第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第三十節
無力とは罪なのだろうか?
だとしたら俺は…
「やっぱり戻ってきた」
私が音楽室に入ると天城くんはそう言った
まるで私がここに戻ることを分かってたみたいに…
「あ、えと…」
「ああ 蚊帳ノさんなら俺が一人で後片付けして帰るって言ったらあや、朝霧さんにでも適当な理由で戻って来るかなって思っただけだよ」
すごい…
本当に私の考えが全部読まれてるみたいな感覚だ
ここまで手のひらの上名のはちょっと怖いけど…
「じゃあ 練習をやめるか私に聞いたのも…」
「それについてはごめん ちょっと利用させてもらった 蚊帳ノさんも練習はやめたほうがいいって顔してたからさ でも朝霧さんも龍弥に言いたいことあるみたいだったじゃん? あのまま続けたらまた喧嘩になりそうだったからバンドリーダーの決定事項って名目を得るために蚊帳ノさんに委ねたってわけ」
顔の前で手を合わせて申し訳なさそうに謝っているけどそんなことはなかった
むしろ天城くんが私に振ってくれたおかげで喧嘩は回避できたようなものだし…
「ううん むしろ助かったよ でも…どうして私を待っていたの?」
ここに来る途中まで音楽室にはもう誰もいないと思っていた
天城くんは単に口論が起こらないようにしただけ…
それなら私が来るかどうか待ってる必要なんてないはずだ
でも彼が私を待ってた理由は…
「真凛のことについてさ… 昨日のライブからなんか様子がおかしかったから気になってさ 蚊帳ノさんはなんか知ってるみたいだったから」
「あ、えと…」
予想はしてたけどやっぱりそのことか…
同じバンドメンバーだし天城くんが気にかけるのは当然のこと…
でも真凛のことを、彼女の家族のことを勝手に話すのは違う気がした…
そもそも大倉くんを疑うわけじゃないけどあの情報がどこまで正しいか分からない
それに本人から直接聞いた話じゃないし…
私がどこまで話していいかなやんでいると大倉くんは言った
「ああ、ごめん 無理に話さなくて大丈夫 俺もそこまで深入りする気はないから」
「あ、えと… ごめん」
真凛のことが心配な気持ちも分かるから何も話せないのは罪悪感を感じる…
でも天城くんはそんなこと気にしないみたいに優しくそう言ってくれた
「龍弥のやつもあれで心配してるみたいだったしさ…」
「それは…私も そう思った…」
あの時、真凛に賭けた言葉はたしかに言い過ぎな気もしたけど
でも… 真凛が心配な気持ちはなんとなく感じた
「昔から言葉足らずなんだよ… それに言葉で人を傷つけたことがあるから余計、消極的になってる」
「それって、前にいたバンドとか?」
「いや それよりずっと前だよ」
大倉くんが人との対話に消極的な理由、てっきりバンドのことがかと思ったけどそうじゃなかったんだ…
「それでもあいつなりに変わろうとしてはいるんだよな… 昨日のライブの時もそうだったけどさ」
「天城くんから見てもそう思うんだ…」
大倉くんが誰かに寄り添おうとしてることを天城くんも分かってくれてる見たいで少し嬉しく思う
真凛にはまだムリでも綾乃にもそれが伝わってくれるといいんだけど…
「とりあえず今は真凛のことが心配なんだよな…」
「うん…」
それからしばらく沈黙が流れる
天城くんは黙っているというよりも何か考えてるみたいだった
「真凛の様子がおかしい理由… 蚊帳ノさんは知ってるんだよね?」
「あ、うん…」
誰かに話せる内容じゃないけど私がそれを知ってるのは事実だ
「蚊帳ノさんはどう思う?あのまま真凛を放っておいても自然とよくなるかそれとも…」
「たぶん このままだと真凛はバンドが… ピアノができなくなると思う…」
「…そうか」
天城くんは静かに頷いた
その表情はどこか悲しそうで そして
「結局、俺じゃなにもできないのか…」
「そんなことは…」
ないってその一言が言えなかった
天城くんだけじゃない私にも大倉くんにも綾乃にだってどうすることもできないんだ
不用意に踏み込んだら壊れてしまうようなそんな状態…
身近な人の死…
それも自殺を受けてどう乗り越えるかなんて誰にも分かるはずがなかった
それができるのは同じ境遇になった人だけ…
「まあ俺らが悩んでてもしょうがない 真凛が練習に来たら今まで通りにするだけだね」
「…うん そうだね」
なにもできないことに悩んでる私と違って今できることを考られる天城くんはすごい
でもそんな天城くんと比べて私は…
結局、心の中に立ち込めた霧は晴れないままだった




