キラキラ
数日が経ちました。
塾のない日も、暇な時はチラシを配りSNSのフォロワーも増えています。
売り上げはみな子が考えているよりも大きくなりそうでした。
ですが、風船犬のしっぽはまだ色のないままでした。
みな子は、あの後もパン屋を覗きにきていた男の子のことを、少しずつですが集めていました。
生徒からだけではなく、父兄からも話を聞くうち、みな子の中で彼がどんな思いなのかわかってきました。
男の子は、鉄道の模型で遊んでいることが多いそうです。
ですが、そのせいで勉強があまり出来なかった為、塾に入り、塾のお金のために鉄道の模型が買えなくなってしまいました。
調べると彼の集めているものは本格的なもので、小学生のお小遣いではなかなか買えない値段です。
みな子は男の子だったらどうするかを考えました。
周りの子がパンを買って食べていると言って、お母さんからお金をもらう。
高いパンを買うお小遣いをもらって、一番安いパンを買って食べる。
差額をお小遣いにする、そんなことではないか。
彼なりに、何かを考えた結果なのだと思うのです。
それを、何も知らないみな子に口出しされたくないでしょう。
ただ、応援はできる。
みな子は考えました。
いつものようにパン屋で仕事しながら、思いを文字にして書き留めました。
男の子がパンを買いにきます。
みな子は出された『プチバゲット』を紙の袋に入れます。
「あ、袋いらない」
「間違えちゃった。袋ごと持って帰って」
男の子は、黙って頷き、袋ごと持って帰りました。
みな子は、そのままいつもの仕事を続けました。
家に帰り、部屋に戻ると風船犬が寄ってきました。
一番先に確認したしっぽは、色が戻っていませんでした。
みな子がパンを袋に入れて渡したのは、男の子に手紙を渡すためでした。
みな子は、これまでの思いを手紙に書きました。
尻尾の色が戻るとか、見返りを期待して男の子に手紙を書いたわけではありません。
風船犬をいつものように撫でていると、犬は尻尾を振り始めました。
ふと、その尻尾を振る様子を見ていると、振っている尻尾に男の子の姿が見えてきました。
男の子は自分の部屋に戻り、鞄からパン屋の袋を取り出しました。
部屋には、電気機関車のポスターがいくつか壁に貼ってあり、複雑なダイヤグラムもその下に張り出されていました。
鉄道模型が飾ってある棚もあります。
男の子は袋から、みな子の手紙を取り出すと、手紙を広げました。
お小遣いが貯まるといいね、という内容の文に添えて、部屋に飾ってあるポスターと同じ電気機関車が描かれていました。
『下手だな…… パンタグラフはこっちの形だし、色々間違って……』
けれど男の子はそう言いながら、笑っていました。
思いは伝わった。
みな子はそう思いました。
振っている尻尾から、男の子の姿が見えなくなると、みな子は尻尾の様子が変わっていることに気づきました。
手で押さえると、尻尾には綺麗な原色の色が戻っていました。
すると風船犬は、ふわふわと浮き上がりはじめました。
「えっ?」
『みな子、ありがとう。やりきってくれると思ってた』
風船犬が部屋の天井につくと、パッと消えてしまいました。
一瞬、風船が割れたのかと思いましたが、音はしていません。
何もない空間から、風船犬の声だけが聞こえてきます。
『さようなら』
色をなくした風船犬は、色を取り戻し、自らの世界に戻ったのです。
みな子は言葉が出ませんでしたが、目には涙が溢れていました。
「さよなら」
おばさんの腰は良くなりましたが、みな子はそのままパン屋で雇ってもらえました。
みんなにキラキラを与えられる存在になりたい。
今日もみな子は、パン屋でそんなことを考えています。
おしまい
最後まで読んでいただきありがとうございます。
お手隙でしたら、評価いただけると幸いです。




