第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第二十節
その魔女、最強につき
「念のためさっきのメモもう一度、確認してもいい?」
「あ、はい」
雛鳥さんに言われて行先の書かれたメモを渡した
「ありがと 覚えてはいるんだけど迷子に鳴ったらヤバいからさ」
雛鳥さんはメモを確認しながらスマホの地図アプリと照らし合わせた
本当ならスマホのアプリを使ったほうが早いんだけどあの劇場はだいぶ前に廃墟になっていたらしく地図にも乗っていなかった
「うん 大丈夫そうだね 行こっか」
そう言って私の手を掴み路地裏に踏み出した
ここまで来た以上、もう逃げられない 私が観念したことが分かったのか駅についた辺りから雛鳥さんは腕を掴むのはやめて手を握ってくれた
その小さくて温かい手に引かれながら路地裏を進んだ
そして あと一歩というところで道が阻まれた
「あれ? ヨモギちゃん?じゃーん 奇遇だねー」
正面に立つ三人の人影… 以前、月島くんと一緒にいた人だ
今日は月島くんは一緒じゃないみたいだけどいかにも陽キャ…というより不良みたいな人が二人もいた
「あ、その…」
「蓬ちゃんの知り合い…ではなさそうだね」
雛鳥さんの握る手が強くなった
「いやーこないだは急に帰ってごめんね― ところで今日はこれからどうかな?」
「あ、その…」
「悪いんだけどボク達、これから用事があるんで」
「お前には聞いて… てかそっちの子もなかなかかわいいじゃん ね、キミもどう?」
私を庇おうとしてくれた雛鳥さんまで目を付けられた…
どうしようこのままじゃ雛鳥さんまでひどい目に…
「どうって なにする気?」
「そりゃ楽しいことだよー まあ俺らも三人だしさヨモギちゃん?一人だけだと物足りなかったんだよねー ブスには興味ないしキミならちょうどいいかなって」
「へー いかにもどっかの悪役みたいなこと言うんだね…」
雛鳥さんは引き下がろうとしない
このまま逃げても路地裏からすぐには出られないしこの場でどうにかするしかないけど…
それでも雛鳥さんだけならまだ逃げられる可能性があった
「雛鳥さん…私なら大丈夫だから… 逃げて…」
小声でそう呟く すると雛鳥さんは
「ここでボクだけ逃げても無駄だよアイツら三人もいるからすぐ捕まるし途中で迷子になったらどのみちアウト…」
「でもっ!」
何もしないでされるがままより少しでも助かるほうに賭けるべきだと言おうとして
「大丈夫! ボク強いから」
そう言って掴んでいた私の手をほどいて一歩前に出る
「蓬ちゃんはじっとしててね」
「雛鳥さん!?」
「なになに? もしかして喧嘩でもする気? 女の子が俺らに勝てるわけねーし大人しくしてたらちょっと痛い目見るだけで済んだのに」
そう言って三人の男性が雛鳥さんの前に立ちはだかる
両脇にいるがたいの良い二人が上着を捨てて拳を握った
「はぁ ほんと悪役のテンプレみたいなことしか言えないんだね」
雛鳥さんはため息を吐くと鞄を地面に下ろした そして
「そういうのってフラグなんだよ」
魔女は嗤った
瞬間、殴りかかろうとした二人を同時に躱し一人に蹴りをもう一人にはいつの間にか手に持ってた氷をぶつけた
派手に吹き飛んだ二人の巨漢はまるで漫画みたいに壁に打ち付けられた
「つよっ…」
思わず声が出る
そもそもあれだけの体格差のある二人を同時に制圧してる時点で驚きだ
でも驚いてるのも束の間、蹴りを入れられた巨漢は立ち上がり後ろから不意打ちを…
入れられなかった
殴りかかるタイミングで強烈な蹴り… それも急所(股間)を貫いていた
(さすがに同情するというかなぜかゾっとした ……なぜか)
おそらく一番ヤバいところにクリーンヒットを決められた彼は唸りながら倒れた
「まあこんなものかな ……怠っ」
汗一つかかず息も切らしていない状態で雛鳥さんは唯一立っている彼を睨んだ
「で? お仲間はノびてるけど どうする?」
「っ マジかよ」
踊りた様子の彼は近くに落ちていた割れたガラスの破片を手に取った
そして
「えっ?」
私の背後に回り込んで首元にそれを押しあてた
「コイツがどうなってもいいのか!」
本来ならテレビでしか聞かないような台詞だ
でも現実で… まさかこんな近くで聞くことになるなんて…
「そんなことしてどうする気? そっちがその気ならもう手加減しないよ」
「うるさい! いいからさっさとここから出ていけ!」
すぐ耳元で聞こえる怒鳴り声に驚いて目を瞑る
そしたらチクリと左腕が痛んだ
どうやら振り払われたガラスが左腕をかすかに抉ったらしい
痛みとともに血が滲んだ
「お前っ…」
「いいからさっさとしろよ でなきゃコイツがどうなるか分からないぞ!」
どうしてだろうこんな状況なのに典型的な台詞しかはかないこの男に嗤いがこみあげてくる
いわゆる人質に取られてるのになんだかすごく冷静で…
奥の手を使うのに躊躇わなかった
「いいからさっさと……」
少しだけ私の身体から手が離れた瞬間に抜け出した
普段は運動神経も良くないのにこんな時ばかり上手くいいくなんて
「なっ なんなんだよ!」
「ねえ知ってる? こんな私にでも使える武器…」
「は? 武器? そんなものあるわけ…」
次の瞬間、男の持っていたガラスの破片は真っ二つに切りとられた
男があっけにとられていると彼女はそれを男の喉笛に突きつける
「カッターだよ これなら小さくて軽いし 職質されたも怪しまれにくい」
「なっ なにを言って…」
「葉が折れやすいのが欠点だけどそこは強化すれば真剣にだって匹敵する」
その刃は普段、見慣れた文房具のそれと同じ見た目のはずなのになぜか魔力を帯びたように輝いていた
「君には選択肢が二つある 一つはこのまま大人しく消え去るか もう一つは…」
この時まで雛鳥さえも気が付いていなかった
まさかこの場所に自分以外にもう一人…
「この場で私に殺されるか」
魔女がいたということに…




