表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
掃除係アイリスの騎士団混沌日誌〜いいから落ち着け。全員まとめて今すぐに〜  作者: まめまめみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/22

第十七話:母校という名の戦場

 王都から半日ほどの距離にある学園。アイリスは馬車を降り、石造りの正門を見上げた。


(……懐かしいな)


 白い石壁。少し古びた紋章。

 毎朝くぐった門。魔獣学棟へ走った日も、図書館に籠もった日も、そして――進学を諦めると決めた日の帰り道も。

 

「おぉ〜……ここがアイリスの母校か!」


 背後で、第一騎士団の団員たちが騒ぎ出す。


「思ったより普通だな」

「魔法陣とか浮いてないのか?」

「学生いるじゃん……」


「当たり前です」


 アイリスは淡々と返した。


「ここは学園です。戦場ではありません」


「えっ、でも今回は“国王イベント”だろ?」

「国王への不満渦巻く学園!」

「つまり実質ここが戦場じゃ――」


「静かにしてください」


 空気が、ぴしりと締まった。

 団員たちは反射的に背筋を伸ばす。


(……今の、影のボスっぽかったかも)


 内心で焦るアイリスを、門の内側から数十人の学生がじぃっと見ていた。


「……来た」

「本当に来た……」

「第一騎士団を引き連れて……」


 そして次の瞬間。


「「「お姉様――!!」」」


 甲高い歓声が弾けた。


「え?」


 アイリスが振り向いた瞬間、門が内側から勢いよく開き、学生たちが駆け寄ってきた。


「アイリス先輩!!」

「戻ってきてくださったんですね!」

「お姉様! 今日もお美しいです!!」


「ちょ、ちょっと待って――」


 気づけば、目を輝かせた後輩たちに完全包囲されていた。


「卒業論文、参考にしてます!」

「騎士団での活躍、噂で……!」

「第一をまとめてるって本当ですか!?」


「まとめてはいません。ただ現場にいただけです」


「謙虚……!」「そこがまた……!」

「「お姉様……!」」


「お姉様?」


 その単語に、第一騎士団が反応する。


「今、お姉様って言った!?」

「百合!?」「ぃよっ、姉御!!」

「いいぞもっと――」


「違います」


 振り返り、低い声で告げる。


「変な妄想を口に出さないでください」


「はい……」


 屈強な男たちが、秒で沈黙した。


 その様子を、少し離れた場所で呆然と見ている人物がいた。

 

「あ、姉上……?」


 弟だった。


 学園の制服姿で、資料を抱えたまま固まっている。


(なんで第一騎士団の先頭に立ってるんだ)

(なんで先輩に囲まれてるんだ)

(なんで騎士が一斉に黙ってるんだ)


 弟の脳内で、“影のボス疑惑”が再燃した。


「いやぁ……相変わらずだねぇ、アイリスちゃん」


 隣で、冒険者協会の支部長が苦笑した。


「まとめるの、上手だよ」

「……何の話でしょうか」

「現場向きだねって話さ」


 第一騎士団が深く頷く。


「分かる」

「逆らえない安心感」

「現場が落ち着く」


 そこへ、学園側の責任者が駆け寄ってきた。


「アイリスさん! 本日は会議に来てくれて本当にありがとうございます。正直……第一騎士団と聞いて、不安で……」


 団員たちがざわつく。


「え?」

「なんで?」

「俺たち最強だぞ?」


 責任者は言葉を選び、正直に言った。


「空気を読むのが、少々……」


 アイリスが一歩前に出る。


「問題ありません」


 その一言で、場が静まった。


「私が調整します。皆様に混乱が起きないように。卒業生として、生徒側の目線に立ったフォローも行います」


 責任者は、ほっと息を吐く。


「……噂通りですね」

「噂?」

「“この人がいれば現場は回る”と」


 弟は、頭を抱えた。


(やっぱり姉上、影の――)


 ◇


 母校の講堂。臨時の会議室として整えたそこには、第一騎士団、第二騎士団、学園の職員が集まり、数日後の警備について打合せが行われていた。


 広げられた地図には、導線と警備区画がびっしり書き込まれている。……第一騎士団の会議では見る事がない物だ。


「以上が、学園警備の導線案です」


 第二騎士団の魔法騎士が説明する。


「つまり! 正面ドン! 裏もドン! 怪しいのが来たらドン!」

「ドンって何だ」


 第一騎士団は、平常運転だった。

 第二騎士団が、ほんの一瞬、遠い目をする。


「……第一騎士団は制圧担当で?」

 

「おう! 得意分野だ!」


「それは事件後の話です。今しているのは未然防止の話です」


 ぴし、と空気が張る。


「あの、補足して良いでしょうか」


 アイリスが地図を指さした。


「正門は象徴的な場所です。第一が立つと威圧感が強すぎます」

 

「……む」


「第二が結界で警備。第一は裏手を中心に非常事態に備えるが良いのでは」


 ゴードン団長が腕を組む。


「つまり俺たちは突発対応か?」

「はい」

「よし! 任せろ!」

 

 第二騎士団の若手が、思わず小さく息を漏らした。

「……判断が早い」


 地図に新しい線が引かれていく。


「学生は感情で動きやすい。はっきり言いますが、学生の中には、国王の政策に不満を持つ人もいます。ですので、万が一問題が起きたら、結界で隔離。第一は突っ込まないでください」

「特攻は!?」

「しません」


 第二騎士団の小隊長が、静かに言った。


「……あなたがいるなら、大丈夫そうですね」


「ありがとうございます……?」


 第一騎士団がざわつく。

 

「もう団長でよくね?」

「よくありません」


 地図の中心に立っているのは、誰が見てもアイリスだった。


 こうして。


 第一騎士団(勢い)

 第二騎士団(理論)

 そして、その間を繋ぐアイリス。


 母校イベントは、静かに、しかし確実に動き出した。


(第一が静かにできるのは……ここまでだろうな)


 その予感は、外れなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ