第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第三十六節
あの子とずっと一緒に生きたい
その願いが叶うならなんだってする
「で なんでアンタがいるの?」
不服そうな真凛が見つめるのは私の隣に経っているメイリンちゃんだった
なぜか彼女は私の腕に身を寄せて離そうとしなかった
「なぜってメイリンも蓬の部活に入るためデス」
「ここがなに部なのか分かってるの?」
「ワカリマセン!」
自信たっぷりに言い切った
胸をはって誇らしそうにしてるけど大丈夫なんだろうか…
だって私と同じ部活に入るにしてもここは…
「言っとくけどここは音楽部で蓬はアタシたちとバンドを組んでるの! 悪いけどアンタが入れる余地はないから」
「バンド!? さすが蓬! バンドに入るなんてカッコいいです!」
真凛の言葉は届いていないらしい
それどころか私への距離(物理)が近づいてきて心拍数が上昇する
「蓬の演奏、見てみタイです!」
「あ、うん… でも始めたばかりだからそこまで上手くないというか…」
腕を掴んだままぴょんぴょんと跳ねられるせいで彼女の柔らかいもの(ご想像にお任せします)が当たって更に心拍数が上昇する
このままだとほんとにおかしくなりそうだった
「いい加減離れなさいよ」
「哎哟!」
真凛の手刀が頭にあたってメイリンちゃんは蹲った
「你要做什么!?」
「いや中国語で言われてもわかんないんだけど」
「何するんですか!?」
さっき言った言葉を自分で翻訳してくれたんだけど
どうしてだろうメイリンちゃんが言う前になんとなく意味が分かった気がしたのは…
それにさっきからこの感じ… どこかで聞き覚えがある…気がする
私たちがそんなやり取りをしていたら音楽室の扉が開いて綾乃が入ってきた
「あれ? メイリンちゃん?」
「あ、綾乃! 綾乃もバンドしてたんデスか?」
「あ、うん そうだよ メイリンちゃんは見学?」
綾乃はメイリンちゃんが来たこともすんなりと受け入れたみたいだった
あともうすでに二人の仲は良いらしい
さすが陽キャ…
「やっぱり蓬ちゃんが入ってる部活が気になったの?」
真凛の問いかけはストレートに的を射ていた
「そうなんです メイリンも蓬と同じ部活がしたいです!」
メイリンちゃんの答えに綾乃は複雑そうな顔をしていた
それもそのはず
真凛の言い方ははっきり言い過ぎてたけどメイリンちゃんが音楽部に入っても同じバンドに入れないのは事実だった
それが分かってるけどメイリンちゃんを仲間外れにするみたいではっきりとは言えなかった…
綾乃が言葉に詰まって私も上手く言い出せないでいると真凛が言った
「だからさっきも言ったけどアタシたちバンド組んでるからアンタは入れないんだって」
「そんな…」
改めて状況を理解したメイリンちゃんはしょんぼりと落ち込んだ様子だ
するとメイリンちゃんはパッと閃いたみたいに言いだした
「じゃあ蓬がメイリンともひとつバンドをつくればいいのデハ?」
「え!?」
突拍子もない提案にメイリンちゃんを凝視する
けど本人は私、天才!とでも言いたげに胸を張っている(大きい…)
「ちょっと待ってよ! どうしてそうなるの!?」
「だってそれがイチバン平和的解決策だからです!」
すかさず異議を唱えた真凛にメイリンちゃんは真顔で反論した
本人があまりに本気だから真凛のほうが怯んでる状況だ
「メイリンちゃんはそんなに蓬ちゃんとバンドがしたいの?」
真凛をフォローするみたいに綾乃が口を挟んだ
「はい! メイリンはいつでも蓬といたいです!」
「そうなんだ… でも蓬ちゃんもバンドの掛け持ちは大変だろうし…」
メイリンちゃんのまっすぐな意思に綾乃すら言葉に詰まっていた
するとそこに思わぬ増援… 天城くんと大倉くんがやってきた
「あれ ユゥさんじゃんどうしたの? 見学?」
メイリンちゃんがいることに気が付いた天城くんが声をかける
「あ、廻兎! ちょうどいいところに!」
天城くんを教室の隅に連れ込んで真凛が何か話ている
大倉くんはというと面倒事に関わりたくないのか荷物を置いてベースのチューニングを始めた
「あ、えっと 真凛から状況は聞いたけどなんか修羅場?だね…」
戻ってきた天城くんは苦笑いしつつぼそっと呟いた
「そうなんだよね… メイリンちゃんには申し訳ないけど音楽部に入ってくれても蓬ちゃんと同じバンドになるのは厳しいし、蓬ちゃんが他のバンドと兼任するのも現実的ではないよね…」
「そうだな まあ六人でやっても悪くないけど真凛はユゥさんと仲良くできなそうだし…
どうしたものか…」
「……」
二人の会話に混ざりながらも改めて八方ふさがりな状況に頭が痛くなる
真凛とメイリンちゃんは相変わらずどちらも引かない言い争いを継続中…
いわゆる千日手というやつだった…
私たちが頭を抱えていると
「おい中国人… 練習の邪魔だ出ていけ」
それまで黙っていた大倉くんが口を開いた
ベースのチューニングが終わったらしい大倉くんは心底不満げな表情だ
「中国人だけど中国人ジャありません! メイリンにはメイリンって名前があります!」
乱暴な物言いの大倉くんにメイリンちゃんは怯まなかった(強い…)
「なら転校生、ここにはお前の居場所はない 部活に入るのは自由だがやるならほかのやつとバンドを組むんだな」
「だからメイリンは蓬とバンドがしたいんです! 蓬が他のバンドにいるならもう一つバンドを作ればいいじゃないデスか!?」
私なら泣いて逃げ出してそうな大倉くんの圧にも怯まずメイリンちゃんは反論を続けた
でもバンド内最恐のコミュ力を持つ大倉くんはこの程度では倒れなかった
「お前は蚊帳ノと一緒に居たいだけだろ そんなことにバンドを利用するな」
「利用なんてしてマセン! メイリンはほんとに…」
「本気でバンドがしたいなら蚊帳ノの有無は関係ないはずだ そもそも蚊帳ノがバンドを掛け持ちする? 笑わせるな、つい最近まで初心者以下のド素人だった蚊帳ノにそんな器用なマネができるわけないだろ どう考えても両方のバンドがダメになるだけだ」
あまりにもストレートな物言い… というか正論だった
ていうか事実だけど間接的に(というよりほとんどダイレクトで)私のことまでディスられて泣きそうになる…
「蓬は凄いんです! アナタ達ともメイリンともバンドすることだって…」
「蚊帳ノがすごい、その根拠は何処にある? 具体的にどう凄いんだ?」
「それは…」
「お前の主観、お前から見た蚊帳ノ蓬という人間の一評価に過ぎないだろ? そんなもので俺たちのバンドがどうなるかを賭けられるわけないだろ」
あ、ヤバいほんとに泣くよ!?
さっきからパワハラ上司なみに詰めてくるけどほとんどダイレクトに私にまでダメージ入ってるからね!?
なんて私の心の声が届くわけもなく大倉くんの口撃は止まらない
「大体、蚊帳ノと付き合うだか結婚するだか知らないがそんなの俺たちには関係ない そっちのくだらないいざこざにバンドまで巻き込むな」
「くだらなくありません! メイリンにとってハすごく大事なことで…」
「ならなんで蚊帳ノはすぐに返事を出さないんだ? 蚊帳ノにとってお前はその程度ってことじゃないのか?」
「……ッ」
さすがに怒りの頂点に達したメイリンちゃんはついに大倉くんに手を…
あげようとしてその手を止めた
そして
「蓬は… ほんとに凄いんです… メイリンンにとって… ヒーローで… 魔法使いで… それなのにアナタは… 何も… 分かってマセン!」
メイリンちゃんは泣いていた
その宝石なような瞳に、綺麗な瞼に雨粒のような涙を浮かべていた…
「メイリンは蓬に会いに… 蓬と一緒にいるために日本に来たのに… こんなゴクドーの人に邪魔されるなんて…」
そして
「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―――――――――――――――ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん」
つに感情が決壊した彼女は大声で泣きながら音楽室を飛びだして行ってしまった
「メイリンちゃん!」
自自分でもどうしてか分からない
けどまるで小さな子どもみたいに泣き出した彼女を放っておけなくて
ちがう
もっときっと別の理由から走りだしていた
その理由に気づかぬまま私は…
彼女とともに夕焼けの沈む外の世界に消えて行った
・・・・・・・・あの日と同じように




