第三章 コミュ症陰キャぼっちでもライブはできますか? 第二十八節
その陰は音もなく忍びよる…
灯す炎は弔いかあるいは…
ライブから一夜明けて翌日、学校に向う道のりは憂鬱だった
打ち上げの帰り道に大倉くんから聞いた真凛の話が頭から離れなくてまともに寝れてない
頭の片隅に頭痛があって身体全体が重かった
駅では真凛とは会っていない
今日は少し早く登校するから一緒には行けないとメッセージが着ていた
私は真凛になにができるのか? そればかり考えてしまう
大倉くんに頼るという選択肢も今の私にはあったけどでもどこかで彼に頼るのを躊躇ってしまう…
でもそれは大倉くんだからじゃない
綾乃にも天城君にも先輩たちにだって頼れなかった
私が余計なことをしたせいで更に真凛が傷ついたら… そう思うと怖くなった
でもこのまま何もしないのも違う気がして…
心の奥底に沈んだ澱がゆっくりと広がっていくのが分かる
そうして重くなった足を動かしていたらふと声が届いた
「あ、もしかして君が蚊帳ノさんかな?」
「あ、えと… はい…」
黒服の見知らぬ男の人に声をかけられる
私よりずっと背が高い、年齢は二十代くらいだろうか
「はじめまして 僕は喪黒って言って新聞記者なんですけどね」
そう言って喪黒と名乗ったその人は名刺を手渡した
「あ、えと ありがとうございます…」
「あ、そんな身構えなくていいですよ 少しだけお話を伺いたかっただけなので」
喪黒さんはそういうと手帳を取り出して訪ねてきた
「蚊帳ノさん… この人のことご存じですか?」
まるで刑事ドラマみたいに写真を見せられた
そこに映っていたのは制服を着た男の子…何日か前に私と雛鳥さんを襲った彼だった
「…一応、知ってます」
「あ、えと… 一応…」
一瞬、知らないって答えそうになったけどなんとなく本当のことを言ったほうが良い気がした
「…嘘は吐いてないみたいですね」
「あ、えと…」
「あー いやすみません こっちの話なんですけどね…」
喪黒さんの雰囲気が変わったような気がしたけどすぐにもとに戻った
「それでですね こちらの彼、伊藤誠さんについて何か変わったこととかありませんでしたか?」
「…特になかったと思います」
変わったことと言われても彼と会ったのは二回だけだし名前だって今初めて知ったぐらいだった(正直、もう会いたくない)
「そうですか…」
「何かあったんですか?」
「それがですね 亡くなったんですよ… 彼」
「えっ……」
亡くなった? そんなまさかと思う
少なくと三、四日前に会ったばかりなのに亡くなっているなんて
というかどうして? いったいどこで亡くなったんだろう
頭の中にたくさんの疑問符が浮かんでくる
「やはりご存じなかったようですね まだ断定はできませんが自殺とみられてます」
「自殺…」
その言葉に真凛のことを思い出してしまう
こんなにも身近にその言葉を聞く機会があるなんて
非日常的な言葉なのに現実に起こりすぎて頭の仲が真っ白になりそうだった
「それで私たちとしてはなぜ自殺してしまったかの動機を追っていまして、蚊帳ノさんに思い当たることがあれば教えて頂きたいなと…」
「あ、その…」
彼が自殺した動機なんてほとんど思い浮かばなかった
ただもしかしたらこの間、会った時の私の行動が原因じゃないかと不安になる
あの時会ったことを全て話してしまおうとしたその時、ふと気がついた
「あの… どうして新聞記者の方がそんなことを聞くんですか?」
普通、こういうのは警察か探偵が聞く話のはずだ
喪黒さんは自分のことを新聞記者だと言っていた、たしかに名刺ももらったし間違いはないだろうでもだとしたらなぜ…
「ああ、すみません 説明が不足していて 実は今回の件は伊藤さんのご家族からの依頼で行なっているんです」
「家族の依頼ですか?」
「はい なんでも伊藤さんはあまりよくないお友達と交流があったらしくそれが原因ではないかと彼を侮辱するような噂が流れているそうなんです それで本当の自殺の動機を調べてそのい噂を止めてほしいと依頼されたんですよ 弊社は小規模な地方新聞なので時々、こういった探偵的な仕事も格安で受けているんです」
「なるほど…」
たしかに彼は(月島くん以外の)悪そうな人と一緒にいたし、唐突に自殺なんてしたらよくない噂を流されるのも納得してしまう
でもだからって亡くなった人を悪く言うのはどうかと思うけど…
「疑ってすみません… 伊藤さんとはそこまで仲がよかったわけではないので分からないです… お役に立てずすみません……」
たしかに彼には酷いことしかされた記憶がないけどそれでも残された家族の気持ちを思う
と多少は胸が痛んだ
だからせめて聞かれたことぐらいには素直に答えようと思った
「…そうですか」
「すみません 何も分からなくて…」
「いえいえそんなことは むしろ協力していただけてとて助かりましたよ」
そう言って喪黒さんは頭を下げた
「あの、伊藤さんが亡くなったのって最近なんですか?」
「ええ、四日ほど前ですがどうしてですか?」
「あ、その… 喪黒さんからお線香の匂いがかすかにしたので… あと菊の花とユリの香りも… 服装も黒っぽいスーツですけどネクタイの柄が少しスーツに対して派手なので喪服のネクタイだけを取り替えたのかなと思って… 僅かにですけど袖口に花粉みたいなものがついてますし… もしお葬式かお通夜の帰りなら伊藤さんが亡くなったのは最近じゃないかなと思っただけです…」
思わずやってしまったと思った
まるで探偵気取りかなんなのかちょっと気が付いたことがあるぐらいでこんなにも偉そうに語るなんて…
まるで厨二見たいで恥ずかしい…
そんな私を見つめて喪黒さんの表情はあっけにとられてるみたいだった
ヤバっ 絶対に引かれた…
「なるほど… やはり貴方は…」
「あ、その…」
蛇のような目で見つめられて背筋がぞっとする
身体全体が固まって上手く言葉が出せないでいると背後から声がかかった
「あれ? 蓬ちゃん?」
そう言って何食わぬ顔で現れた彼女は人とのコミュニケーションで息詰まった私の救世主
雛鳥さんだった…




