第十三話:第一騎士団、まさかの改革者扱い
騎士団総本部の最上階。
初めて呼び出された総騎士団長室の前で、アイリスは固まっていた。
(え、なに? なんで? 今日もいつも通り掃除係としてモップ振る予定じゃ……)
床の光り方からして、見慣れない。隣ではゴードン団長も困惑顔で固まっている。
「ゴードン団長……何か、心当たりは?」
「え!? 怒られるのか!? いや昨日は……あれ? 俺なんかしたか!?」
「そうですか。……では入りましょうか」
二人は息を合わせ、重厚な扉を押し開いた。
◇
「失礼します」
中には総騎士団長、第二〜四騎士団長、そして各副団長まで勢揃いしていた。第一騎士団の副団長は遠征で不在だ。実は、アイリスはまだ見た事がない。
(え。なんか……偉い人が多い……!!)
「来たな、第一騎士団“幹部候補生”アイリス君」
「「……はい?」」
総騎士団長の第一声から、すでに方向性がおかしい。
「はっはっは、隠さなくてもいい。ゴードン第一騎士団長が“掃除係”という名目で学園の成績優秀者を採用し、実務を叩き込む新制度を模索している事は分かっていた」
「「……?」」
どうやら、総騎士団長様は何かを盛大に勘違いしているようだ。総騎士団長は誇らしげに語り始めた。
「新王の政策で進学できなくなった学生を救済し、騎士団としては優秀な人材を確保できる……! いや見事だ、ゴードン第一騎士団長!」
「お、おお……?」
ゴードン団長は完全に困惑している。だがよく分かっていないため否定もできず、とりあえず曖昧に笑う。
団長たちの後ろでノエル副団長は眉をひそめ、小声でつぶやく。
「なるほど、そう誤解したのか……」
しかし他の団長たちは勝手に盛り上がっていく。
「掃除係の肩書きで隠しつつ、実際は新インターン制度の試験運用!」
「雇用契約の業務内容を“清掃”の一言とする事で、裏に何でも盛り込めるようにしたのね」
「第一騎士団は脳き……んん゙っ、武闘派だと思っていたが、謀略も得意だったとは!」
(いんたーん?? そんな制度考えたの誰!?)
静かに手を挙げたのはノエルだった。
「総騎士団長。確認を。アイリス君は、普通に清掃業務をしていただけのはずです」
「ノエル副団長、建前はいい。今は本音で話そう」
(いえ今のが副団長の本音だと思います!)
そして、アイリスのこれまでの仕事内容が読み上げられる。
「一般清掃、小型魔獣駆除、書類精査、武具管理、外部との交渉、団内混乱の鎮圧……実績は十分だ」
「そ、掃除に必要だったので……」
総騎士団長は満足げに深く頷く。
「やはり“幹部候補生”は違うな。戦わずとも一般兵と同等の給金は妥当!」
(給金の件は完全にゴードン団長のやらかしだったんだけど……)
「第一の副団長からも報告があった。『アイリスは色々やっている』とな」
(第一副団長さん!? お会いした事ありました!?)
周囲が盛り上がる中、乗り遅れている者がいた。
ゴードン団長である。
「う、うむ……? 救済……? 制度……? え、俺……?」
会話が高度すぎて、耳に入っても意味が繋がっていない。そんなゴードンに、総騎士団長が深く、深く頷いて言った。
「ゴードン団長。君が若者の未来を守るために動いたこと、私は誇りに思う」
「…………っ!!?」
その瞬間。
ゴードンの表情が「困惑→驚愕→感動」の三段階を秒で通過し、最終的に納得してしまった。
(いや団長!? そこは“違います”って言わないとこっちが困る!)
そして――
「ええ、もちろん! 当然! そのつもりで採用しましたとも!!」
さっきまで「???」だった男と同一人物とは思えない堂々さ。胸を張り、顎まで上がっている。
(今考えたでしょ!? 今この一瞬で方針決めたでしょ!?)
ノエルとアイリスは同時に、冷ややかな目で団長を見た。
◇
騒ぎが少し落ち着いた頃、アイリスはそっと手を挙げた。
「あの……私、本当に……ただの掃除係なんですけど……?」
「うむ。それでいい。役割は後からついてくる」
(さっきから勝手に増えてますよ!?)
ノエルが静かに言う。
「アイリス君。誤解でも、動けば実績になる。それを利用するのも手だ」
見ると、ノエルは困惑した表情を浮かべている。だが、言葉はあくまで冷静だ。総騎士団長はノエルの言葉に頷くと、アイリス、ゴードンの順に見つめる。
「では、ゴードン第一騎士団長。幹部候補生アイリス君。今後も団の改善と育成に努めてくれたまえ!」
「私、掃除係ですっっ!!!!」
◇
「私……上層部に、めっちゃ注目されてたんだ……」
初めて、自分の立ち位置を自覚することになったアイリスは、第一騎士団へ戻る廊下をヨロヨロと歩いていた。
その横で。
「いやぁ……俺、改革者として評価されてんのか……! やっぱ俺、見る目あるんだなぁ〜〜!」
ゴードン団長は胸を張りすぎて、ほぼ反り返っていた。
(あー、だめだ。今日はこのテンションのままだ……)




