第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第四十五節
親しい相手ほどそれほど多くのことを知らない
無関心な相手ほどより多くに気づいてしまう
廻兎のスマホを凝視したまま真凛は固まった
表示された記事を何度も読み返した
楠杏奈といえば真凛も含め日本で知らない人はいない程の大女優だ
二十年以上前に日本を離れて中国での女優業を中心としているが映画やドラマで見ないことはないほどの人気ぶりだった
そしてメイリンはそんな彼女とどこか似た雰囲気を纏っていて…
「まさか…ね」
「そのまさかだと思うけどなー 楠杏奈って中国の大企業の社長と結婚してるって話だし、ユゥさんと五月って子どうみても同一人物でしょ?」
覗き込むような姿勢でスマホを見ながら廻兎は言った
「でも、だからってユゥさんと蚊帳ノさんのこと探すのやめるわけじゃないだろ?」
「当然でしょ! アイツのことは別にどうだっていいけど蓬だけは見つけないと」
メイリンの正体を知って消失しかけた意気を廻兎の言葉で持ち直したのは癪だけどとにかく蓬を見つけるという目的に変わりはなかった
「でも、いったいどこに行ったんだろう…」
再び二人の行先を推理するけど答えは見つからないままだった
別で行動してる綾乃と龍弥も辺りはくまなく探したらしいし立ち寄れるお店も限られてる
一人で頭を抱えていると廻兎は言った
「近くのコンビニにリムジンが停まってたってクラスLINEで話題になってるな… もしかすると二人ともこれに乗ったのかも…」
「それほんと!?」
「ああ 遠目からだけどユゥさんが乗っのを見たって言ってるやつもいるしたぶん間違いない」
思いがけず二人の手がかりが見つかってほっとした
けど新たな問題に気が付いた
「でもさ リムジンなんてどうやって追いかけるの?」
当然ながら高校生になったばかりの真凛たちは車どころかバイクにだって乗れない
それにタクシーを使って追おうにもすでにコンビニを出たあとなら追跡できなかった
「それについては大丈夫」
そう言って廻兎はスマホを操作しだした
「こんなド田舎でリムジンが走るなんて滅多にないからな せいぜい霊柩車ぐらいだろうけど話題になってるリムジンはもう少し派手らしいからより目立つ…」
こちらに話しかけているのかそれとも独り言なのか分からないけど廻兎はぶつぶつとそう言いながらスマホを操作する手は止めなかった
「これでヨシ」
「なにしたの?」
したり顔の廻兎に問いかけるとまるでイタズラを思いついた子供みたいに言った
「俺のSNSで投稿したんだよあのリムジンの写真を #幸運を運ぶリムジンってな」
「はあ!?」
呆れた、というか少しでも期待した自分に呆れた
子供みたいな発想というかなんというか…
幸運を運ぶリムジンなんて投稿したところで明確な理由もなしに誰がそれを信じるのか
そもそもそんな情報自体、短時間で拡散するはずもない
だから廻兎の作戦は失敗に終わるはずで…
「俺のSNSでのフォロワー数、知ってる?」
「あー はいはい どうせ百人ぐらいでしょ?」
「三万」
「は?」
何かの聞き間違いかと思った
だって廻兎のSNSのフォロワー数が三万なんてはずあるわけが…
「ほら これ」
そう言って再び顔の前に突き出されたスマホにはSNSのプロフィール画面が写っていた
そこにはDendrobium と書かれていた
「デン…」
「デンドロビウムな」
「デンドロ… ん? え… デンドロビウム!?」
本日何度目かの自分の耳を疑う出来事だった
デンドロビウムといえば某ロボットアニメのコスプレでここ最近、人気が出てきたコスプレイヤーだ
かくいう真凛も中学の頃、そのアニメに登場するキャラにガチ恋したことがあるほどで…
なによりも
「男だったの!?」
デンドロビウムのコスプレは大抵が美形の女性キャラ…だからこそ目の前にいるこの男が本人とは到底思えなかった
「まあな… 色々あってやってんだよ まあ今はそんなことより…」
あまりの衝撃で大きくそれた話題を廻兎がもとに戻す
「俺の知り合いのレイヤーさんにも頼んでこのリムジンの写真を投稿すると幸運が訪れる…って設定にしてもらってる たぶん似たようなリムジンの写真も上がるだろうけど特定班やってるフォロワーもいるし地元だから場所の特定は時間かからないはずだ」
廻兎はバンドのグループLINEにSNSのURLを添付した
「これで情報は逐一共有される 蚊帳ノさんはパスポート持ってないだろうから日本から出ないのは確実 最悪、県外に出られても知り合いに頼めば東京辺りまでならすぐに行けるしそもそもそこまで遠くには行かないはずだ」
真凛は廻兎の説明に半分ぐらいしか理解できなかった
一言でいえばスケールが違った
例えるなら子供のかくれんぼに大人が本気で技術介入してきたみたいな
今までやってきたことが全部、おままごとみたいに感じる作戦だった
「廻兎って… 敵に回すと厄介なタイプ?」
「ん? まあそうかもな」
表情を変えずにそう言われると余計怖い
「てかなんでそんな手際がいいの? 前にもやったことあるとか?」
「まあね コスプレ始めた時… やらされることになった時に似たようなことがあったんだよ その時は立場が逆だったけど」
「なにそれ…」
いまいちピンとこない回答だったけどなにやら集中してるみたいだからそれ以上は聞かなかった
「とりま例のリムジンは結構遠くまで行ってるらしい」
「遠くってまさか県外に!?」
「いや、高速からすぐ降りたらしいからそれはないな」
廻兎はいたって冷静に話した
「俺たちも移動しよう このままここに居ても追いつけないし」
「移動って… どうすんの?」
真凛の問いかけに廻兎は道路のほうを指さした そこには…
「和田楽器店…?」
そう描かれた一台のワゴン車が停まっている
「バ先の店長の車、今日は店休日だったから手伝ってくれるってさ」
「え!?」
「じゃあ行くか!」
そう言って廻兎は真凛の手をとり件の車の方へ歩き出した




