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掃除係アイリスの騎士団混沌日誌〜いいから落ち着け。全員まとめて今すぐに〜  作者: まめまめみ


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20/22

第十八話:姉上が普通じゃなかった一日

 学園の朝は、朝から慌ただしかった。


 来賓用の導線確認、臨時受付の設置、騎士団との警備位置の最終調整。

 学生スタッフである俺は、冒険者協会関係者の案内を任され、資料を何度も確認していた。


(……さすがに警備が厳重だな)


 本日の『研究と進路の合同公開イベント』は、国王陛下名義の後援行事でもある。

 祝辞(代読)に加え、冒険者協会からは支部長クラスが来賓として招かれていた。国王本人は来ない。それでも、その名前だけで警備は跳ね上がる。


 第一騎士団が来ると聞いて、多少騒がしくなるだろうとは思っていた。


「おや、真面目だねぇ」


 背後から、のんびりした声がかかる。


 振り返ると、冒険者協会の支部長が、余裕の笑みで立っていた。


「おはようございます。……支部長、少し早すぎます」


「職業病でね。邪魔にされるのも慣れてる」

 

「慣れないでください」


 支部長は笑い、俺を見た。


「君、アイリスちゃんの弟くんだろ」

 

「……はい」


 少しだけ照れつつ、俺は来賓控室へと案内を続けた。


 姉上も今日は、第一騎士団の一員として警備に来るらしい。その程度の認識だった。……この時点では。



 異変は、遠くから聞こえてきた。


 重い足音。鎧の擦れる音。


「第一騎士団、行進開始ィ!!」

「おおおおおおお!!」


(……いや、ここ学園なんだけど)


「静かにしてください!」

「行進は控えて――」


 教職員の声は、完全にかき消された。


「え、戦争?」

「研究発表会だよね……?」


 学生たちがざわつき、教職員が顔を引きつらせた、その時。


「第一の皆さん、集合。今すぐ配置をやり直します」


 よく通る、落ち着いた声が響いた。


 ……あ。


 姉上だ。


「「おぅっ!!」」


 一瞬で揃う隊列。


(……なんで今ので?)


 俺は、手元の資料を落としかけた。



 姉上は、地図を手に広場中央に立っていた。


「行進は不要です。今日は式典ではありません。裏手中心で配置してください」


 淡々と、迷いなく。


 人の流れが詰まれば、第二騎士団と即座に調整する。結界担当が淡々と動く。


「結界、再展開します」

「第一が静かだと助かりますね」


 第二の責任者が「彼女がいると、全然違うな」と呟くのが聞こえた。


(違いすぎない?)



 少し離れた位置で、ノエル副団長が全体を見ていた。


(指揮の中心が、団長じゃない)


 アイリスが声を出すたび、流れが整う。

 本人に自覚がないのが、なお悪い。


「……君、もう団長だろ」


 当然、本人には届かない。



 やがて、イベント開始の時間となった。

 国王の祝辞は官僚による代読だった。


「『若き皆さんが、研究と進路を自由に選べる未来を――』」


 官僚の声が、わずかに気まずい。学生たちの拍手も、控えめだった。この場所で、それを言うのか。この会場にいる何人の学生が、突然の方針転換で研究、進学を諦めた事か。


 支部長が苦笑した。


「はは……まあ、言葉は前向きだね」

「……ですね」


 祝辞が終わり、イベント開始の宣言がなされると、また人の流れが詰まりかけたが。


「学生スタッフの皆さん、その列、右に流してください」

「支部長、お久しぶりです。こちらへお願いします」


 姉上の声が飛ぶ。


「おい、声出すなって」

「姉御が見てる」


 第一騎士団が小声でざわつく。


「第一の皆さん、動かない!」


 即座に静まる。


(……教育が行き届きすぎてない?)


 姉上が全体を見渡している。誰が詰まり、どこが空き、次に何が起きそうか――全部。


(研究者になる人だったんだよなぁ……)



 イベントは、驚くほど何事もなく終わった。


 帰り際、支部長が言う。


「助かったよ。アイリスちゃんにもよろしく」

「……はい」


 第一騎士団は相変わらずだ。

 

「姉御〜!」

「実質団長!」

「また現場お願いします!!」


「やめてください!!」


 

 そんな騒ぎも落ち着き始めた、片付けの時間。

 夕方の学園で、俺は撤収作業をしている姉上に声をかけた。


「姉上、今日はお疲れさまでした」


「うん」


 少し迷ってから、俺は言った。


「姉上って……もう完全に騎士団の人ですよね」


「え!? 違うよ!?」


 即答だった。


「落ち着いたら復学して、王立アカデミアで研究するんだから!」


 俺は少し黙ってから返す。


「でも今日一日、団長みたいでしたよ」


「ちょっと!? 違うからね!?」


 必死な顔に、俺は少しだけ笑った。


(……まあ、いいか)


 研究者でも、騎士でも。

 今日の姉は、間違いなく一番頼れる人だった。


 夕焼けの学園で、第一騎士団が相変わらず騒いでいる。


「お姉様ぁぁ!!」

「姉御ぉぉ!!」


「やめて下さい!!!」


 ……本当に、長い一日だった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

弟目線で見る一日は、少しだけ特別だったかもしれません。

もし「この人を、もう少し見ていたい」と思っていただけたら、応援していただけると励みになります。

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