第九話:散らばる紙と散らばる指示
今日も団長室の床一面に散らばった書類を拾いながら、アイリスは思った。
(……この書類、何回拾っても床にあるな……)
以前アイリスが巻き込まれかけた第一・第二合同の調査隊は、第二騎士団の主導のもと、無事に帰還している。合同調査で第一騎士団が持ち帰ってきた“未知の大型魔獣の資料”は……
・字が揺れた現場メモ
・順番がバラバラの聞き取り
・説明ゼロの謎の草スケッチ
(資料っていうより、落とし物セット……)
そこへゴードン団長とルーカスの声が響く。
「いや〜今回の調査、大変だったよな!」
「っすよね! 俺、洞窟で三回転んだっす!」
(いや誇らしげに言うことじゃないよね!?)
「よし、次は合同会議だな! ルーカス、資料まとめといて!」
「無理っす! 俺、このあと討伐遠征ばっかで不在っす!」
「え、そうだっけ? じゃあ、誰がやるんだよ〜」
(そこも含めて、団長が指示を出すのでは……)
誰にも指示を出さないまま時間だけが過ぎていったが、夕方になって、突然声をかけられた。
「アイリス! この書類の中身、整理しといてくれない? 指示は出すから!」
(指示出すから?? 出してるの、見たことないけどな)
アイリスはルーカスを捕まえた。
「え〜無理っす無理っす!! しばらく俺、ほとんど居ないんで!」
「それ言うなら、私はそもそも掃除係ですよ!? もっと無理! ほら、指示だけ出して下さい! 作業は私が進めるので!」
「ならOKっす! 判断できないとこはメモっといて!」
「判断できないところしかありません!」
結局、資料整理は二人で手分けして進めた。
会議前々日。
「アイリス~、分からんところない?」
「(仕事してる俺! ムーブ来たな……) ここです。リストにまとめてあります」
「えっ……じゃあ……まとめといて!」
(いや、今『まとめた』って言ったんだけど?)
会議前日。
「ルーカス〜、明日の資料どうなってる?」
「え!! アイリスさんに頼んだじゃないっすか!」
「あっ……そうなの? ルーカスが取りまとめたんじゃないの?」
(団長って、記憶もどこかに散らばってるのか?)
渡された資料をパラパラとめくり
「まあでも完璧だよな! 確認しなくても大丈夫だろ!?」
(最終確認くらいしろ! 何しに部屋にいるんだよ……!)
会議当日。
会議室には、第二騎士団のノエル副団長のほか、第二騎士団の団長に、総騎士団長まで来ていた。
(ちょっと待って、これ……第一騎士団の資料で、こんな大物が揃うの……?)
掃除係のアイリスは会議室には入れない。気になるので、廊下の柱の影から、ひっそりと様子をうかがう。
第二騎士団長が整理された資料を手に取り、静かに読み上げる。
「大型魔獣が営巣を始める兆候……か。短期間でここまで分析するとは、第一騎士団は素晴らしいな」
総騎士団長も頷いた。
「討伐前の検討資料として十分だ。よくやった」
ゴードン団長は、まるで自分の手柄かのように胸を張った。
「いえいえ、当然ですよ(キリッ)」
(団長は指示も出してないし、考えてもないし!!)
さらに総騎士団長が続ける。
「ルーカス君は討伐続きで不在が多かったと聞く。どうやってまとめた?」
ゴードン団長は、涼しい顔で言い放った。
「そこは状況に応じて、私が采配を(キリッ)」
(采配ゼロだよ!!!!!)
ゴードン団長の図々しさに、もはや声も出ず、アイリスは廊下で壁に手をついていた。




