第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第四十二節
悪夢の先で君を待つ
蚊帳ノ蓬は生まれながらにしてのコミュ障陰キャぼっちだ
それは紛れもない事実でありこれから変わることもないだろう
しかし本人も覚えていないだけで、あるいはそう思い込んでいるだけで蚊帳ノにも少しだけ積極的に能動的にそして今よりも生き生きとしていた時期があった
小学三年生の五月、その日私はある女の子と出会った
ゴールデンウイークも終りに差し掛かった日、私は家のすぐそばにある神社で遊んでいた
神社といっても小さな御社があるだけの古びた空地
弟が体調を崩して入院してお母さんが付き添いで家に居なくてたぶんその寂しさを埋めようとしてたんだと思う
「やっぱりつまらないな…」
誰もいないひとりぼっちの神社は弟と遊んでる時よりも広すぎて
寂しさを紛らわせるつもりが余計に増すばかりだった
もういいやと家に帰ろうとしたときだ
「…っ …っ 这是那人?」
「だれかいるの?」
小さな御社の中から誰かの声が聞こえて私は恐る恐るその扉を開いた
いつも掛けられてる南京錠はなぜか外されていて少しだけ開いていた扉は子供の私にでも簡単に開けることができた
薄暗い空間には私と同じくらいの年頃の女の子が蹲っている
「……だ、れ?」
怯えた声で少女は言う
私は怖がらせないようにゆっくり近づいて
「私は蓬 蚊帳ノ蓬だよ」
「よ も ぎ?」
「そう 蓬、あなたのお名前は?」
少女は驚いたように困ったように戸惑いながら言った
「なまえ… メイリン…」
「メイリン?」
「はい…」
「メイリン… メイリンちゃん… すごい! お姫様みたい!」
少女の名前はそれまで自分や自分の周りの人とは違う聞きなれない名前だった
けれど子供心にその響きがとても美しく感じて
咄嗟に出た本心からの言葉だった
その言葉に少女…メイリンちゃんは更に戸惑いの色を濃くして言った
「私が… 公主?」
「えっと…」
聞きなれないというか上手く聞き取れなかった言葉に困惑したけどメイリンちゃんはまたしても俯いてしまった
「あ、ごめんね 私、上手く聞き取れなくて」
「よもぎ…さんのせいデハ… ソノ 私の名… ぷりんせす?」
「えっと そう メイリンちゃんの名前がかわいいねって言いたかったの!」
それまで俯いていたメイリンちゃんはどこか恥ずかしそうに笑った
そして
「私の名、そんな風に言ってくれたノ、あなたがはじめて」
「メイリンちゃんはどうしてこんなところにいたの?」
こんな田舎のそれもほとんど使われてない神社の御社にどうしていたのか近くにお家の人がいるのか、それとも迷子なのか気になった
もし迷子なら一緒にお家の人を探さないとなんて思ったんだと思う
「その… わからない…」
「迷子ってこと?」
「…私、爸爸とにほん来てて そしたら陌生人、ここにおいてきマシタ」
所々聞き取れない言葉が混ざっている
メイリンちゃんはぱっと見だと自分と同じ日本人に見えるけどもしかしたら外国からきたのかもしれないと思った
でも外国の言葉なんてよくわからないしこのままだとメイリンちゃんと上手くコミュニケーションが取れないと思った
「うーん あ、そうだ!」
上手くコミュニケーションが取りずらい彼女とお話する方法…
それを思いついた私は鞄からスケッチブックを取り出した
「これに絵をかいてくれないかな?」
「?」
「そのー メイリンちゃんが誰とここに来たのか」
メイリンちゃんは私からスケッチブックとペンを受け取って黙々とかき始めた
大体五分ぐらいしたらメイリンちゃんは
「かけマシタ…」
そう言って私に絵を見せてくれた
受け取ったその絵にはメイリンちゃんそっくりなかわいらしい女の子の絵が描かれている
そしてその女の子と手を繋いだもう一人の人物は
顔が真っ黒に塗りつぶされていた




