよ!! マジで!! 超かんたんなんで!!」
「……作戦を教えて下さい」
「え? あ、えっとですね。まず現地いって! 観察して! 倒して! 完了届を出して終わりっす! マジで楽っす!」
「……」
作戦ではなく、ルーカスの感想だった。
呆れて黙るアイリスに気付く事なく、ルーカスは話し続ける。
「いやホント! 何回もやったことありますけど!! 報告書いらないんで!! 検討とかも要らないっす!! さくっと終わりますから!!!」
「さくっと? ええと、討伐がですか? それとも事務処理が?」
「気持ちっす!!」
ルーカスの情報量はゼロだった。一方、団長は会話を聞かずに窓の外へ視線を投げてつぶやく。
「……はぁ~……俺、この討伐で評価されなかったら、辞めよっかな~~~(チラッ)」
「大丈夫っす団長!!」
◇
公園の入り口。
雑に書かれた「小型魔獣注意」の看板がガタガタ揺れている。ロクな説明もなく連れて来られたアイリスがモップを握りしめると、ルーカスがパシンッ! と両手を叩いた。
「よし! 観察!! します!!」
叫びながら突撃を始める。
「はっ!? 観察って、もうちょい静かに――」
「よし! 俺が団長らしく先陣を切ろう!」
(団長も行くの!?)
二人は盛大に枝を踏みまくり、結果、小型魔獣(丸っこいイタチみたいなやつ)に気付かれる。
「「「シャーッ!」」」
「大丈夫っす!! 俺が!! アイリスさん援護お願いします!!」
「いや何を!? 私は大丈夫じゃな――」
結局。
・アイリス → モップで牽制
・ルーカス → 大声で混乱を誘うだけ
・団長 → 承認欲求が大爆発でさらに混乱を誘う
という地獄の連携の末、なんとか袋に追い込んで捕獲した。
帰りの馬車にて。
「いやー、かんたんでしたね! ね!? 言ったじゃないですか!!」
(簡単だったのは、お前が何もしていないからだよ!)
「ふふ……今日の俺、輝いてたな。団長として存在感を示せた……よし、辞めるのはまた今度にする」
「団長さすがっす!!」
(いやモップで追い込んだの私)
魔獣への恐怖より、団長たちから受けるストレスで精神がガリゴリと削られた。こうして今日も、掃除係の仕事は“掃除”だけでは済まなかった。




