第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第三十五節
なにもせず手に入らないこととなにかをして失うことにどれほどの差があるのだろうか?
「それで話とはなんデスか?」
放課後の体育館倉庫裏に私と真凛、ユゥさんの三人が集まった
「あ、えと ユゥさんに話しておきたいことがあって…」
「もしかして思い出したんですカ!?」
「あ、えと…」
小さな子どもみたいに目を輝かせてるユゥさんを見て罪悪感に襲われる
けど躊躇した私を見た真凛はすぐに次の言葉を口にした
「違うから 蓬が言いたいのはアタシと蓬が付き合ってるってこと」
「……你说什么?」
よく聞き取れないというか聞き取れたとしてもたぶん中国語だから分からなかった
「な、な、なんなんですか!? 蓬とアナタが付き合ってる!?」
「そう だからアンタが入る隙間はないの」
私が覚えていないって言った時の百倍は驚いた様子の彼女に真凛は言い放った
「そんな…… 本当なんですか!? 蓬!」
「あ、うん… (ほんとは嘘だけど) 本当だよ…」
ユゥさんへの罪悪感からまともに顔も見れない(いつもそうだけど)まま俯いて言った
その言葉を聞いたユゥさんは私と真凛を交互に見比べている
そして
「ありえまセン! なんで蓬がアナタのような人と付き合うんですカ!?」
「そりゃ蓬がアタシのことが好きだからに決まってるでしょ?」
「そんな… だってアナタよりメイリンのほうがカワイイです!」
すごい自信だな…と思いつつもたしかにユゥさんはかわいいと思う
真凛と比べて優劣はつけれないけど私と比べたら全然かわいいし美人だ
「はぁ!? アンタガアタシよりもかわいいとかないから たとえそうだとしても蓬の中じゃアタシが一番なんだからね!」
「そんなはずアリません! メイリンのほうが蓬の好みです 前にもメイリンが世界一かわいいって蓬言ってくれマシタ!」
なんか小さい頃の私、とんでもないこと言ってない!?
流れ弾的なカミングアウトに恥ずかしくなってくる…
「でもそれだって蓬に忘れられてるんじゃん! ならノーカンでしょ ノーカン」
「だったらアナタは蓬に言われたことあるんですか!?」
「もちろん! 毎日言われてるし! それこそおはようとおやすみとセットで言われてるんだから!」
いやそれはないよ!?
たしかに真凛のことをかわいいとは思ってるけど面と向かって言えないし…
もし本当に付き合っていたとしてもさすがにそれはムリ…
記憶にないけどたぶん事実であろうユゥさんの記憶と間違いなくでっち上げの真凛の記憶がぶつかり合って言い争いはヒートアップしていく…
なんかもう色々収集がつかなくなってる気がする
「分かりました! さっきから蓬が元気ないノはアナタに無理やり付き合わされてるカラですね!」
「そんなわけないでしょ 朝からアンタに絡まれたせいで蓬は疲れてんの!」
そもそも私が原因だから二人のケンカを止めなくちゃと思っても入るすきがなかった
むしろ私が仲裁したら更に悪化する気すらした もう滅茶苦茶だ…
「蚊帳ノ どうしたんだ?」
通りがかった大倉くんに声をかけられた
「大倉くん!? あ、そのこれは…」
なんて言ったらいいか分からない…
どう考えても修羅場でしかないこの状況を私の語彙力で説明するのはムリだった
「だから、アタシが蓬の彼女だって言ってるでしょ!」
真凛の声が響く そして
「お前ら… 付き合ってたのか?」
目を丸くした大倉くんから出た言葉はさっきまで熱くなっていた空気を一気に冷やした
「ほんとにごめんなさい」
私は地面に額がつく勢いでユゥさんに謝罪していた
「そんな 蓬が謝ることナイです メイリンが強引に迫ったことがそもそもの原因です」
「でも…」
たとえそうだったとしても私がうまく断れないことを言い訳にして嘘を吐いたことには変わらなかった だから
「それでも ほんとにごめんなさい ユゥさんには私が昔のこと忘れててもちゃんと向きあぅてくれたたのに…」
「も、もう分かりましたカラ それ以上、謝られるとメイリンがおかしくなりマス」
地面に正座した私に視線を合わせた彼女はでもと続けて
「そんなことよりメイリンのこと名前で呼んでくれないことのほうがショックです」
「あ、えと… メイリンさん?」
「さんはいらないデス」
「じゃあ、メイリンちゃん?」
どう呼んだらいいのか分からないけど呼び捨てにするのはまだ抵抗があった
彼女… メイリンちゃんは頬を膨らませながら
「メイリン だけでイイんですよ」
「メイリン… ちゃん」
「むー まあまだ再開したばかりなのでソレでいいです」
まだ不満そうにしているけどなんとか許してもらえたらしい
それからメイリンちゃんは真凛のほうを向いて言った
「それより嘘でも蓬と恋人になるなんて…… ほんとになんなんですカ!?」
再び碇の矛先が真凛に向いた
「あ、その 真凛は私に協力してくれただけだから悪くないんだよ 悪いのはほんとに私だけで…」
「じゃあ蓬がこの人に恋人のフリをするように頼んだのですか?」
「あ、えと それは…」
たしかに私は恋人のフリをしてほしいと真凛に頼んだ
でもその作戦を提案してくれたのは真凛のほうで…
真凛を守るためなら私が真凛を巻き込んで全て私が計画したことだと言うべきだろう
実際、それが一番丸く収まる気がする
けれどさっきまでメイリンちゃんに嘘を吐いていた罪悪感と後悔がそれを口にするのを邪魔した
「アタシが蓬に提案した」
真凛はメイリンちゃんのほうを見てはっきりとそう言った
「っ… どうしてですか?」
「アンタが強引で蓬が困ってたからだけど?」
今まで聞いたことがないぐらい冷たい真凛の声が聞こえた
思わず固まってしまった私とは対照的にメイリンちゃんはすかさず反論した
「たしかにメイリンのやり方は少々、強引デシタ でもアナタはどうして蓬をそそのかしたりしたのですか?」
「唆すってべつにアタシは…」
「そこまでしてメイリンの邪魔をする理由はナンですか!?」
納得できないメイリンちゃんは止まらなかった
対して真凛は黙ったままつぎの言葉が出ないようだった
なんかますます状況が悪化してるような気がする…
二人のやり取りに内心、泣きそうになっていた私に大倉くんは
「まあどうでもいいが練習時間だから先に行く」
そう言って音楽室に向ってしまった
「あ、ちょっと…」
自分が元凶なのにどうしてもこの場にいたたまれなくなった私は助けを求めようとするも大倉くんの姿はもうなった…
「てかこんな時間じゃん 蓬、部活いこ!」
真凛が私の手を取って歩き出した
それを見たメイリンちゃんは
「無視しないでくだサイ! まだ話は…」
「悪いけど他のみんなを待たせるわけにはいかないから」
何か言いたげな彼女の言葉を遮った真凛は私の手を離さないまま進んで行った




