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みな子のキラキラ  作者: ゆずさくら


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1/6

風船犬

 その日は朝からどんよりと雲がかかり、お昼になっても薄暗い日でした。

 みな子は、お腹が空いたので自分の部屋を出て一階へとおりていきました。

「お母さん、何か食べたい」

 呼んではみたものの、誰かいる様子はありません。

「お母さん?」

 みな子のお父さんは朝から仕事でいません。本当に暗くなるまで帰ってないのです。

 みな子は母の帰りを待ちましたが、おやつの時間になっても帰ってきません。

 食べ物を買うために、みな子は外に出ることにしました。

 今にも雨が降り出しそうで、雲が低くたれこめています。

 グレーのスウェット上下を着て歩いていたみな子は、後ろからきた車にぶつかりそうになります。

「ちゃんと端を歩け!」

 車の人は、わざわざ窓を開け、怒鳴ってから去っていきます。

 みな子は思い出しました。

 昔、みな子がバス停に向かって歩いていると、制服をきた女子学生が先に停留所に立っていました。

 バス停の近くで車が減速するので、不思議に思って近づいていくと、車の運転手がみんなnその制服の女子を振り返っていたのです。

 制服の女子は、みな子から見ても確かにかわいい子でした。

 それと比べて私は……

「……私は怒鳴られるのね」

 ようやくコンビニについて、食べたいものを買い終わると、みな子はもと来た道を戻っていました。

 ふと、見ると生垣(いけがき)の葉が不自然に揺れているのに気づきました。

 しばらくすると止まったので、そっとその横をすり抜けようとすると、再び動き出しました。

「えっ!?」

 ガサガサと音がしたと思ったら、何かが飛び出してきました。

「犬?」

 毛のない肌色をした犬のようなものが、みな子の足元で倒れました。

 よく見ると、それはバルーンアートで作る『犬』でした。

 ただ、カラフルなゴム風船ではなく、輪ゴムのような素っ気ない色であったため、風船だと気づかなかったのです。

 みな子はそれを無視して通り過ぎようとします。


挿絵(By みてみん)


『待って! 助けてくれないの!?』

 みな子は足を止めました。

 まさか、風船が話すわけがない。

 再び進もうとすると、また聞こえてきます。

『助けて、キミしかいないんだ』

 やっぱりこの(・・)風船犬が言っている。

 みな子はそう思いました。

 けれど、みな子はこれまでの人生の中で、風船犬を助けたことはありません。

「無理だよ。私、助けたりしたことないもの」

『お願いだ!』

 みな子は仕方なくその奇妙な風船犬を家に持って帰りました。

 部屋に入ると、風船犬は言いました。

『この部屋にキラキラはないの?』

 みな子は思いつくまま、風船犬に『キラキラ』と光るものを見せますが、犬は首を横に振るばかりです。

「……」

 みな子は疲れて寝てしまいました。

 その後、何日か風船犬も話さなくなってしまい、みな子はいつもの通り、部屋にこもる生活をしていました。

 ある日、風船犬が立ち上がるとみな子に言いました。

『キミ、もしかして何もしていないの?』

 みな子は、久々に話した風船犬を振り返ります。

「息をして、スマホしてるでしょ?」

 風船犬はまた黙ってしまいました。

 すると、突然動き出し、窓に上ると、カーテンを咥えて引っ張りました。

 暗い部屋の中に、陽の光が差し込んできます。

「何するの!」

『あそこにパン屋さんがある。キミあそこで働いて、キラキラを集めてよ』

 みな子は壁に手をつきながらよろよろと窓に近づき、犬が言った『パン屋』を見ました。

 普通の民家の一階をパン屋にしている小さな店です。

 確か、おじさんとおばさんで経営していて、店員を雇っているとは思えません。

『おばさんが、最近倒れて、人手が欲しいところだよ。言ってみればすぐに雇ってくれる』

「……やだ」

 みな子はベッドに戻って、横になりました。

 すると、風船犬は横になったみな子の顔の前に飛び下ります。

「な、何!?」

 風船犬は突然、口を開いたのです。

 ゴム風船が破裂した、というわけではありません。

 みな子はその口を覗き込むと、風船とは思えない、リアルな牙を見つけました。

 先端に触っただけでもケガしそうな歯です。

 これに『噛みつかれる!』そう思うと、みな子は震えました。

『これが…… 見えるか? この邪悪な牙が…… 経過する時間の中で全身に広がっていく。最後、僕がどうなるのか、そして君がどうなるのか』

「……簡単に言って?」

『キラキラがないと、僕が悪魔の手先になってキミを食ってしまうというこだ。サイズが違って食べきれなくとも、死ぬぐらいまで切り刻んでしまうだろう。つまり、今のまま、何もしないでいると、キミは助からない』

 みな子は混乱しています。

 助けてくれと言ったり、助からないと言ったり。

 ついには、自らが助かるために、この犬を助けなければならなくなっていたからです。

「……」

 みな子は、立ち上がりました。

 そしてさっきと同じグレーのスウェット上下のまま家を出ると、パン屋に入りました。

 外が暗いのに、店は明かりをつけていません。

 窓から入る、わずかな光で店内が見えている状況です。

 そして店に誰がが入ってきたのに、何の反応もありませんでした。

 みな子は呼びかけます。

「こんにちは……」

 パンがのっているであろうトレイは、パンくずが散らばっているばかりで、買えるパンは数えるほどでした。

 そもそもパン屋が『はやって』なければ、人を雇うこともできない。

 みな子は、そう思って帰ろうとしました。

「お嬢さん、パンを買いに来たの?」

 奥から声が聞こえてきました。

 やさしい女性の声でした。

 みな子は声のする方に進み、言葉を返します。

「いえ、店員になりたいんです」

「店員に!?」

「おばさんが倒れたと聞いたから……」

 みな子は、ガタガタと物が崩れたような音を聞きました。

 思い切って店の奥の扉を開けました。

「おばさん!?」

 みな子は床に手をついて、うつ伏せに倒れているおばさんを見つけました。

 おばさんに手を貸して、体を引き起こしました。

 おばさんの息が整うと、話し始めます。

「ありがとうね。私が倒れたことはまだ誰も知らないと思っていたから、びっくりしてしまって」

「驚かせてすみません」

「いいのよ、それより、お店で働いてくれるって本当?」

 みな子は頷きました。

「そんなにお給料出せないけどいい?」

 みな子はどうせならいっぱい欲しかったのですが、風船犬のことが頭に浮かびました。

「大丈夫です」

「よかったわ。じゃあ、早速明日から来てもらえるかしら?」

 みな子はうなずきました。

 細かい時間のことや、服装のことを聞きました。

 最後に連絡先を交換すると、みな子は家に帰りました。




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