第二話:ルーカス大暴走会議
第一騎士団本部二階、会議室。
本日の第一騎士団の午後の予定は、北の砦への遠征ルート確認と物資運搬の調整――要するに真面目な会議だ。
話が脱線しないよう、余計な物は片付けていく。出しっぱなしになっていた『北の砦のお土産☆おすすめブック』を見て、アイリスは小さくため息をついた。
(誰だこれ置いてったの……遠征を遠足にする気か)
アイリスは本棚に本をしまい、椅子を拭き、会議室を整えていく。
バンッ!!
「よぉぉっし!! 会議!! やんぞぉぉぉ!!!」
ルーカスが勢いよく会議室に飛び込んできた。
(扉の金具、明日には壊れてそう……いや今日かも)
扉の金具が歪んでいないか、アイリスはチラッと目を向ける。
続けて、ゴードン団長が胸を張って入ってくる。ピカピカに磨き上げた鎧と、やたら長い赤いマントが目をひく。
「えー、遠征の説明の前に。まずは前提として。今回の遠征は、団長である俺の腕が見込まれて――」
(はいはい、また自慢が始まった)
が、今日はゴードンの出番すら奪う男がいた。
「はいっ!! 俺、説明できますっ!!」
「「えっ、お前が?」」
(えっ、大丈夫?)
全員が固まる中、ルーカスは地図をバッサァア!! と広げた。
「とりまですね!! このへんが危ないんで!! ここをこう行ってっ!! こっち行けば!! 完璧っす!!」
(……いや、地図の3分の1を『ここ』って言われてもわからん)
気になって、つい見ていたらゴードン団長と目が合ってしまった。
「アイリス、お前はどう思う?」
「知りません。掃除係に戦略を求めないで下さい」
ルーカスはさらにテンションを上げる。
「敵はこう来るんで!! こう行けば!! はい勝ちっ!! 余裕っ!! 超余裕っ!!」
「敵って何……? 砦に敵いたっけ?」「勝ちって何が??」
(今日も話が脱線してきたなぁ)
このままでは会議が迷宮入りする……。アイリスは会議室の隅にあったホワイトボードをガラガラと押し出し、さらさらと板書する。
「ルーカスさんが『敵』と言っているのは、たぶん霧です。霧花の季節なので、群生地を避けたルートBが良いのではないでしょうか。それと危険なのはこの谷ではなく、こちらの湖ではないですか?」
「そーーーそーーーそーーー!! それそれそれ!!! 俺、だいたいそれ言ってた!!」
「言ってましたか……?」
「皆さん、ここまでの話はOKっすか? 分かんないトコある人います?」
ゴードン団長がドヤ顔で声を張り上げる。
「俺が! 育てたルーカスがここまで成長してくれて、嬉しいぞ! うん。感動した!」
「いえ、育てられてないっす! じゃ、次。物資運搬いきましょう!! ルート確認したんで、物資は全部まとめて!! ガッ!! と運べば、いけるっす!!」
「ガッと? 何を運ぶんだ?」「量の確認が先じゃないか?」
アイリスはホワイトボードの横に立ったまま、ルーカスの暴走を眺めていたが、ハッと気づく。
(そう言えば、部屋を出るタイミングを完全に失ってた…!)
次は武器庫の掃除だ。アイリスが廊下に出た後も、会議室からの騒音が壁越しに響いてくる。
(……落ち着く気、ゼロだな。うん)




