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掃除係アイリスの騎士団混沌日誌〜いいから落ち着け。全員まとめて今すぐに〜  作者: まめまめみ


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第十九話:王都は朝から終わっている

 どんよりとした曇り空の下。

 王都は、朝から終わっていた。


「市場が揉めてます!」

「書類が詰まってます!」

「商人ギルドと官僚が言い争ってます!」

「聖堂騎士団が『今こそ権限を』とか言い出しました!」


 第一騎士団の大部屋は戦場だった。

 報告が飛び、紙が舞い、机の上は完全に崩壊している。


 ひたすらメモを取っていたルーカスが、ふっとペンを置いた。


「……今、何番目の案件でしたっけ?」


「あ、そういえば。第一の副団長から、北の森の追加報告も来てます」


 ルーカスとゴードン団長が、同時に叫ぶ。


「後で!」

「後でだ!!」

 

 

 

 山となった机の書類、床の書類、椅子の上の書類。

 補助金打ち切りの余波で、各所が同時多発的に炎上していた。


「よし!」


 ゴードン団長が、やけに良い声で立ち上がる。


「喧嘩両成敗だ! 揉めてる市場へ行こう!」


「行くな!!」


 全員の声が揃った。


「なぜだ!?」

「問題が増えるからです!!」


 ゴードン団長はしょんぼり……するかと思いきや、なぜかテンションが高い。


「ふはは! 忙しいな! 楽しいな!」

「団長、完全に限界超えてます」

「まだ大丈夫だ! ウサギが見えるまではな!」

「ウサギ!??」

 

 また新しい伝令が数人、駆け込んできた。


「商人ギルドからです!」

「官僚区画からも!」

「聖堂騎士団が『中立的な調整役を寄越せ』と!」

「冒険者協会からも『若者が増えすぎて回らん』と!」


 部屋が、静まり返った。

 それぞれの伝令が、ほぼ同時に言う。


「話の分かる人を」

「現場が見える人を」

「感情的にならない人を」

「若者の扱いに慣れてる人を」


 要求が、ぴたりと一致した。


「あ、それ」

「アイリスちゃんじゃね?」

「間違いねぇな」


 

「……どうして、私がここに?」


 王都の大通り。

 ホウキを持ったままのアイリスが呟く。


「『なぜか平和的に終わる』って言われまして……」

「『あなたがいると話が進む』と……」

「『もう慣れてるでしょう?』とも……」


「慣れてません!」


 そう言いながら、足は止まらない。

 市場、官僚区画、聖堂騎士団。

 アイリスは王都を走り回った。


「価格表は後で整理します!」

「第一、下がってください! 威圧しない!」


 数分で収束。直後。


「書類山脈が崩壊しました!!」


「署名は右、決裁は左、未処理は箱!」

「団長、紙を掴まないでください!」


 収束。直後。


「聖堂騎士団が来ました!!」

「今じゃありません!!」


「助けに来たぜ!!」

「来なくていいです!!」


 一つ整えると、別で崩れる。


「次、あっちっす……」

「え、さっき片付けたばかりじゃ――」


 移動する災害収束装置だった。


 誰かが、ふと思い出したように言う。


「北の森の大型魔獣……」

「霧が晴れなくて様子見らしいっすね」

「今はそれどころじゃなーい!」


 誰も深掘りしなかった。



 夕方。

 なぜか全員が、同じ広場に集まってしまった。


 市場関係者。

 商人ギルド。

 官僚。

 聖堂騎士団。

 第一騎士団。


「だから補助金が――!」

「規定が――!」

「権限が――!」

「騎士団は黙って――!」


 誰かが、呆然と呟いた。


「……どうすればいいんだ、これ」


 どこからも返事はなかった。

 ざわめきだけが、じわじわと広がり続ける。


 アイリスの声は、静かだった。


「……落ち着いてください」


 アイリスは、深く息を吸った。ざわめきが、わずかに沈む。


「……これだけでは、終わらない気がします」


 その直後。

 

 ドォン!!

 

「な、なんだ今の!?」「北の森の方角だ!!」

「被害を報告します!!」

 

 アイリスは、額を押さえた。


「嫌な予感は、してましたけど……」


 第一騎士団が、なぜか一斉に前へ。


「今度こそ出番だな!!」

「出ないでください!!」


 アイリスは小さく息を吐いた。


「……今日は、長くなりそうですね」

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