表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
掃除係アイリスの騎士団混沌日誌〜いいから落ち着け。全員まとめて今すぐに〜  作者: まめまめみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/22

第十六話:影のボス疑惑〜姉上、噂が届いております〜

 俺には、尊敬する姉上がいる。優しくて、頼りになって、でも怒らせるとおっかない。


 本当ならアカデミアに進学して、魔獣の生態や行動学を研究していたはずの人だ。

 だけど今は、第一騎士団の掃除係。


(……掃除係、だよな?)


 その日の夕方、家の居間は異様な空気に包まれていた。


 母上は鼻息荒く見合い写真を山積みにし、父上は青い顔で書簡を睨んでいる。


「すごいわ……すごすぎるわ……!」

「……まず、落ち着こう」


 落ち着いていないのは、明らかに父上も同じだった。


 父上の手元には、騎士団の作戦報告書の写し。

 その横には、なぜか――俺の通う学園名が入った資料一式。


 父上が、恐る恐る読み上げる。


「『今回の共同作戦において、第一騎士団側の現場判断は非常に的確であった』……?」


(第一騎士団? あの脳筋特化って噂の……?)


「『特に、アイリス殿の判断は――』」

 

「ちょっと待って」


 母上が、ぴしりと扇子を閉じた。


「どうして団長より先に、うちの娘の名前が出てくるのかしら?」


「……うむ。何故だろうな」


 父上が紙をめくる。


「現場判断、指示整理、全体統率、冷静な進行……。あれ? 本当にアイリスの名前が多いな」


「ふぅん、全体を動かす“参謀型”ってことね」


「いや、そうは――」


「表に出ない。指示は的確。現場は従う」

 

 母上は頷いた。

 

「影のボスね」


 母上はくるりと俺を振り返る。


「ねぇ、学園で何か聞いてない? それか、バイト先の冒険者協会で噂とか」


 俺は、断片的な記憶を繋げる。


 大柄な騎士を引き連れて歩く姉上。

 夜、支部長の部屋に呼ばれて談笑していたという話。

 学園で、先輩たちにやたら慕われている姿。


(表向きは掃除係。でも第一を動かし、第二と連携し、冒険者協会に顔が利いて……)


「……影のボス、では?」


 母上、満面の笑み。


「やっぱりそうよね!! ぴったりの言葉じゃない!!」


「使うなそんな言葉……!!」と父上が弱々しく言う。


 俺は机の上の封筒を指差した。


「それで……これ、学園でも回覧されてるんですよ。“卒業生進路先資料・騎士団幹部候補生”ってタイトルで」


『さすがアイリスお姉様――!!』


 先輩たちの黄色い声が蘇る。


「幹部候補生……?」


 母上が資料を覗き込む。


「総騎士団長のコメントまであるじゃない。第一騎士団長も太鼓判、と」


「試験的な取組みらしいな……」


「つまり」


 母上が断言する。


「王都上層が、アイリスを“将来の要職”として見てるってことね」


「待て! これは共同作戦の報告書で――」


「でも名前はアイリスばかりよ?」


「……そうだな」


 父上が低く唸る。

 俺は、恐る恐る聞いた。


「姉上って……掃除係でしたよね?」


「掃除係、ね」


 母上は見合い写真を一冊持ち上げる。


「これ、誰だと思う? 王城勤めの高官よ。魔法研究所の次席補佐官。商会の若旦那に、騎士団関係者もいるわね。全部、アイリスと縁談希望よ」


「そんな所から!?」


「当然でしょう!」

 

 母上が胸を張る。

 

「騎士団の上層部と太いパイプを持つ女性よ? 今が一番モテる時期じゃない!」


(姉上の言う、掃除係とは……)

 

 そこへ。


 コンコン。


「アイリスお嬢様がお戻りになりました」


 問題の本人、アイリスが帰宅した。



(どうして父上が騎士団の報告書を……?)


 居間に入った瞬間、視線が刺さる。


「……何か、ありましたか?」


「おかえり。座りなさい」


 母上が、にこやかに立ち上がる。

 

「聞いたわよ」


 嫌な予感しかしない。


「第一騎士団の……影のボスなんですって?」


 アイリスは、持っていた鞄を落とした。


「……はい?」(最近、この感じ多いな)


 バサッ。

 ドサッ。

 ピラッ。


「騎士団の公式文書」

「縁談の山」

「母校で回覧中の幹部候補生資料」


「これだけ揃って、違うとは言わせないわ!」


「違います!!!」


 即答する。違うはずだ。


「現場で判断を?」

「……しました」

「指示を整理?」

「……しました」

「全体を回した?」

「……結果的に」


 母上は満足そうに頷いた。


「完璧ね!」


「違います!!!」


 父上がそっと手を挙げる。


「縁談の話は……」


「今それどころじゃありません!!」


 アイリスは、チラリと学園名が入った封筒を見る。

 

(報告書も縁談も問題だけど、あの資料は何!? 写真まで……いつの間に!?)


 こうして。王都からの真面目な報告文一通は、影のボス疑惑へと進化し、家族総出の大誤解を生んだ。

 なお、この件が、後日「母校イベント」という名のさらなる大混乱へ繋がることを、この時、まだ誰も知らない。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

もし「この姉、好きだな」と思っていただけたら、

ブックマークや評価でそっと応援してもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ