第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第四十節
等価交換=記憶の対価≠呪いの代償
人生初のリムジンは行先の分からないリムジンでした…
そんなB級ホラー小説のタイトルみたいな現象が今、現実として起こっていた
私とメイリンちゃんを乗せたリムジンは静かに進んでいく
不気味なぐらいに静かな走行音とほとんど揺れを感じない乗り心地はあまりに現実離れしていた
「あの… メイリンちゃん」
「なんですか?」
「メイリンちゃんのお家って…」
「少し遠いデス あと三十分ぐらいデショウか?」
聞きたいことが頭の中で渋滞して言葉に詰まっているとメイリンちゃんはそう答えた
ここから三十分…
たしかに少し遠いけど県外とか東京とか言われなかっただけ安心した
メイリンちゃん家がいわゆるお金持ちなのはここまでの流れで分かったけどだからこそ感覚の違いは怖かった
こんなアニメでしかありえないような展開が現実であるなんて…
いったいどうしてこうなったんだろう…
そんな風に考え込んでるとメイリンちゃんは
「蓬? なにか飲みマスか?」
「あ、えと…」
「蓬はお茶デシタね」
そう言って手渡してくれたコップにはリムジンには似つかわしくない飲み物…
ウーロン茶が注がれていた
「あ、ありがとう…ごさいます」
私がコップを受け取ると向かい合うように座っていたメイリンちゃんの手には金色に透き通った炭酸飲料が注がれている
「蓬もジンジャーエールがよかったですか?」
「あ、ううん そうじゃなくて そうじゃないんだけどね…」
メイリンちゃんが私に渡してくれた飲み物が私の好みに合っていたから
それに…
「蓬は炭酸が苦手だと思いましたがもしかして飲めるようになったんですカ!?」
私が炭酸飲料が苦手なことまで知っていたことそれが私が困惑した理由だった
「あ、いや 炭酸飲料は苦手…かな」
まともに合わせられない視線を更に落として私は呟いた
「そうなんですね あ、お茶の種類も昔と変わってマセンか? 紅茶とかコーヒーが好きになったとか…」
「あ あのね、メイリンちゃん!」
落としていた視線をなんとか持ち上げて彼女に視線を合わせる
それから今日一日、抱いていた疑問を口にした
「私たちってやっぱり昔、どこかで会ったのかな?」
恐る恐る彼女のほうを見るとメイリンちゃんはきょとんとした顔だ
「メイリンと蓬はずっと前に会ってますヨ 今日、一日ずっとそう言ってきましたガ蓬が覚えてなくてもその事実に間違いはアリません」
「そう…なんだ じゃあ、私たちがいつどこで会ったのか教えてくれる?」
一方的に思い出を忘れてるなんて最低だけどこのままうやむやにするほうがもっと悪いと思った
だから勇気を出して聞くことにしたんだけど…
「心苦しいですがそれはできません」
「…あ、えと… それは…」
「メイリンが話して蓬が思い出してくれるのは簡単です ですが… メイリンは蓬に自分から思い出して欲しいんです」
メイリンちゃんの視線はそれまでと違って真剣だった
「でも… このままだとメイリンちゃんが辛いんじゃ…」
「それでも メイリンは蓬から思い出して欲しいんです」
「どうして…」
かたくなに引こうとしないメイリンちゃんにその理由を聞こうとすると彼女はにっこりと微笑むと
「メイリンのわがままですヨ}
「…わかった じゃあ私も思い出せるように頑張るね」
そんな話をしている間にも私たちを乗せたリムジンは進んで行く
「あ、あのさ もう一時間ぐらい走ってない?」
「そうですか?」
スマホで時間を確認するとたしかに一時間ぐらい経ってた
私の不安が募っていくと唐突にリムジンは停車する
そしてドアがゆっくりと開いて坂本さんが告げる
「大変お待たせ致しました 目的地に到着致しました」
私は坂本さんに一礼してリムジンを降りた
そして目の前に広がっていたのは・・・
日の光が沈みかけた街並みに辺りには仕事帰りのサラリーマン風の人が歩いている
周りに見えるのは見慣れないビルの数々
ちらほらと灯が点き始めた居酒屋とバー いわゆる繁華街が遠目に映る
そして私のすぐ目の前にそびえたつのは
周りのビルのどれよりも高い高級ホテルだった
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」




