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第一章 二千十八年の君へ 第六節

暖かな「ひかり」があるからこそより「かげ」は色濃く鮮明に写しだされて…

体験入部が中止となり早々に帰ることになった私は結局、乗ろうとしていた電車に乗れず二時間近く駅で待ちぼうけをくらった

まあ学校の近くにも多少は時間を潰せるところはあったけど桜水の生徒が多くてやめた


「ただいま~」

そういって私は駅まで迎えに来てくれた叔母さんの車に乗った

自宅がある場所は店一つないド田舎で駅まで十キロ以上離れているため車で送迎してもらう必要があった

幸い、家には母だけでなくひいおばあちゃんとその介護をしている叔母さんがいる

朝は出勤前の母に送迎してもらい、帰りはひいおばあちゃんを祖母か中学生になったばかりの弟が見てくれる

駅も車なら十分ちょっとで往復できるからそこまで負担にはならないとそう言ってくれることに感謝しながらも結局は甘えているんだろうな

「おかえり~ 新入生歓迎会はどうだった?」

「え、ああ 別に普通だったよ 行事とか部活とか紹介されてさ まあ正直怠いなと思ったけど、でもまあ中学の頃に比べたらマシかな」

「そっか 部活はどう? 何かやりたいこととかないの? 運動部はさすがに厳しいだろうけど文化部なら私からも姉さんに相談するよ」

「ありがと でもまあ うん……」

音楽部のことやギターのことを話そうか迷ったけど言葉に詰まる

勢いで体験入部に行ったけど部活に入ると帰り遅くなりそうだし、ギターを始めるにしてもお金がかかる 

まあ色々と複雑な家庭環境だけど私や弟の生活費と教育費には困ってない

それも援助があってだからあまりむこうは頼らないほうが良いんだろうけどお母さんは私たちのことを大切にしてくれてるから私が何かやりたいって言ったら迷わず動いてくれるだろうな

でも

「ん? もしかして気になる部活でもあった?」

「ああ、うん 私は特にないかな ところで若菜は?なんか部活したいとか言ってた?」

「ワカはバスケ部に入るみたいだよ」

「ああ、そっかあの子バスケしてたもんね」

私の一応、血のつながった弟 蚊帳ノ若菜は私と違ってデキが良い

つい最近、中学に上がったばかりだけど成績が良いからと遠方の私立中学に入った

もちろん中学受験を受けてだ

バスケをしてたからかうちの家系にしては背が高いし運動神経も良い

私と違って病弱じゃないしむしろ優良健康児そのもので

病的に痩せてる私と違ってスリムだけど筋肉があって

性格も良いし(私には別だけど)社交性もある陽キャで

なにより私と違って心臓の病気なんて持って生まれてきてない


分かりやすく言えば私の完全上位互換なんだ

だから優先されるべきは弟のほうで病気のことで幼いころに散々手を焼かせた私はもっと自重しないと釣り合いが合わない

家族はみんな平等に接してくれるけど 私はお姉ちゃんとして若菜に譲らないといけない


叔母さんはどこか私の態度というか話し方に違和感を覚えつつも話しの途中で家に着いた

「ああ、あと今日は少しうるさいかも」

「分かった… とりあえず部屋で大人しくしてるね」

「いつもごめんね」

「いいよ もう慣れたから あとお迎えありがとうございました。」

そう言って車を降りた私は少し離れた車庫(使われてない小屋)から庭を歩いて家に入った

そのまま一階の自室に入り鞄を下ろして着替えを済ませる

ファッションに無頓着な私の部屋着は中学のジャージでそのまま畳んだままの敷布団に倒れこんだ

今日は色々あったけどとにかく疲れたな

スマホを眺めてニュースサイトを確認する

アニメやゲームの話題、あと都心部で起きた事件のまとめを見る


 高校生になってスマホを買ってもらったもののいまだにスマホの必要性は分からない

どーせクラスのグループLINEにすら入れない陰キャだ連絡ツールならガラケーかポケベルでも良いと思った

そもそもSNSが原因のトラブルとかいじめとか怖いし

でも今時、スマホを持ってないのはさすがにマズイ 『高校生になってやっとですら遅かったのではないか?』とまで言われてやむなくスマホを持つことに

ちなみに弟も通学で電車を利用するためスマホを買ってもらってたけどめちゃくちゃ喜んでた


 特にすることもなくなってぼーっとしている

でも頭からギターのことバンドのことあと小林さんや朝霧さんにバンドを組まないかと誘われたことが何度もよぎった

言葉では上手く表せないけどとにかく胸の奥に何かが霧のように広がっていて

どうしようもなくなってスマホで『ギター 初心者』で検索していた

でてきたのは通販サイトのギター初心者セットのページ

あとはギター教室の宣伝やギターの選び方について

ギターの挫折する確率まででてきた

私の性格上、あまりネガティブな意見や話題を見てしまうと興味があることでも諦めてしまうんだけどとにかく隅々まで調べ上げた

ギターの種類から練習方法、挫折する理由に割合、それから……

「蓬 ごはんだってさ」

「あ、ああ若菜 呼びに来てくれたの?」

「さっきから読んでたけど全然返事しねーじゃん 珍しく集中してたの?」


弟の若菜が夕食の時間だと呼びに来た

私が寝転がっているってのもあるんだろうけどまた背が伸びたような…

「こないだまで私よか小さかったくせに もう同じくらいじゃん」

「そりゃそうだろ成長期だし てかこれでもまだ小さいほうなんだよ」

もともと病気があった私は身長はさほど期待できないと言われてたけどそれでも158センチまで伸びた(その分胸は成長してないけど)

でもつい最近まで小学生だった弟はもう私と同じくらいにまで伸びている

「だいたいさ もうお姉ちゃんって呼ばないの? 最近二人の時だけ呼び捨てじゃん」

「んな子供っぽい呼び方しねーよ」

「子供じゃん」

小学校三年生ぐらいまではかわいげがあっていつも『お姉ちゃん』なんて呼びながら私の後ろをついて来てたのに

ちょっと鬱陶しく感じたこともあったけどそれでも

「そもそも姉って感じしないし」

「姉の威厳!」

そんないつものやり取りをしてから台所に行ってごはんを食べた

それから少しして

「ただいま~」

母が帰ってきた

「おかえり」

「蓬~ 学校どうだった? 友達できた? 部活とか決まった?」

「あー えと」

私のお母さんは言ってしまえば陽キャだ まあそれもそのはず若い頃に海外へのホームステイ経験があるとか言ってたし(真偽不明)

今では週に何度か塾の採点作業に行っている

なぜこの人から私みたいなコミュ障陰キャぼっちが生まれるのか

お父さんもどちらかといえば……いやたぶんがっつり陽キャだ(一緒に暮らしてないけど)

「母さん、そんな一気に聞いても答えられないと思うけど 姉ちゃん陰キャだし」

「え、ああごめんね蓬」

「あ、ううん別に」

弟よ ナイスフォロー 一言余計だけど

「学校はまあ楽しいよ 友達はまあまあかな 部活は特に気になるとことかなくて」

「嘘つけ 学校はそんな楽しくないし 友達もできるわけない 部活はなんか気になるとこあるんだろ」

「え、そうなの?」

弟よ なにしてくれてんだ 人がせっかく取り繕ったのに 

「若菜が言ったことは気にしないで 私は楽しいと思ってるし 今日もクラスの子に話しかけられたんだよ(嘘は言ってない)」

「どうせ挨拶されただけだろ それか邪魔って言われたか」

弟よ 真実はいつも一つだが時に真実は人を深く傷つけるんだぞ by姉


「とにかくこの話はこれでおしまい 私はお風呂入って自分の部屋に行くから」


これ以上、真実を冷酷な探偵気取りの弟にバラされる前に自室へ急ぐ


「ねえ蓬、部活 気になるとこあった?」

「へ?」

お母さんに呼び止められてというか呼び止められた理由におどろいた

学校が楽しくないとか友達ができないとかじゃなくて部活のこと?

「中学の頃はお医者さんにも言われて好きなこととか興味のあった部活は全部ダメだったでしょ? 運動部とかはさすがに厳しいかもだけどできる限り蓬のやりたいことしてほしいなって もちろんほんとになければ良いんだけどね」

「そういや姉ちゃん、今日帰り遅かったよな 電車乗り遅れたの?」

ここでまた取り繕って いや嘘を吐くのは簡単だ

でもなんとなくもう観念したほうが楽な気がして  ほんとに弱いな

「実は……」

全部話した


「音楽部⁉ ギター⁉ 」

「やっぱりダメだよね……」

「いやむしろ全然良いよ なんか運動部とか言われると思ってたし」

「え、でも」

「カッコいいじゃん 入りなよ 明日は体験入部あるんでしょ 何時まででもいいから行ってきな‼ 」

「でも迎えに来てくれるのは叔母さんだし」

ふと叔母さんのほうを見やると『モーマンタイ』と言いながらサムズアップ

あ、逃げられないやつだこれ

「わ、分かった 明日だけ 明日だけ行って見るから!」

そう言い残して何とか自室に避難した


それからお風呂に入ろうと台所の前を通ったらまだ私の話をしていた

『やっとやりたいことが見つかったのね』とか『ちょっとでも高校が楽しそうで良かったわ』とかお母さんと叔母さんそれにおばあちゃんまで口々に話している

音楽部に入るかもなんて期待させておいて裏切ることになるのは辛いけどこのまま流されるように入ってまたあの時みたいな地獄になるよりはマシかな…


お風呂から上がって布団を敷き、眠りにつく


意識がゆっくりと暗闇に落ちそして見る夢は


中学一年生も頃にあったいじめの再演だった


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