第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第二十六節
これが私たちのバンドだ
最終的に集まってくれたお客さんは六人だった
みんなの前に立ち改めて状況を理解する
心臓の音が早くなるのが分かる
大倉くんはまだ来ていない そのことに対する不安と焦りもあった
開始時刻まで残された時間はもうない
綾乃が一人一人に目くばせしてマイクの前に立った
「はじめまして 私たちは… 一年生バンドです… まだバンド名もないし一曲だけですが今日は精一杯頑張るので… よろしくお願いします!」
綾乃の挨拶とともにギターを構える
途端に頭の中が真っ白になった
正確には失敗したときのことを考えてしまった
もし音を外したら? タイミングを間違えたら? そもそも大倉くんがいないのにバンドはできるの?
頭の中に広がる不安は止まらない
霧のように広がって、先が見えなくなった思考の中で私は…
その瞬間、ふいに扉が開いた
全員の視線が入って来た人物に集まる
この学校では珍しい学ラン姿のその人は自分が注目されてるなんてそんなこと気にしないで私たちのもとにやって来た
そして荷物を下ろしベースを取り出す…
「悪い 遅くなった」
最後のバンドメンバー 大倉龍弥が合流した
アンプの電源を入れて大倉くんが準備を始める
チューニングをしてアンプのノブを迷うことなく回していく
「まったく スマホぐらいちゃんと見ろよ」
「…悪かったな」
呆れたような天城くんの言葉に大倉くんは呟く
その言葉は遅れたことに対してとこの間の喧嘩に対する言葉にも聞こえた
「はあ 全然来ないから始めるところだったんですけど」
「…ギリギリまで待ってたんだろ」
「っ… まあ 一応、バンドメンバー…なんでしょ?」
真凛の言葉に大倉くんは静かに頷く
「間に合ってよかった」
「…遅れた分は演奏で取り返す」
綾乃の言葉はそんな返答を
そして…
「蚊帳ノ…」
「大倉くん…あのっ」
「少しいいか?」
大倉くんは私の使ってるアンプからシールドを引き抜いた
そして鞄から取り出した何かをもう一つのシールドでアンプと繋いだ
それからギターに繋がれたシールドとも繋いで
「あの…これは?」
「エフェクターだ」
そう言って床に置いたそれを足で踏んだ、するとアンプから小さなノイズが聞こえだした
「あ、えと…」
「そのままでいい 朝霧、始めるぞ」
「遅れてきて仕切りだすとか龍弥らしい…」
少し苦笑いした綾乃の表情はしかしさっきよりも和らいでいた
「えーと中断してしまってすみません 改めて一年生バンドです! 私たちは今日、この五人で演奏します 失敗するかもしれない、上手くいかないかもしれないそれでも最後まで精一杯頑張るのでよろしくお願いします!」
振り返った綾乃は再び一人一人の目を見た
不思議と緊張は和らいでいた
心臓の鼓動は落ち着いている
綾乃が真凛が天城くんがそして大倉くんがいる
それだけでこんなコミュ障で陰キャな私でもぼっちじゃないと思える
こんな私にだってバンドはできると思える
だからそれを証明するためのライブが今、始まる
響くベースの重低音とバスドラムの振動が共鳴する
約三秒のカウントのあとパワーコードをかき鳴らした
練習の時とは違う重く深く歪んだ音
まるで自分がプロのギタリストになったようなそんな風に錯覚してしまうような音
きっと大倉くんが貸してくれた足元の機械のおかげだろう
でも今は関係ない 遅れないように走らないようにリズムを維持する
イントロが終わって綾乃の歌声が響いた
透き通るようなそれでいて芯のある声
聞き入ってしまうようなそんな声に旋律を被せた
二重、三重、四重と重なった旋律はやがて四重奏を描き
そしてピークを迎える
音は重なり混ざりあいそして…終幕を迎えた
「っはあ はあ はあ …ありがとうございました!」
沈黙が流れた
でもそれは長くは続かなかった
小さくてまばらな拍手の音が聞こえる
そして…
「よかった」
「あ、えと…」
歩み寄ってきた男性はそう一言口にした
「たったあれだけの時間でよくここまでやったものだ… 正直に言えばあまり期待してなかったんだがな」
「あ、ありがとう…ございます」
その人は蓮見先輩のほうを向いて言った
「蓮見…」
「はっはい!…」
「合格だ… 廃部の件はナシにする それと一年の手本になるようにせいぜい心がけろ 以上だ」
そう言い残してその人は音楽室を後にした
それから残っていた数人のお客さんが帰ってからだった
「よかったよー みんなー なんか生徒会長も褒めてたし!」
「もしかして… あの人が生徒会長ですか?」
恐る恐る尋ねてみた すると
「あ、うん そうだよ いやー怖いよねー」
途端に眩暈がして倒れそうになった
「蓬ちゃん!? 大丈夫!?」
綾乃に抑えられてなんとか立ち直る
「あ、うん ごめん」
「まあ疲れただろうし仕方ないよ」
綾乃に支えられながら椅子に座った
ライブの余韻も束の間、大倉くんと天城くんは後片付けを進めていた
「アタシも手伝うよ…」
「いいよいいよ 今まで散々迷惑かけたからさこれぐらいやらないと まあ龍弥ほどじゃないけど…」
「うるせーな 口より手を動かせ」
なんとなくだけど二人の関係も元通りに戻ってるみたいで安心した
「てことで一年ズ これから打ち上げいくよー」
「ほんとですか!?」
やけに綾乃が食いついた
「うんうん やっぱり打ち上げは大事だからねー 男子も行くでしょ?」
「あ、ハイ もちろん参加します! ついでにコイツも」
「おい 俺は行くなんて一言も…」
拒否しようとした大倉くんを天城君がなだめた
打ち上げ… ザ・陽キャなイベントに馴染めるか不安がありつつでもどこかワクワクしていた
「それじゃあ 打ち上げ行くぞー おー」
「おー」
先輩と綾乃が意気揚々と歩き出して私たちは二人についていった
私はこの時、見落としてしまっていたんだ 彼女の様子がおかしかったことを
26.5 迷い込んだ雛の行き着く先は…
誰もいない生徒会室に忍び込む
この日は蚊帳ノたちがライブをする予定になっている日だ
会長と書記はライブを見に行くことになっているし他の生徒会メンバーは掛け持ちしてる部活や委員会でここには来ない
そもそも活動予定のない日にこんなところを訪れるのはそれこそ会長ぐらいだった
目的はただ一つ、会長のデスクにおかれたノートパソコンの電源を入れる
パスワードは誕生日、生真面目な性格の会長もこの辺りは鈍感らしい
持参したUSBを挿し込み準備する
ハッキングだとかプログラミングに精通してるとかそういった技術はない
しかし理路整然と整理されたファイルの中から目的のそれを見つけるのにさほど時間はかからなかった
『桜水高校裏掲示板対策書』
そう書かれたファイルを見つける
桜水高校裏掲示板全ての元凶…
今の生徒会長がそれを調べていることを知っていた
けれどそれはあくまで極秘裏に行割れている
だから生徒会メンバーそれも副会長でさえ知らない
けど自分にはこのファイルが必要だった
でもそれを安全に誰にも見つかることなく手に入れるのは困難だ
だから蚊帳ノたちを利用した
全ては雅のために
ファイルを開こうとしたらパスワードが要求された
さっきと同じ会長の誕生日を入れてみる
違った…
さすがにそれはないかと思いつつもう一つの候補を入力…
あっさりと開いた
「そういうことか…」
どうして会長がここまでするのかなんとなく分かった気がした
それからファイルをUSBにコピーして生徒会室をあとにする
ここに復讐者・雛鳥詩草の目的は達せられたのだった




